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BOYS AGE presents カセットテープを聴け! 第22回:トゥモローズ・チューリップス『インディ・ロック・ロイヤリティ・コーム』

2017.02.26 10:00

日本より海外の方が遥かに知名度があるのもあって完全に気持ちが腐り始めている気鋭の音楽家ボーイズ・エイジが、カセット・リリースされた作品のみを選び、プロの音楽評論家にレヴューで対決を挑むトンデモ企画! 


今回のお題は、トゥモローズ・チューリップスの『インディ・ロック・ロイヤリティ・コーム』。カセット人気の火付け役、〈バーガー・レコーズ〉から2016年初頭にリリースされた8曲入りEPです。そのグランジ/スラッカー・ロック/ローファイ・ポップなサウンドは、「カリフォルニアの夏を表現するのにこれ以上相応しいバンドはいない」とも言われるほど。


トゥモローズ・チューリップス『インディ・ロック・ロイヤリティ・コーム』(購入@中目黒 waltz) 


ボーイズ・エイジ Kazと対決する音楽評論家は、このコーナーではお馴染みの清水祐也!


さあ、果たして今回の勝者は?! 


 >>>先攻 

レヴュー①:音楽評論家 清水祐也の場合  


思えばこの作品のレヴューを依頼されたのが昨年の10月。以来、「リリース結構前だし」「EPだし」と様々な理由をつけては原稿を先送りにしてきたのだが、それには訳がある。


トゥモローズ・チューリップスの中心人物は、プロ・サーファーでもあり、以前はジャパニーズ・モーターズというバンドで活動していたアレックス・ノスト。ホワイトフレームのサングラスをかけたその姿は、カート・コバーンそっくりのイケメンだ。「イケメンのプロ・サーファー」。これこそが、自分が彼らを敬遠していた理由に他ならない。「浜辺のペイヴメント」と呼ばれたり、元ソニック・ユースのキム・ゴードンとのデュオ、グリッターバスト名義で〈バーガー・レコーズ〉からアルバムをリリースしたりしているアレックスを横目で見つつ、なんとなく触手が伸びなかったのも、ひとえに「自分とは別の世界の人間だ」という、何とも身勝手な思い込みと嫉妬からである。


しかし、そんな自分も彼らの最新リリースである8曲入りの本作『インディー・ロック・ロイヤルティ・コム』のトラックリストを見て、思わず目を疑った。アルバムの1曲目を飾るのは、我が最愛のサイケデリック・カントリー・バンド、ビーチウッド・スパークスの前身であるファーザーの名曲“クワイエット・ライオット・ガール”のカヴァーだったのである。ジーザス&メリーチェインにおけるボビー・ギレスピーのようなスカスカのスネア・ドラムが鳴り響く3曲目の“ホワイ・アイ・ディドゥント・ライク・オーガスト・93”に至っては、〈サブ・ポップ〉からリリースしていたカナダのノイズ・ロック・バンド、エレヴェーター・トゥ・ヘルのカヴァー。さらには〈Kレコーズ〉のオーナーでもあるビート・ハプニングのキャルヴィン・ジョンソンが、マイクチェックするだけの曲まで収録されているのだ。


そしてこの瞬間、彼らに対するすべての誤解と偏見は消えてなくなった。つまり、彼らと自分は同じ音楽を好んで聴いていたのである。演奏が下手だとか、オリジナリティがないとか、そんなことはこの際どうだっていい。イケメンのプロ・サーファー、大いに結構。トゥモローズ・チューリップス、良いバンド名じゃないか。「インディ・ロックとは一体何か」、そんなことが声高に叫ばれるようになって久しいが、今ならこんな風に言えるだろう。インディ・ロックとは、東京の西多摩生まれのネット・サーファーと、アメリカ西海岸生まれのサーファーとを繋げてくれる音楽だと。


【サイン・マガジンのクリエイティヴ・ディレクター、田中宗一郎の通信簿】 


 ★★★★ 


とてもよく出来ました。つい最近も、その当事者であるダーティ・プロジェクターズのデイヴ・ロングストレス本人の口から、もしかするとインディ・ロックは白人中産階級コミュニティの慰みものに堕してしまったのではないか、という問題提起がなされた昨今、祐也くんの逡巡が伝わってくるような作文でした。


そう、インディという価値観はあらかじめ薄汚いモンキー・ビジネスに堕してしまいがちのメインストリームに対するカウンターとして、オルタナティヴとして出発しました。それがゆえに、あらゆる権力の中心が空洞化してしまい、すべてが分断されてしまった2017年の今にあって、その存在意義そのものか問い直されています。


しかし、さすが祐也くん、いいところに気がつきましたね。優れたポップ表現とは異なるトライブの間に橋を架けるということだーー今回の祐也くんの作文の結論は期せずしてそんな場所に辿り着いています。苦手な題材について頑張って作文を書いてくれて、ありがとう。先生のクラスは今日で終わりですが、祐也くんたちの笑顔と涙を忘れることはないでしょう。これまでどうもありがとう!



