Ameba Ownd

アプリで簡単、無料ホームページ作成

ゆとりらYOGA

「スーパーノヴァ」(映画感想)

2021.08.29 13:47

コリン・ファースとスタンリー・トゥッチがカップル役を演じ、20年の歳月をともにしてきた2人が思いがけず早く訪れた最後の時間に向き合う姿を、イギリスの湖水地方の美しい風景とともに描いたヒューマンドラマ。ピアニストのサムと作家のタスカーは互いを思い合う20年来のパートナーで、ともにユーモアや文化を愛し、家族や友人にも恵まれ、幸せな人生を歩んできた。ところが、タスカーが不治の病に侵されていることがわかり、2人で歩む人生は思いがけず早い終幕を迎えることとなる。最後の最後までともに生きることを願うサムと、愛しているからこそ終わりを望むタスカー。それぞれが相手を思う2人は、ある決断をするが……。無口で不器用だが熱い情熱を胸に秘めたピアニストのサムを、「英国王のスピーチ」でアカデミー主演男優賞を受賞したファース、人をひきつける才能を持ち周囲に笑顔をもたらす作家のタスカーを、「ラブリーボーン」で同助演男優賞にノミネートされたトゥッチが演じる。これが長編2作目となる新星ハリー・マックィーン監督が、オリジナル脚本で撮り上げた。(「映画.com」より)


コリン・ファースが主演、という情報だけで観に行ったのですが、とても美しい作品でした。全然話題にならなかったみたいですごく不思議。

初老の同性カップルが主人公。作家とピアニストという、地位と名声を持つ2人が、キャンピングカーでバカンスに出かけるロードムービーで、途中までは殆ど運転席と助手席で語り合うだけのシーンが続きます。「これ、原作は舞台劇じゃないか?」と思うほど。

車内や、途中で立ち寄るダイナーでの2人の会話から、じんわりと関係性が浮かび上がり、同時に作家のタスカーが、認知症に侵されていることが分かってきます。

どのシーンも、静かで理性的で力強い。お互いに対する信頼や愛情も、彼ららしい知的なやり方で表現される。

だけど、先が見えない恐怖への対峙を、2人で分かち合うことは先延ばしにして…


恋人が同性だとか、その事に対する周りの態度とか、そういうことは何の障害でもなく、この映画で描かれているのは、2人がどのような思い出を胸に旅立っていくか、という、普遍的な問題でした。


途中、タスカーの作品ノートが大写しになる場面。

最初のうちは美しい筆記体が整然と並んでいるのに、少しずつ字が流れて乱れていって、線がただのたくっているようなページになって、途切れている…

そのページの数だけ、彼が苦しみ、逡巡した時間があるのだと思うと、たまらなくなりました。


2005年公開の「プルーフ・オブ・マイ・ライフ」にも、アンソニー・ホプキンス扮する数学者が、ぐちゃぐちゃな証明をノート残していたシーンがあって、それを思い出しました。


主人公2人がすっごく素敵。カッコいいけど、コリン・ファースは少し恰幅が良くなって髭、スタンリー・トゥッチは髪がない…という、リアルさもしっかりあるカップル。

イギリスの田園風景や、満天の星空と共に、彼らのキスシーンやベッドシーンが違和感なく映し出されて…本当に美しかったです!


ラストは、観客が決めて良いような、割と広めの余韻が残されているように感じました。

ここで、すべてをさらけ出して神に委ねるか、知的階層に生きる者としての「矜持」みたいなものを押し通すのか・・・どちらでも、片方が決めたことをもう片方が受け入れた時点でもうハッピーエンドだと思えます。