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とある冒険者の手記

A.新生祭とストーカー

2021.08.31 04:12

新生祭で賑わうウルダハ。

異邦の詩人のサプライズでニメーヤリリーのポプリが配られていると聞き、アリスはヘリオと一緒にウルダハに来ていた。

祭りと言うことで、色違いのアラミガンガウンを2人で着て、賑わう人ごみを歩いていた。


「祭りになると、いつも人が凄いよなぁ」

「そうだな」


アリスは人の流れが入り乱れているのに気が付き、ヘリオの腕を掴んだ。


「?」


腕を掴まれ、キョトンとした顔でアリスを見る。

その手はそのまま下へと滑り、恋人繋ぎをした。


「なっ?!」

「へへっ、これなら人の流れではぐれることがないだろ?」


嬉しそうに笑みを浮かべながら言われ、顔を紅くしながら溜息を吐くヘリオ。

アリスの笑顔を見ると何故だか文句が言えない。

初めて名前を教えた時もそうだった。

教えるつもりなんか全くなかったのに、「教えてくれません?」とニコニコしながら言われ、教えてしまった。

どうして笑顔に負けてしまうのは、ヘリオ自身も分からないままである。

ルビーロード国際市場前に辿り着くと、人が列を成していた。


「あ!あそこでポプリ配ってるみたいだ!俺、並んで2人分貰ってくるから、ヘリオはここで待っててくれ」

「わかった」


そう言うと、アリスは列の方へ走っていった。

ヘリオは、通行の邪魔にならない位置に移動し、徐々に列が進んでいくのを眺め居ると、「ヘリオさんっ!」と声をかけられた。

なんだと振り返ろうとした瞬間、見知らぬミッドランダーの女性に腕を抱きしめられた。


「はっ?」


いきなり見知らぬ女に腕を抱きしめられ、物凄い目付きで女を睨む。

それに気づかず、女は「やっと逢えたぁ♡」と腕に顔を擦り付けている。

ヘリオは抱きしめられた腕を無造作に引き抜いた。

そのまま何も言わず、女から距離を取り、再びアリスの居る列に視線を戻す。

だが、女は再びヘリオの腕に抱きついた。

再度腕を引き抜こうとすると、服の袖をしっかりと握られ、腕を引き抜けず、流石のヘリオも不機嫌になる。


「なんなんだあんた、離せ」


不機嫌を隠すことなく、冷たく女に言い放つと、女は一瞬ビクッと体を震わせ、袖を離した。

それを見て、すかさず腕を振り払うと、腕に抱きつかれないように腕組みをした。

すると、女はおずおずとヘリオに話しかけた。


「あ、あの、私の事、覚えてませんか?」


上目遣いに聞かれて、ヘリオはハッキリと「知らん」と答える。

「そんな」と絶望する女性。

そこにアリスが満面の笑みを浮かべて戻ってきた。


「ヘリオ!ポプリ貰ってきた……あれ?」


ヘリオとその隣にいる女を見て、アリスは固まった。

アリスには忘れたくても忘れられない女の顔。


「君はあの時のっ!?」

「なんだ、あんたの知り合いか?」

「知り合いって…、ヘリオも1度会った事ある人だぞ…」

「?」


言われて考え込むヘリオ。

アリスは複雑そうな表情で口を開いた。


「半年前ぐらいに、ヘリオをくださいって言ってきた女性だよ」

「……あぁ、そんな奴いたな」


ヘリオらしい返答に、少し苦笑いをするアリス。

2人のやり取りに、女は下唇を咥え、ワナワナと震えている。


「どうして、ヘリオはこの子と一緒に?」

「好きで一緒にいた訳じゃない、いきなり腕に抱きつかれたんだ」

「うぇ?!」


それを聞いたアリスは、思わずヘリオの腕をギュッと抱きしめた。

それを見た女は、物凄い形相でアリスを睨みつけた。


「なんで…っ」

「?」

「なんで私の時は腕を引き抜いたのに、その人の時は引き抜かないのっ!?」


いきなり叫ばれ、思わずたじろぐアリス。

ヘリオは気圧されることなく、投げられた言葉に考え込む。

そして、首を傾げたまま答えた。


「……パートナー、だから?」


その言葉に女は更にアリスを睨みつける。

だが、アリスはヘリオの言葉にドキッとしていた。

ちゃんと自分がパートナーとして扱われているんだと分かり、嬉しい気持ちで顔がニヤついた。

それが気に入らない女は、歯をギリギリさせながら言った。


「ヘリオさんは、何故この人とパートナーになったんですか?!貴方をくださいって言った時に、私の方を好きになったら諦めるなんて言える人と!!そんな薄情な人、ヘリオさんを本当に大事にしてるとは思えませんっ!!」