 >>>後攻

レヴュー②:Boys AgeのKazの場合 


久々に真面目にやろうか。トゥモローズ・チューリップスはサーファー界隈で名高いアレックス・ノストの行っている数あるアート・プロジェクトの一つでグランジ・バンド。忘れられて久しいカルチャーやスタイルを独自の形で現世に持ってくるやり方で多くの人々に影響を与えている。まあ、サーファーとしての顔が強すぎてバンドはイマイチ鳴かず飛ばずだけど。昨今ではソニック・ユースのキム・ゴードンと『グリッターバスト』という5曲しか入ってない長大なアルバムでデビューしたノイズ・ロックを始めたみたい。


トゥモローズ・チューリップスの発足は多分2010年ぐらいだったかな。今までに出したアルバムは4枚か5枚か、まるで農業のように少しずつ品種改良を重ねて彼ら独自のロックを形作っている。このアルバムというかEPというかは、ここまでにリリースしたどの作品よりもポップに出来上がってるんじゃないかな。わかりやすい近さの大物を挙げるなら、ダイナソーJr.、ピクシーズ、ペイヴメント、そういうちょっとポップな連中に似てる。でも、まるでパワーがない。レコーディングだとかで、パワーに一切重点を置いてない感じだ。ここまでの全てのアルバムに共通してる。グランジって結構パワーありきなところがあるんだけど、恐ろしく歪んで狂気の金切り声にも近いノイズを撒き散らしてるのに驚くほどに優しい。でもキッチリ良いバランスだ。演奏もクソ下手だ。始めたてのクソガキよりは幾分マシ、って程度。でも無意味にギターを掻き鳴らしてるだけじゃない。ちゃんとそこに何かを見出そうとしてる感じだ。 音源から感じたイメージは、絵葉書の中の風景。うまく言えないが、そんな感じだ。真新しくはない、でも以前の場所にはなかった、ありえなかった、みたいな感じだ。


グランジやオルタナ・バンドってのは、音源でも無意味にパワーを求める傾向が強い。或いは速さや、鋭角さ、とにかく一番上を重視しすぎている。化粧だけだ。大多数の奴らは。だから何も感じない。 だが、トゥモローズ・チューリップスは俺にとっては一味違う。彼らは、名声も評価もなにもかもどうでもよくてただ自分の実験を追求してる感じだ。下手したらリスナーにもそれほど興味が無いんじゃないか。自分に聴かせるために作ってるのかもな(大昔にいた変な貴族の科学者みたいだ。名前は忘れたが)。

彼らの音楽は、上っ面も見つつ、笑顔の下の筋肉の強張りや弛緩を抽出してるみたいだ。レオナルド・ダヴィンチかな? だから素晴らしい。ただ、わからん人間には一生理解できないだろう、繊細さ加減だ。それもアレックス・ノストにとっちゃどうでも良いことなんだろうな。だからああいう音楽を生み出してくれる。 俺が現行のバンドで今一番期待してるもののひとつだ。他にはTTには一歩譲るがカートとマイルド・ハイ・クラブに期待してる。


(そういやなんかのニュース・サイトでアレックス・ノスト(ex.トゥモローズ・チューリップ)みたいに書いてあった気がするけど別に解散してないだろ……多分、少なくとも今はまだ……)


【サイン・マガジンのクリエイティヴ・ディレクター、田中宗一郎の通信簿】 


★★★★


非常によく出来ました。カズくんの罵詈雑言混じりの作文を読ませてもらうのも今日が最後です。今日を境にカズくんたちクラスのみんなは卒業して行ってしまいます。先生も今日で廃業、職なしです。


最後の最後で、カズくんお気に入りの題材で作文を書いてもらえて本当に良かった。何故なら、どんな好きな対象に対しても、カズくんが容赦なくネガティヴな言葉を紡ぎ出すということがクラスのみんなにもわかってもらえたからです。


好きな作品を褒めて、嫌いな作品を貶すことが批評ではない。まず最初に作品の表層をすべて舐め回すようにして観察し、次はそこから導き出されたポイントを自らの視点で翻訳してやること、それが批評です。指摘と翻訳という本来であれば相反する行為をどんな配分で書き記すのか、それがそれぞれの書き手のスタイルに繋がります。勿論、指摘という場所に敢えてとどまり続け、決して翻訳という悪行に手を出さないというスタイルも存在します。


そんないくつものスタイルのスペクトルがある中、カズくんという書き手は他に居並ぶ者がないほど、唯一無二のスタイルをクラスのみんなに提示してくれました。誰にでもやれるものではない。カズくんのスタイルを模倣することの出来る書き手はおそらく現在の日本にはいないでしょう。これはお世辞でも何でもありません。トーン&マナー含め、カズくんは唯一無二の音楽評論家です。


と、カズくんがまったく喜ばないことを最後の通信簿に記すことで、お別れの言葉に変えたいと思います。今まで本当にありがとう。先生は本当に楽しかった。他のクラスのみんなもそう思ってくれているかもしれません。


ひとつ残念なのは、クラスのみんなの卒業までにカズくん率いるBOYS AGEの新作が完成しなかったことです。せめてこの場所で宣伝してもらうという当初の目的のひとつを果たしてもらいたかった。でも、草葉の陰で楽しみにしてますね。トゥモローズ・チューリップスみたいに解散すんじゃねーぞ。これまでどうもありがとう! 元気でね。

 

勝者:Kaz


ということで、最後はカズくんの勝利! これにて一年に渡ってご愛顧いただいた連載「カセットテープを聴け」はおしまいです。みんな、卒業後もそれぞれの道で頑張ってね!

〈バーガー・レコーズ〉はじめ、世界中のレーベルから年間に何枚もアルバムをリリースしてしまう多作な作家。この連載のトップ画像もKAZが手掛けている。ボーイズ・エイジの最新作『The Red』はLAのレーベル〈デンジャー・コレクティヴ〉から。詳しいディスコグラフィは上記のサイトをチェック。 

過去の『カセットテープを聴け!』はこちらから!