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WUNDERKAMMER

ショートショート1401~1410

2021.09.13 04:08

1401.宇宙の果てにて君の宇宙服を発見した。旧式ビーコンは弱々しく、近寄りヘルメットを覗いてみると君は居らず、代わりに一輪の百合が花開く所で、『人が生まれ変わるのは凡そ百年』と遠い昔に誰かが言った。相対性理論越しにもう狂いすぎた私達の百年がやっと巡り会えたのだと、この時初めて気が付いた。

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1402.夜汽車に揺られていると籠に林檎飴を入れた旅人がやって来た。きらきらとそれは燃える宝石の様で、一つ買い齧ってみると薄い硝子の様な音が弾けてしゅわしゅわと何か思い出せそうな味がする。「きっと良いお願いを叶えた星です」と旅人は微笑み、次の駅である北斗七星まで私達は思い出だけを語り合う。

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1403.海なんか忘れてしまった様に壜の中できらきら眠る塩達は何色の夢を見るのだろう。付箋だらけの黙示録に虹色のマーカーを引いちゃって、私達次は何を侮辱しようか。楽園林檎の解毒薬を飲み込んで永遠を見せてあげるから悔しがってね神様、もう非常口なんて無いから、方舟の設計図は海に沈めてしまおう。

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1404.月光の中、君は巨大な白いウツボカヅラに姿を変えていた。辺りには魔導書が転がり、涙やキスをしても効く様子がないので私は食べられる事にした。飛び込んだ君の中は少ししょっぱく、キラキラと気泡の弾ける音は一緒に見た星空に似ているという事にして、私はその夜だけを思い出しながら眠っていく。

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1405.氷の張った湖の上にシーツおばけが漂っていた。ずっと昔からいるらしく自分の姿も忘れてしまったようで、「ここに約束があったはずなんです」とぽつり呟いたおばけは目を伏せまた月明かり色の氷の上を海底の様に漂いながら、もみの木が白く染まる中、氷面には空にはない彗星達が静かに降り注いでいた。

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1406.青い光の中目覚めると巨大な水草が空を覆い、どうも眠っている間に街は月明かりに沈んでしまったらしかった。埃の中時計達は沈黙し、地面に揺らぐ影を踏みながら君の家へ行くと相変わらず沢山並んだ本だけが万華鏡のように君の欠片を含んでおり、ベッドの上には読みかけの一千一夜物語が開かれていた。

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1407.気付くと君が漕ぐ小舟にて星空の溶ける水面を漂っていた。辺りにも番のライオンや象、キリンなどが各舟に乗り、「また私達は神様を怒らせてしまったらしい」と君は流れてくる林檎を一つ拾うので、私は今日出す予定だった宿題の答えがわからないまま、頭を残して並ぶ街灯の側には白い蛾達が沈んでいた。

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1408.「鯨を見に行こう」と誘われ月明かりの中丘へ向かった。空には夜色の巨大な鯨達が神様似の青い視線を落として泳ぎ、君と分けたサイダーは名のない星の様に瞬く。とても永遠そうに見えたのだがチカリと東の地平線が燃えた途端鯨は小さな魚の群れになり、崩れながら街の影の中へと飛び込み消えていった。

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1409.夜、ホットミルクに角砂糖を入れると跳ねた雫がおばけとなり、忽ち机は小さな公園になってしまった。かけっこやペン立てで隠れんぼ、ドーナツを出すと皆駆け寄り、これまた小さな食べ跡を残していた。夜明け前には空へと帰ったのだが、それから偶に角砂糖入れを開くと小さなおばけが隠れていたりする。

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1410.北の海に住む独りぼっちのイッカクはここが世界の余白だと知っていた。氷も星も貝殻も何もかもが祈りの様で、その沈黙を独りだけでも覚えていようと探検していたのだが、瞳を閉じたイッカクが銀色の雪の様に沈んでいったその晩、時期外れの満月から海面へ、どの図鑑にもない黄色の花が降り注いでいた。