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石川県人 心の旅 by 石田寛人

金沢と文京を結ぶ石橋

2019.08.19 12:41

 今月の4日、金沢市と文京区の間で友好交流都市協定が締結されたのは、石川県人会にとって誠に嬉しいことだった。山野市長さん、成澤区長さんをはじめとする双方の当事者のお骨折りや、この日に向かって長い歩みを続けてこられた文京石川県人会の本田会長や光真さん、そして大湯代表幹事の御尽力に、心からお礼とお祝いを申し上げたい。

 さて、この協定締結式に続いて会場の水道橋宝生能楽堂で、宝生和英御宗家以下の方々によって演じられた宝生流の能「石橋(しゃっきょう)」を拝見して、感慨一入であった。私は能を鑑賞する力はないが、上演中は解説の佐野登師のお話を反芻しながら、師の伯父さんにあたる佐野萌師から赤門近辺の旅館の布団部屋で「清経」の謡を習った日をしきりに思い出していた。「石橋」は宝生流の能の中で極めて大切なものと伺っている。この能は、江戸時代も終わり近くの弘化5年に、江戸神田の筋違橋で宝生太夫友于(ともゆき)によって一世一代勧進能が開催されたときの主要演目とされる。

 前に書いたように、宝生流の一世一代勧進能は、宝生太夫友于が弘化年間に行ったもので、これをもとにして、昭和28年に映画「獅子の座」が製作されている。これには、監督が伊藤大輔、脚色は伊藤大輔と田中澄江、音楽は団伊玖磨、キャストは長谷川一夫(宝生彌九郎友于)、加藤(津川)雅彦(その子石之助)、岸恵子、田中絹代、東山千栄子達という豪華メンバーが出演した。宝生流は全面協力、宝生九郎御宗家と英雄次期宗家が能を指導され、多くの職分がワキ方、囃子方、狂言方に出演されていて、宝生流、能楽界が総力を挙げた映画である。当時、私は小学生で、この映画の製作さえ知らず、その後スチール写真等を見たのみであるが、いずれゆっくり鑑賞したいと思っている。

 宝生流の謡本を出版しているわんや書店社長の江島弘忠氏に、宝生流の能や狂言の演目を並べた双六を見せて頂いたことがある。江島家のお蔵にあったものとお聞きしたが、「石橋」は、この双六の上がりの位置に置かれていて、とても重要視されていることが窺えた。なお、この双六図は、一時、金沢の能楽美術館に展示されていた。

 皇居に参内した際、北車寄せから「石橋の間」に参入して、前田青邨画伯の描かれた「石橋」の獅子と、紅牡丹、白牡丹の絵を拝見した。極上の舞台での舞を見る思いだった。

 能「石橋」から歌舞伎の「連獅子」が作られ、人気演目になっていることは、この能の影響の大きさを物語っている。これも前に記したように、平成21年、金沢城内の五十間長屋や菱櫓を背景とする三の丸広場の特設舞台で中村勘三郎丈、勘太郎丈、七之助丈の「連獅子」が演じられて、大好評を博したが、公演の様子は季刊誌「北國文華」に詳しく紹介されている。

 4日の協定締結式のあと、宝生流の職分の方々と大湯さん達の間で、県人会の活動に関して話が弾んだようだ。本稿は、関係の資料に当たったものの、極めて雑ぱくな私の記憶に頼って書いたところも多いので、誤りがあれば、後日、職分の皆様に御指摘、御指導頂ければ有り難いと思っている。(2019年8月19日記)