人格社

ドライヴ・マイ・カー

2021.08.25 15:18

車の中は、私にとってもはや唯一の居場所のように思われた。私は、どこでもいいからここではないどこかに身を置きたくて目的もなく車を走らせた。その空間で聴く音楽はどこで聴くものよりも精神の奥深くまで響き渡る。流れていく景色の中で、私と音楽だけが意識に留まり続けた。居場所を保ちながら、さまざまな風景を見ることができたが、今思えば見えていたのは整えられた車道からの景色だけだったのである。私は通り過ぎた街のことを何も知らない。