横浜市長選挙について(参議院浜田聡議員のお手伝い)
雨よ、止んでくレイン。つ~かさ、傘はかさばる。
さて、昨日は参議院浜田聡議員のお手伝いに上がり8月22日に執行された横浜市長選挙について考えてみました。
現職の市長は3期12年に渡って務めてきた林文子氏です。75歳という高齢ですが4期目を目指して出馬しました。首長選というと現職が絶対的に強いのが通常ですが、今回は違ったようです。今回は得票率が13%で3位という惨敗に終わりました。告示日ぎりぎりまで出馬について迷っていたようですが後継者がいないということで出馬に踏み切ったようです。現職市長が後継者を用意することなく引退することは自身が務めた12年間の取り組みを否定することにもなりかねないことです。よって、自分がもう一度出馬するしかないと考えたのでしょう。
林文子氏は産業再生機構下で経営再建中のダイエーの社長を務めたり、地元有力企業の日産自動車販売の元社長でもあります。元々は民主党の推薦で当選しており、統合型リゾート施設(IR)の誘致には反対の立場でしたが、2019年に政府の後押しもあり一転して統合型リゾート施設の誘致に前向きに推進する立場に転じました。昨年までの見通しでは、今回は自民党の推薦も受けて4選を目指して優位に戦えるはずでした。ところがどっこい、2021年の1月に帯状発疹を発病し入院するなどして体調不安が囁かれるようになりました。多選の是非も言われる中で、後ろ盾として期待していた菅義偉首相も他の候補者を模索するようになり、林氏の旗色は悪くなって行きました。林氏は体調の回復をアピールしたようですが、自民党市議連も林氏の支援をしないことに決定しました。こうした中で林氏も意地を張るようになっていったようです。結果的に林氏が立候補することで自民党にとっては分裂選挙のような様相になってしまいました。
さて、林氏を見限る形となった自民党は6月に小此木八郎氏の支援を決めました。小此木氏は衆議院当選8回の元国家公安委員長を務めた大物政治家です。3代にわたり政治家を務め、父は元通産相で若いころの菅義偉首相が秘書として仕えた人物です。神奈川3区を地盤としていて横浜市での知名度は非常に高い人物です。何より、菅義偉首相とは小学生の頃からの付き合いだということですから互いの信頼関係も強いはずです。小此木氏はIR施設誘致に関しては反対の立場を取りました。これまで自民党はIR施設誘致に賛成に転じた現職の林市長を支持してきたわけで、小此木氏の反対表明には容易に同調できません。この時点で自民党内でも小此木氏への反発がみられ分裂選挙は免れない状況となりました。結果、自民党神奈川県連は一枚岩になり切れず自主投票とすることとなりました。
そんな中でも菅首相は小此木氏への全面的な応援を表明していました。自身の秘書を小此木陣営に送り込み、有力企業への圧力ともとれる小此木氏への投票依頼を行っています。その他、小泉進次郎氏、野田聖子氏、河野太郎氏も小此木氏を支持しています。石破茂氏も横浜市で応援演説を行っています。要するに、地元県連が自主投票を決めていたにも関わらず、菅首相の呼びかけもあり、自民党の総力を挙げて取り組んでいると言って良いと思われる選挙戦を展開しました。こうして、保守分裂選挙は自民党が総力を挙げて応援する小此木氏に対して、現職市長である林文子氏がたった一人で戦いを強いられることになりました。
小此木氏の結果は当選に遠く及ばない得票率21.6%の2位となりました。市長選の法定得票数は有効得票率の4分の一ですから箸にも棒にもかからない結果となってしまいました。単純に林氏が出馬していなければ林氏の得票が小此木氏に入っていたとは断定できませんが、林氏を複数の地元の自民党の地方議員が応援していたことから、その多くは小此木氏に入っていたと思われます。選挙結果にIFを説いても仕方ありませんが、小此木氏と林氏の得票の合算をすると得票率が34.7%となり当選ラインを越えていたことも事実です。これは梯子を外された現職の林氏が一矢を報いたということなのでしょうか。林氏は選挙戦のマイク収めを横浜市庁舎の前で行っています。自身の落選を確信しているかのように市職員に向けて感謝の言葉を投げかけて選挙戦を締めくくっています。
