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にがい勝利(1957)AMERE VICTOIRE

2021.08.23 11:57

〈プレスより〉


スタッフ

製作…………………………ポール・グレッツ

監督…………………………ニコラス・レイ

原作…………………………ルネ・アルディ

脚色…………………………ルネ・アルディ、ニコラス・レイ、ギャバン・ランベール

台詞…………………………レイモン・クノー

撮影…………………………ミシェル・ケルベ

音楽…………………………モーリス・ルルー

録音…………………………ジョゼフ・ド・ブレターニュ

美術…………………………ジャン・ドーボンヌ

編集…………………………レオニード・アザール


キャスト

ブランド少佐………………クルト・ユルゲンス

ジェイムズ・リース大尉…リチャード・バートン

モクラーヌ…………………レイモン・ペルグラン

ジェーン……………………ルス・ローマン

ルッツェ……………………フレッド・マター


梗概

 一九四二年、アフリカのリビアでは、イギリスとドイツの派遣軍が、広大な砂漠をはさんで対峙していた。イギリス軍司令部では、ベンガジーにあるドイツ軍司令部がもっている、作戦上の重要機密書類を手に入れようと作戦をねっていたが、結局、小人数による特別工作隊を編成して、敵司令部を急襲させることにした。

 この工作隊の隊長に選ばれたのは、軍隊生活は長いけれど実戦の経験が全くないブランド少佐であった。彼は栄達のみを願う小心よくよくの職業軍人で、こうした危険な任務につくことには自信がなかったが、たまたま、本国から彼のあとを追って来た妻ジェーンの姿を見ると、彼女に対する虚栄心がわいて、この重大任務を引受ける決意をかためた。

 副隊長に選ばれたのは、戦前から考古学の研究のためにアラビア語にも地理にも詳しいジェイムズ・リース大尉であった。彼はブランド少佐とはおよそ反対の性格の持主で、志願で従軍している予備役将校、職業軍人に対してこの上ない反感と軽蔑の念を抱いていた。そのリースは、かってジェーンと熱烈な恋をした仲であったが、感ずるところがあって彼女の前から姿を消した過去があった。

 ナイトクラブでジェーンをリースに紹介したブランドは、この二人の言動から鋭くも過去の関係を知り、リースに対して半ば病的なまでの憎悪を抱くようになった。

 さてブランド隊長以下三十名の工作隊は、最終的な作戦と手順の打合わせを終り、輸送機で運ばれてベンガジー近くの砂漠に降下した。彼らは直ちにアラビア人に変装し、リース大尉の長年の友人であり腹心の部下であるアラビア人モクラーヌの案内で、いよいよ、敵の本拠であるベンガジーの部落へ侵入した。ドイツ軍司令部に接近した隊員は、ブランドが歩哨を刺殺するのを合図に行動をはじめ、司令部の一室に保管されている金庫から、目ざす書類を盗み出して引揚げることになっていた。

 ところが、いざとなると、ブランドには目の前の歩哨を殺す勇気もなくふるえていた。これを見かねたリースが、ブランドに代って歩哨を刺殺して行動は開始された。隊員たちは手榴弾と軽機関銃で敵を射殺しながら烈しい肉迫戦を展開した。そして、目的の書類を手に入れると、いち早く部落を出て砂漠の中で集結した。

 ここで軍服姿にかえった隊員は、急を知って追って来た装甲車部隊と激戦を交わし、双方ともに多数の死傷者を出したが工作隊員の勝利となり、敵参謀部のルッツェ大佐を捕虜にした。あとはイギリス軍司令部まで、砂漠の中を歩いて四日の行程だった。

 死傷者は出したが無事に自分にあたえられた任務達成となると、軍人としての栄達は目の前にぶら下ってはいるが、そうした卑屈な職業軍人的な野心と、この作戦中の自己の言動と小心さに、絶えず冷笑を向けているリースの存在は、妻ジェーンとのこともあって、ブランドの病的な憎悪と脅迫観念が急に大きった。彼は出発にあたって敵味方の負傷者の面倒を見させるために、リース大尉に残留を命じた。

 リースはブランドの底意を知って、負傷者のうめき声を聞きながら不気味な砂漠の一夜を明かしたが、夜が明けると危険は彼自身の上にも迫って来た。彼は負傷者を射殺して追及することにした。

 まず、リースは必死になって命乞いをするドイツ兵を射殺した。次いで味方の負傷兵に銃口を向けたが、幸か不幸か不発だった。リースは負傷兵を肩にかついで出発した。モクラーヌが途中まで迎えに来ていたが、負傷兵はリースの肩で死体となっていた。一方、ブランド以下の工作隊は、どこまでも砂丘の続く灼熱の砂漠を、疲れと渇えにあえぎながら、ラクダをもった友軍が待っているはずの古都の廃墟へと行進を続けていた。だが、やっとたどりついた廃墟で彼らが発見したのは、友軍の惨殺死体と空になったドラム罐だった。そんなところへ、リースとモクラーヌがたどりついた。リースはブランドに向って、彼をただ一人おき去りにしたことを責めたが、ブランドは任務と職責を盾に言い訳をした。

