第9女収容所(1960)DEVETI KRUG
〈プレスより〉
★スタッフ★
製作……………スティペ・グルドリッチ
監督……フランツェ・シュティグリッツ
脚本………………ゾラ・ディルンバッフ
脚色……フランツェ・シュティグリッツ
……………………ブラジミル・コチ
撮影……………イバン・マリンチェック
音楽………………ブラニミル・サカッチ
★キャスト★
ルート………………ドシツア・ジェガラッツ
イボ……………………ボリス・ドボルニック
ボイノビッチ…………ブランコ・タティッチ
ボイノビッチ夫人……エルビナ・ドラグマン
ズボンコ…………ドラガン・ミリボエビツィ
マグダ…………………デサンカ・ロンチャク
★解説★
この作品は昨年度アカデミー賞の候補作品となり、六〇年度カンヌ映画祭にも出品され、本国ユーゴスラビアに於ては六○年度プーラ映画祭で劇映画部門の最優秀作品賞を獲得するとともに、シナリオ賞、主演女優賞、音楽賞、助演賞(ブランコ・タティッチ)及び撮影賞を一挙にさらったほどの傑作である。
監督フランツェンツェ・シシュテティグリッツの名はすでにわが国で公開された「平和の谷」で国際的に知られているが、ユーゴ映画界ではウラジミル・ポガチッチと並んで第一線監督陣の中でもトップを占める有能な人である。
主演女優ドシツア・ジェガラッツはこの映画でデビューした新人だが、デビューしたとたんに主演女優賞を受けたほど有望な新人である。ボリス・ドボドボルニックもまたドシツアジェガラッツと同じくニュフェイスの一人である。助演賞を受けたブランコ・タテタティッチは「天の裂け目」(未輸入)にも助演している新進である。なお、この映画の背景となっているのはクロアチア地方の一都市である。
★梗概★
ルートは十七才のユダヤ娘であり、ナチの眼をのがれてザグレブに住む父の友人ボイノビッチの家にかくまわれていた。しかし、いずれはナチに発見され強制的に収容所に送られるであろう。
ボイノビッチは、ナチの手で虐殺された友人へのせめてもの恩返しに、彼女を救う手段について考えをめぐらせた。そして結局、今年十九になる息子のイボと結婚させることにした。ユダヤ人でなくなれば彼女は救われる筈なのだ。深く考えもせずイボは快よく承諾した。二人の結婚式は極く内輪だけで行われたが、噂は町中に拡ってしまった。
ほんの形式だけの積りだったこの結婚式が程なくイボを極度に苦しめることになった。ガール・フレンドはもはや彼を相手にしなくなり、学友達も何かと彼を特別視した。いらだったイボはことごとに両親に反抗し、辛くあたった。
しかし、或る夜のこと、イボの冷い態度に絶望したルートがそっと家を抜け出し、自殺を計るという事件が起った。幸い早く発見されたので一命をとりとめたが、この事件はひどくイボの心に衝撃を与えた。それからのイボはまるで人が変ったかのようにルートに優しくなった。同情が次第に愛情へと変って行き、二人はさゝやかな幸福を大切にしていた。形だけの結婚を願っていたイボの両親は、こんな二人の様子を見て逆に心を痛めた。
そんな或る日、相たずさえて外出した二人は、公園でルートがユダヤ人であることを知っているナチ協力者に会い、さんざん罵倒され、はずかしめを受けた。ボイノビッチにまで迷惑のかゝるのを案じたルートは、その夜ひそかに家を出て何処へともなく姿を消してしまった。
イボは狂気のごとく彼女を求めて町中をさまよった。身の危険も顧みずユダヤ人収容所を訪れては彼女の所在を尋ねた。両親はそんなイボを見て自分たちのとった手段を早くも後悔していた。しかし、イボの決心は変らなかった。そして遂にルートの居所を知ったのだ。「地獄の第九の輪」の呼ばれて恐れられている収容所に彼女はいたのだ。毎日の虐待に見るかげもなくやつれてしまったルートは、忍び込んで来たイボの姿に涙を流して喜ぶが、彼の身を心配して逃げてくれと頼む。
しかし、イボの決心は固かった。どんな危険を冒してもルートを救い出さねばならぬ。闇夜に乗じて二人はそっと屋外に滑り出た。厳重な警戒で殆んど蟻のはい出る隙もない。どれ程の時間が経ったろうか。二人はやっと鉄条網のはりめぐらされた外塀までたどりついた。深夜僅かの間だけこの鉄条網に流れる電流がとまることをルートは知っていたからだ。
時間を見はからって二人は鉄条網にたどりついた。手足を血だらけにしながもイボは外へ逃れ出た。しかし長い収容所生活にすっかり体力をすりへらしたルートにはどうしても鉄条網を乗り越えることが出来ない。再び電流が流れる時間が刻々と迫った。
愛するルートを援けようと再びイボが鉄条網にとりついた時、突然スイッチが入れられた。二人はしっかり手と手を握り合ったまま……。
(十一巻・二六四五米・一時間三十六分)