自民党以外の候補者では元長野県知事で新党日本の田中康夫氏が出馬しました。私はこの方はあまり信用できないと思っています。それは、ことあるごとに政策が変わるからです。長野県知事選では現職知事が長野オリンピックの運営費の使途不明金問題などで非難される中、連合らの組織票を集めて当選しています。脱ダム宣言を行い、ゼネコン主導の乱開発を否定し、政府から降りてくる公共事業費に頼る体質からの脱却を図りました。田中知事は国土交通省からの安全性の低下の指摘を受けると河川とは別に地下排水管を建設することとした。この代案は概ねダムを建設するのとあまりかわらない規模の予算を必要としますし、ゼネコンの協力も必要不可欠です。だったら脱ダム宣言など最初から唱えるべきではありません。ちなみに私は、ダムは必要だと思っています。古(いにしえ)から治水は国の命題です。ダムの問題はコストの問題だけではありません。肥沃で安全な居住地や耕作地の確保は国家の発展の礎となると思います。昨年、九州の熊本を襲った集中豪雨で球磨川が氾濫し、多くの人々が犠牲となりました。球磨川の決壊も現知事がダム工事を中止して、その後の治水対策を怠ったことに起因して発生した大規模災害です。治水事業は公共事業として人命に係る重要かつ効果的な投資なのです。その他、田中康夫知事は「長野県」を「信州」に変更しようとしました。米国に倣った道州制の導入に先駆けるということらしいのですが県民の同意など得られません。かれこれあって、田中康夫氏は3選を目指した知事選では医師会にも連合にも支持されず、唯一の支持が共産党となってしまう有様で落選しました。共産党しか支持を得られない状況でも出馬したのですから驚きです。対立候補の村井氏の公約はわかりやすく「田中康夫氏の全政策を完全否定・完全清算すること」でした。今回の横浜市長選ではIR施設誘致には反対しています。IR誘致の代わりに災害に備えたレスキュー施設を作るべきだと主張しています。また、長野時代とは一転して地域密着型の公共事業に注力するとしています。田中康夫氏の選挙結果ですが、小説家としての知名度の高さと得意の演説の効果からか現職の林氏に迫る4位で12.9%を得票しています。
5位には元神奈川県知事で参議院議員の松沢成文氏入りました。10.8%と得票して供託金の没収は辛うじて免れました。元知事とは言え日本維新の会の所属ですから既成の大政党には支持が遠く及びません。また、公約も元知事とは思えない頓珍漢なものもありました。江戸時代には東京の一部の地域が現在の神奈川県横浜市の一部であったことから、横浜市に江戸城を建造するというのです。横浜市民は誰も喜ばないのではないでしょうか。また、IR施設誘致に関しては新型コロナウイルスの発生でビジネスモデルが破綻しているとして反対の立場です。反対理由がコロナというのは不可解です。コロナの蔓延が未来永劫収まらないと松沢氏は考えているのでしょうか。コロナ禍はずっと続き、大型施設はコロナ対策の観点から受け入れられないというのでしたら、既存の大型商業施設も否定されているに等しいと思います。松沢氏の出馬は次期衆院選か次期参院選への周知を図る目的ではないかと思いました。
6位は福田峰之氏で4.1%を得票しました。6位からは供託金ラインを下回っていることから供託金は没収されます。ある意味、泡沫候補と言って良いのかもしれません。福田氏は、以前は自民党に属し衆議院で3回当選している有望株でした。ところが、2017年に東京都知事の小池百合子氏が人気絶頂時に立ち上げた希望の党に移籍したことから歯車が狂ったようです。希望の党が解党している現在は無所属となっています。時流を見間違えたことによる代償は大きいということでしょうか。福田氏はIR施設誘致に賛成しています。