 モクラーヌが発見した一頭のラクダに勢いを得た隊員たちは、重い書類をラクダに積んで出発した。暑さと渇えの苦しい行軍が続いた。その彼らが井戸を発見したとき、自から求めて毒見をしたのはブランドだった。リースは隊長としての軽卒さを指摘して冷笑した。二人の冷い反目は最高潮に達した。

 やがて彼らが小休止で熱い砂の上に身を横たえていたとき、ブランドの足もとに猛毒をもった一匹のサソリがはいよった。彼は恐怖に青ざめてサソリを追った。サソリはリースの足もとへはって行った。そして、ブランドの見ている前でリースのズボンの中にはいこみ、彼の脚に死の針を立てた。その痛さに堪えかねて七転八倒するリースを、ブランドは冷い目を光らせて見ていた。隊員たちは、ブランドが直接手を下さずにリースを殺そうとしていることを知った。

 リースはブランドからさし出された水筒を投げすてると、その手にナイフをにぎらせたが、臆病なブランドにはリースの傷口にナイフを立てる勇気はなかった。リースはそのナイフを奪いとると、自らの脚に突き立てた。モクラーヌが傷口を吸った。しかし、サソリの猛毒は刻々とリースの体内にまわって行った。モクラーヌは、人知れずラクダの腹にナイフを立てて蔵物を取り出し、拳銃をかまえて怒るブランドの目の前で、蔵物の汁をリースに飲ませた。しかし、これとても毒のめぐりをおそくするだけの効果しかなく、リースの死は時間の問題だった。

 リースは兵の力をかりて出発した。日が暮れて隊員たちが寝しずまったとき、モクラーヌは短刀をふるってブランドを殺そうとしたが、逆にブランドのために射ち殺されてしまった。

 翌日、リースの容態が急変した。死の迫ったことを知ったリースは、首にかけていた認識票をはずしてブランドに返すと、「自分が姿を消したのは間違っていた。やはり、二人は結婚すべきであった」とジェーンへの伝言をたのんだ。ブランドはリースをのこして出発を命じたが、おりから猛烈な砂嵐が起った。ブランドはリースと折り重なって砂に埋れていた。嵐が去って砂漠がふたたび静寂にかえったとき、リースは息絶えていた 。

 ちょうどそのころ、砂丘のあいだにイギリスの救援隊て来た。隊員たちは狂気して友軍の車にかけよった。この隙に捕虜ルッツェは、隊員がおいて行った書類袋に火をつけた。これを見てあわてたブランドが必死になって火を消しとめた。

 かくしてブランド隊長以下生存者十名の工作隊が大任を果して帰還し、その功績は高く評価されて、ブランドは勲功章を授与されることになった。ジェーンはリースの最後の有様を聞かされ、夫の卑劣さを今さらながら知って去って行った。隊員たちもブランドへの冷笑をのこして出て行った。勲章を手に一人とりのこされたブランドは、妻の愛も部下の信望をも失った惨めな自己の姿に、しばし物思いにふけっていたが、やがて勲章を訓練用の人形の胸にとめつけると、梢然として部屋から出て行った。


解説

 この作品は別項に紹介したごとく、米英独仏の一流製作スタッフと演技者を集めて、アフリカへロケをして作られた大作で、五七年度ベニス映画祭に出品されて絶賛をはくしたものである。原作はフランスの作家ルネ・アルディが書いた同名の小説で、五六年に出版されるや、たちまちにしてベストセラーとなったもの。アルディは第二次大戦中は、フランスのレジスタンスのは有力なメンバーの一人で、この原作小説によって「ドゥ・マゴ賞」をうけている。脚色はアルディと監督ニコラス・レイの二人にギャバン・ランベールが協力し、台詞は「しのび逢い」のレイモ・クノーが担当した。

 監督のニコラス・レイは、たまたまルネ・アルディの原作小説を読んで興味をおぼえ、映画化が決定するや自から演出を買って出た。彼はユルゲンス、バートン、ペルグラン、ローマンの四ヵ国のスターを駆使し、リビアの砂漠へのオール・ロケでこの作品を作り上げたが、製作スタッフも出演者も米英独仏伊と五ヵ国から集ったのは初めてのことである。砂丘の続く広大な砂漠をバックに、憎悪に歪められた小っぽけな人間どもが魂い争いをくりひろげるのは、きわめて対照的で、撮影のミシェル・ケルベは、特に天然色を採用せず、黒白シネマスコープ画面に詩情と神秘性の美しい奥行きを出している。さらにこの物語の進展と美しい画面が、「風の女」「赤い風船」の音楽を作曲したモーリス・ルルーの独特の音楽によって、いっそうの効果を見せている。(十一巻。九二三三呎。一時間四三分。)