2021.8.29 〜Re:〜
ぼぉっとテレビを見ていた。
「ね、もしじゅんがさ…いや、やっぱりいいや…」
そう含みを持たせた隣の君。どうしても気になってしまうのは人間の性だろう。
「どうしたのさ?最近考えてること?」
「まぁ、分かっちゃうよね…」
ふふ、とどこか寂しげに微笑んだ君。
そして、少し間があって、躊躇いがちに口を開く君。
「あのね、じゅん、少し遠くに行ってみようかなって…」
「遠くって…?」
「まだまだじゅんにもしてみたいこともあるし、たくさん成長できることがあると思うんだ。この道だけじゃなくて、じゅんの知らない道も歩いてみたいなって思ったんだよね。だから、少し遠くへって。」
「そっか…、いいんじゃない?」
僕の反応を聞いて拍子抜けしたような顔の君。
「いいの…?」
「だって、それだけ純奈が考え抜いて決めたことを僕には止めることなんてできないよ。」
少しだけ君の瞳が滲んで見えた。そして、頑固な僕は続ける。
「でも、僕が着いて行ったらダメ、なんて1つも言われてないから、僕は純奈がどこへ行こうと、純奈のためならどこまでも一緒に行って、その姿を見ていたい。純奈が言ったんだろ?『私の専属カメラマンさん』ってさ。それなら僕は純奈の姿をたくさん残していかなきゃでしょ?」
ふとしたなんでもないただの日常の瞬間瞬間が頭の中をゆっくりと巡っていく。
星空を物憂げに見上げる君。季節の草花を見て微笑む君。美味しそうに頬張る君。そのどれもが魅力的で、それをなんとか形にしたくて写真をよく撮るようになった。君のためなら世界中どこへだって一緒に行く。そう決めていたから。
「それにさ、純奈が僕にお願いしたんでしょ?『この先もずっと誕生日お祝いしてね』って。だから、僕はずっと一緒に居ようって決めたんだ。」
「でも、それだとじゅんの事で貴方を縛っちゃう…そんなの…」
「"そんなの"がどうしたって言うのさ?僕にとって君と過ごす時間が幸せで、これ以上のものはないさ。僕は純奈に出会えて本当に良かったと思ってる。だからこの先も、って。そう思ってる。」
君の潤んだ瞳から、せき止めきれなくなった涙がひとつふたつ、きらきらと頬を伝っていく。そしてまた吸い込まれそうなほど綺麗な瞳からひとつふたつ…。
隣の君を優しく抱き寄せ、君の頭に手をぽんと置く。
どんな瞬間でさえ、いつかそう遠くはない未来にふたりで振り返って見れば、ただの日常の瞬間。あんなことがあったね、こんなことがあったね、とこの先ずっとふたりで思い出話ができたらいいな。