偉人『ライト兄弟』
空の旅を思うと古い子供の頃が思い出される。機内が薄暗くなる前にイヤフォンを耳に入れ消灯と共にJET STREAMにチャンネルを合わせ、Bobby Vintonの Mr.lonelyと城達也氏の声が聞こえてくるとなぜか大人になった気分。大きな機体を動かす操縦室を見せてもらえたことや鶴のエプロン姿でジュースを配るお姉さんのいい香りの記憶が走馬灯のように甦る。私の心地良い思い出に時代を超えた多くの研究者の結束があるのだが、その中でもライト兄弟無くしては叶わなかったのである。
今回は120年ほど前有人飛行を成功させたライト兄弟の好奇心と探究心をがどう育てられたのかを紐解いていくと同時に、母スーザンの教え忘れの事実にも目を向けることにする。
1867年兄ウィルバー、1871年弟オーヴィルはアメリカの牧師の息子として誕生する。父ミルトンは穏やかで親切心に溢れ教養豊かな人であった。子供達には信仰を強要する事は無く、子供自身が自ら考え行動をし慎ましく好きな研究に打ち込めるようにとだけ願い、母スーザンはドイツからの移住で当時は珍しい女性での大学卒業者である。特に数学にたけていたようだ。
ある日兄弟の友人がそり遊びに興じていたのを目にし、そりを購入する余裕の無いライト家は母の先導のもとそり作りを行った。母は設計図を作るのに苦労している子供を見守り、要所要所でサポートしながら市販のそりよりもスピード感のあるものを親子で完成させた。
ライト兄弟が様々なものを作製した背景には母方の祖父の職人で、その工場で使用している工具などに触れる機会が多かったことが影響している。また父の仕事で転々とする生活で母は子供達のために常に実験できる場所や工作場所を設け、存分に子供の思考を実現できるよう配慮し時にその場所が台所になることもあった。何より母スーザンは以下のことを説き教え続けた。
1.何事も自分自身で考えること
2.難しく困難なことでも小さなステップを積重ねて考え行動すれば可能であること
3.ふしぎだ、どうしてなのかと疑問に感じたことは徹底的に調べる
この教えこそが子供の好奇心と探究心を育てあげたのである。昨今の親御さんに不足しているのは、2のスモールステップで忍耐強く子供の成長する姿を待つことである。子供が苦戦していると安易に回答を導いて教えてしまったり、手助けをしてしまうのだ。自らの手が出そうになれば「待てよ、もう暫く見守ろう」という意識を働かせると子供の解決力は伸びるのである。
成長しても贅沢な暮らしができないライト兄弟は自らいろいろなものを作り生計を立てるようになる。例えば凧を作ったり、当時流行していた新聞記事を兄が書き弟が印刷して販売し人気が出たり、人気に火がつきだした自転車の販売や修理を行うなど物づくりを商売にしていたのである。生活の中での生み出しは幼い頃から成人してもずっと続き形にしていたのである。
そして彼らが飛行機に興味を示したのは父が子供達にお土産として購入してきたプロペラ機の模型がきっかけで空を飛ぶことに憧れを持ち始め長きに渡り持ち続けていたのである。そんな中彼らが尊敬していたドイツ人飛行研究家リリエンタールの墜落事故により彼の失敗と無念を晴らそうと科学技術の宝庫とされるスミソニアン協会に手紙を出し、飛行機に関する資料を全て取り寄せどのようなことが引き金で失敗にしたのかを実験を繰り返し徹底的に調べ上げ研究したのである。
母の教えを実行することで墜落事故には安定性の欠如と操縦の難易度の高さが原因であったことが判明し研究をさらに前進させたのである。
但し母は一つ教え忘れていたことがあった。これは彼らの夢を中断させるに至ったのである。
彼らが1903年の有人飛行に成功したとき、情報を開示しない閉鎖的実験をしてしまったため第三者による評価されなかったことが仇になり、虚偽の記事が出てしまったのである。また時代的に夢の乗り物である飛行機の研究を多くの人が行い、彼らの技術を参考に作られたものに対して訴訟したのである。このような訴訟を多く抱え裁判に時間を取られるようになり、自らの研究と機体の改良を行う時間が無くなったのである。
所謂特許問題に固執するあまり自分たちの重要な成すべきことができない状況を作ってしまったのである。もし彼らが父ミルトンのように慈愛を持ち、飛行技術の研究を他のものと共有することができていれば幸せの連鎖が起きていたのではないだろうか。
兄ウィルバーが45歳という若さで亡くなり、弟オーヴィルは一人での研究や裁判維持は出来ないと判断し、それまで研究や特許などを売ってしまった。そして売却で得た大きな豪邸で一人で過ごしたという。
成功は守るべきもではなく使うものだという言葉があるが、母スーザンは子供達にその意味を教え忘れていたのである。多くの人々にとって必要不可欠になるような情報や技術はある程度共有がなされることにより躍進する可能性を秘めている。水を手でおしやると一旦は自分から離れてしまうが、数秒経つと自分の元へ返ってくる。そんな徳の積み方があることも親は認識しておくべきだと彼らの人生から学ぶことである。