その言葉に、ヘリオは女を真っ直ぐ見据えて言った。


「あんたはアリスの何を知ってるんだ」

「えっ…」

「知りもしないで自分の価値観だけで人を判断するのはお門違いだ」


淡々とした口調でヘリオは続ける。


「ましてや、パートナーがいる相手に容赦なくアプローチするなんて、有り得ないだろ。あの時、俺がなんと言ったか忘れたのか?」

「……」


痛いところを突かれて黙り込む女。

長い沈黙。

ヘリオは溜息を吐き、アリスの方を向いた。


「行くぞ、時間の無駄だ」

「えっ…あ、うん…」


女を残して立ち去る2人。

アリスはヘリオの後を追いながら、考え込んでいた。

「パートナーをください!」と言われたあの時に、「ダメだ!」と言っていれば、こんな事にはならなかったんだろうかと、後悔していた。


「なぁ、ヘリオ…」


弱々しく声をかけると、ヘリオは振り向かずに言った。


「あんた、謝ろうとしてるんじゃないだろうな?」

「えっ…」


図星を突かれ、言葉に詰まる。

アリスの反応に、溜息を吐くヘリオ。


「あんたが悪い訳じゃないだろ。堂々としていろ」

「ヘリオ……うん。ありがとう」


ヘリオの言葉に、アリスはホッとし、再びヘリオの手を握り、恋人繋ぎをしたのだった。



だが、これで終わりではなかった。

この日を境に、女がヘリオの後を着け回すようになったのだ。

ヘリオの予定など関係なく、毎日どこからともなく現れ、一方的に話しかけながら後ろを着いて回る。

姉のガウラと任務に付く約束の日も、女は変わらずヘリオの後を着いて来ていた。

待ち合わせ場所が近づいて来た時、ヘリオは振り向かずに女に言った。


「いつまで着いてくる気だ?」

「ヘリオさんが私を好きになるまでです」


女の返答に一瞬顔を引き攣らせるヘリオ。


「それは一生無いから、もう着いてくるな」


ヘリオはそう言って、待ち合わせ場所では無く、任務先に近い場所へとテレポをして撤退した。

テレポ先でガウラにリンクパールで事情を話し、待ち合わせ場所の変更を伝えた。

直ぐにガウラが合流。

開口一番「厄介なことになってるみたいだね」と言われる。


「あぁ、全くだ」

「実はアリスからも相談されていたんだ。まさかここまでとは思わなかったよ」


腕を組み、溜息を吐くガウラ。


「なんだってこんな事になったんだい?」

「俺にも分からん。こっちはハッキリと断ってるのに、全く聞く耳を持ってない」

「あまりにこれが続くようなら、私が動くしか無さそうだな」

「すまない。その時は頼む」


そう約束をして、2人はそのまま任務へと向かった。




その日の帰り、ガウラと別れたヘリオの元に、また女が現れる。

すかさずテレポでミストの自宅へとテレポしたヘリオだったが、予想外の出来事が起こった。

なんと、テレポした自宅前まで女が現れたのだ。


「なっ!?」

「わぁ!ここがヘリオさんの自宅ですかぁ!!」

「なんであんたがここに…」


声を聞きつけ、アリスが家から姿を現す。


「どうしたヘリ……えっ?!」


女の姿を見て、流石にアリスも驚きを隠せなかった。


「ヘリオ!早く中にっ!」


アリスの声掛けに、ヘリオが素早く家に入ると、アリスは直ぐに扉に鍵を掛けた。


「ちょっとー!開けなさいよっ!!」


扉をドンドンと叩く音が響く。

流石に恐怖で血の気が引いているアリス。

その横でヘリオはガウラにリンクパールを発信し、状況を説明し、女に気づかれない様、アリスと共にガウラの家へとテレポで避難した。

玄関で2人を出迎えたガウラ。

リビングでお茶を出しながら、話を聞く。


「これは、もう放置しておけるレベルじゃないな」


腕を組んで真剣な表情なガウラ。

相変わらずポーカーフェイスのヘリオに、眉間に皺を寄せ深刻な顔のアリス。


「その女の所属はどこか分かるかい?」

「一方的に話してきていた時に不滅隊と言っていた」

「そうかい、なら何とか出来そうだ」


ガウラの目付きが変わる。


「ヘリオ、明日ウルダハで女を誘き出しとくれ」

「分かった」

「ガウラさん、手間をお掛けしてすみません…」


