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石川県人 心の旅 by 石田寛人

聞香で嗅覚アップ

2020.09.15 13:11

 かなり下火になったコロナではあるが、感染すると味覚と嗅覚が損なわれると言われている。人間にとって五感は、生きる上で極めて大切である一方、その一部を失いつつも、すばらしい人生を歩まれた方は多い。般若心経は、「眼・耳・鼻・舌・身・意」「色・声・香・味・触・法」と列挙して、悟りを開けば、それらは「無」であると説いているように思える。なお、6番目の「意」と「法」は五感外の心の作用とそれが捉えるものということだろうか。

 さて、私の五感の実態を順不同で述べたい。妻と比較する。まず第一は視覚。これは二人とも相当衰えている。第二に触覚。触れる体の部位と対象によって、極めて多様であり、比較は困難である。第三に対コロナで大切な味覚。二人とも今なおしっかりしていると思っているが、単に食い意地が張っているだけかもしれない。妻は私の味覚をあまり信用していない。我が家では、御飯や馬鈴薯などは「体重割り」(妻は私の半分)、美味なるものは「人頭割り」で食べている。誰しもおいしいものは大好きだが、妻は実に「うまいもん好き」だ。それを鋭い味覚というのだろうか。第四に、これまたコロナで重要な嗅覚。これも比較定量が困難だが、妻も私も腐った食べ物を辛うじて弁別できる程度である。さて、問題は第五の聴覚である。これは、妻が断然優位にある。何せ、声の聞き分けがかなり正確にできる。私がテレビで古い映画を見ていると、彼女は、音声だけで出演の俳優さん女優さんの名前を言い当てる。対する私は、高校時代、音楽の授業における聴音の時間の辛さが忘れられない。私の音声聴取能力は実に情けない状態にある。

 そこで、対コロナのこともあり、押し入れから昔頂いた香炉が出てきたので、これで聴覚の劣勢を回復したいと考え、香を焚いて嗅覚を磨こうと思い立った。香を嗅ぐことを「香を聞く」と言うではないか。これぞ、まさに第二の聴覚であり、聞香で頑張れば、本物の聴覚の劣位を一挙に挽回できるかもしれない。

 まず、AMAZONで注文して、香道具セットを購入した。香火箸・銀葉挟・灰押の3点セットである。本来、ちゃんと香を聞くには、七つ道具が要るようだが、この際、手っ取り早く事を運びたかった。炭は金沢高岡町の香舗伽羅で買い求め、灰は小松の旧宅の火鉢のものを用い、揃えた道具によって、白檀のお香を聞いた。しかし、なかなか思うに任さない。嗅覚を鍛えるのも、お香を楽しむのも容易ではない。

 香道にも流派があり、本来、先生について本格的に習うべきであろうが、目下コロナの影響でそれもできにくいので、とりあえずは、我流で楽しみたい。前田家八家の横山家では、前から聞香を楽しんでおられるという話を伺ったので、前田育徳会の会合のあとにでも横山隆昭さんに御指導頂ければと思っている。

 身の程知らずではあるが、私は今、五種類の香を聞き分ける源氏香に挑戦することを夢見ている。源氏香では、香を聞いた結果を縦横の線で示す52通りの図があり、和服や各種和物の図柄に使われているが、各図に源氏物語各巻の名称がついている。泉鏡花はそのうち「紅葉賀」の図を家紋の如く使っていたようで、金沢の鏡花記念館の入場券にはそれがあしらわれていた。

 ともかく、コロナを機に、衰える一方の我が感覚を少しでも磨きたいと拙いアガキをしている。(2020年9月15日記)