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#012 祭りについて―バルモラ

2021.08.30 02:31

by Motandhel

 クロックワーク・シティにいるときは祭りとはほとんど無縁だった。新しい年を迎える日に仲の良い友人たちと集まることはあったが、タムリエルの祭りとは全く別次元のささやかなものだった。そのせいか、僕は祭りがあまり得意ではない。

 旅の中で一番心に残っている祭りはオールド・ライフの祭りだ。賑やかなニュー・ライフの祭りには心が弾んだが、オールド・ライフの方は一年を振り返るのに相応しい静かで優しい祭りだった。ああいった静かな祭りはここタムリエルには少ない。とても少ない。今行われているのも、やはり巨大なモンスターを討伐したり、デイドラに占拠された帝都に乗り込んだりする賑やかでかなり危険なものだ。

 この祭りが始まろうとするそのとき、僕とアズルはヴァーデンフェルのバルモラにいた。当然街は人気が少なかった。月の美しい静かな夜で、僕たちは当てもなく歩きながら街の人たちの生活を眺めた。夜釣りをする若者、商店のそばで眠りこけるグアル、食器の触れ合う音が響く宿屋、家々のあいだを通り抜ける風のような吟遊詩人のフルートの音色。祭りの外にある日常も、耳を澄まし目を凝らして一つ一つを見つめれば、まるで見たこともない祭りのように特別で真新しいものに見える。月の浮かぶバルモラの夜は驚くほどに美しかった。

 街の散策を終えて家に戻ると、アズルが「祭りを抜け出してきたみたいだ」と笑った。気が向いたら一緒に参加しようと言いながら、その日は新しい祭りの喧騒をよそに彼との時間を楽しんだ。もう少し夜を長く楽しむために……僕はもっと体力をつけた方がいいかもしれない。やはり肉を食べるべきだろうか?