深刻な顔のまま謝るアリスに、ガウラは呆れたように口を開く。


「お前は悪くないだろ」

「でも、俺に解決出来なかったのは事実です。俺、パートナーなのに…」


しょぼくれるアリス。


「気にする事ではないだろ。お前がヘマをした訳では無いんだから」


だが、表情が晴れないアリスを見て溜息を吐き、ガウラはヘリオに「アリスはお前に任せた」と無言で示すと、ヘリオは頷いた。


「2階の部屋の2段ベッドを使いな。私は不滅隊に行ってくるよ」

「悪いな、姉さん」


そう会話を交しガウラは家を出た。

ヘリオはアリスを2階に連れていき、軽く慰めたのだった。




翌朝、ヘリオはウルダハに辿り着くと、早速女が現れた。

いつもの様に一方的に話をする彼女を無視し、不滅隊の屯所へと向かう。

そして、そこには不滅隊のお偉い様を連れたガウラが待ち受けていた。


「お前かい?うちの身内にストーカーしてるのは」

「えっ?えっ?!何?!なんなの?!」


突然の錚々たるメンバーに、戸惑う女。


「リガン大闘士から話は聞いている、お前のストーカー行為について事情聴取させてもらうぞ!」


女は両脇を不滅隊に捕らえられ、抵抗する。


「何?!私は何も悪いことなんかしてない!!ただ、好きな人に自分を知ってもらいたかっただけよっ!!」


叫びながら抵抗する女に、ガウラは冷ややかに言った。


「相手の気持ちも考えずに、付き纏う行為は立派な迷惑行為だ。これに懲りたら、もう弟達に付き纏うのは辞めるんだね」


ガウラの言葉が彼女に届いたかは分からないが、女は「ヘリオさん!ヘリオさん!!」と叫びながら、不滅隊の屯所へと連行されて行った。

後に残されたガウラとヘリオ。

2人は同時に溜息を吐いた。


「なかなかに強烈な女だったな」

「あぁ、流石に疲れた」

「アリスは私の家で大人しくしてるのかい?」

「あぁ、ややこしくなるから出てくるなと言っておいた」

「賢明な判断だ」


2人はげんなりした表情で言葉を交わす。


「それじゃあ、私はもう少し不滅隊に残るよ。協力してくれたお礼と、相手の言い分も聞いておきたいしな」

「分かった。俺は無事に解決した事をアリスに伝えてくる」


そう言って、2人は別れたのだった。




後日、アリスは不滅隊の監獄へと来ていた。

不滅隊の隊員に案内され、向かったのは、ストーカー女の元だった。

アリスを見て、憎悪の眼差しで睨みつける女は、アリスに吐き捨てるように言った。


「なに?私の無様な姿を笑いに来たの?」

「いえ、貴方にハッキリと言っておきたい事があって来ました」


アリスの言葉に「なによ」と返す女に、アリスは真っ直ぐ女を見据えた。


「俺はヘリオを大事にしています。だからこそ、ヘリオの意思を優先させたいと思ってます」


女はアリスを睨みつけながら黙って聞いていた。


「だからこそ、彼が他の人を好きになった時は身を引くと言ったんです。それは、ヘリオを大事にしていないからじゃない。ヘリオが大事だから。ヘリオを愛しているからこそ、好きな人と幸せになって欲しいと思うからこそです」


アリスの言葉に女はヒステリックに叫んだ。


「それが薄情だって言うのよ!好きなら別れるのは辛いはずでしょ!それを簡単に身を引くなんて、相手の事が好きじゃないって証拠じゃない!!」


そう言われ、アリスの目付きが鋭くなった。

珍しく怒りを隠そうとせず、牢屋越しに女の胸倉を掴んだ。


「辛くないわけないだろっ!だけどな、好きな人と一緒に居られ無いのがどれだけ苦痛か知ってるからこそ、相手にそれを味わって欲しくないから身を引くって言ったんだっ!!」


アリスの豹変ぶりに、恐怖の色を浮かべる女に構わず、アリスは続けた。


「ヘリオが俺をパートナーとして傍に居てくれている間は、俺はヘリオを誰にも譲る気は無いっ!!今度ヘリオを着け回してみろ!!次は容赦しないからなっ!!」


そう言うと、アリスは女の胸倉を離した。


「言いたいことはそれだけだ。二度とあんたの顔を見ることは無いと願うよ」


アリスはそう言い放ち、その場を去った。

その後ろ姿を、女は身体を震わせながら呆然と見ていたのだった。