さて、最後に当選して新しい横浜市長となった立憲民主党推薦の山中竹春氏ついてです。ダントツの当選でした。33.6%を得票しています。山中氏は横浜市大医学部の教授であり、元国立がん研究センターの部長のようですが医師免許は無いようです。データサイエンスという臨床統計学に携わって来られたようです。ちょうど、山中氏が公認された時期に山中氏が対コロナウイルスの中和抗体について論文を発表してマスコミから注目さていました。山中氏はIR施設誘致に関しては学生の就学環境が悪化することを危惧して反対の立場を取っています。現職の林市長に対して、IR施設誘致に反対する団体の署名運動を行い、19万人を超える署名を集めたことから、立憲民主党は横浜市長選候補者の野党の一本化を図り、山中氏は野党統一候補となりました。とりわけ、横浜港ハーバーサイド協会会長の藤木幸夫氏からの応援は大きな追い風になったと思われます。藤木氏は横浜の港湾事業者の老舗である藤木企業の社長であると同時に横浜スタジアムの社長や横浜エフエム放送の会長も兼務しています。横浜市の経済界では知らぬ人はいない大きな影響力を持った人です。藤木氏の応援を期待した候補は他にもいたと思います。菅義偉首相の意向に反してIR施設誘致に反対した小此木氏も然りですし、田中康夫氏もそうだと思います。藤木氏が山中氏を応援することを決定した段階で山中氏の当選の確率が大いに高まったのだと思います。保守勢力である自民党の支持が林氏と小此木氏に分裂したのですから、その時点で山中氏の勝利が決まったようなものだったのかもしれません。
下記写真:横浜市提供、事業者によるIRのイメージ
ところで、今回の横浜市長選の最大の論点は統合型リゾートであるIR施設の誘致に関してでした。IR施設とはカジノの為だけの施設ではありません。IRには国際会議場、展示施設やMICE施設、ホテル、ショッピングモール、レストラン街、劇場、映画館、アミューズメントパーク、スポーツ施設、温泉施設などが含まれます。そして、カジノ施設はIR施設全体の3%以下に制限されますので、カジノはごく一部だけに限られると言えます。
このような計画を聞くと確かに壮大で素晴らしいと思います。しかし、よくよく考えてみるとIR施設に含まれるコンテンツの一つ一つは、カジノ以外は既に横浜に存在しています。1施設にまとめて備わっていないというだけでそれぞれは既に事業化されているのです。その上で新たにIR施設として開発する必要があるのでしょうか。統合型リゾートの是非はカジノの是非に外ならず、逆にカジノを誘致するためには、複数のカジノ以外のコンテンツを有する事業の誘致を必要とする巨大なレジャー施設の開発が必須となるのです。
横浜のベイエリアには国際的なホテルとして横浜グランドインターコンチネンタルホテルや山下公園の近くには老舗のニューグランドホテルがあります。遊園地のコスモワールドやショッピング施設の赤レンガ倉庫やMARINE & WALKYOKOHAMAや横浜ワールドポーターズがあります。レストラン街として中華街があり、温泉施設として万葉倶楽部があります。パシフィコ横浜には国際会議センターや展示ホール、巨大なコンサートホールがあります。DeNA球団が使用する横浜スタジアムや横浜マリノスの本拠地である日産スタジアムなどの大型スポーツ施設もあります。つまり、カジノ以外は既に素晴らしいコンテンツを横浜市は有しているのです。カジノは有しませんが、統合型リゾートではないにしろ、既に分散型リゾートと言って良いのではないでしょうか。分散型でよければ日本全国の多くの地域がこれらのコンテンツを既に備えています。
IR論争とは競馬、競輪、競艇、オートレース、パチンコ、宝くじなどギャンブル天国と言われる日本において更にカジノが必要なのかどうかを問うているだけなのかもしれません。統合型リゾートの賛否とは、カジノの是非を問う議論のネガティブな面を薄めるために多くの事業形態を巻き込んだ統合リゾート構想に発展させて賛同を受けやすくしたに過ぎないのではないでしょうか。繰り返し言いますが、カジノ以外は既に横浜に存在しているコンテンツであり、それが施設の97%を埋めるような計画がIR構想なのです。
下記画像:近畿日本ツーリストHPより
最後にIRに反対する藤木幸夫氏の構想をお伝えします。藤木氏はIR構想では横浜の内需はバランスを失い不景気になるので、IRは横浜の経済に寄与しないと言っています。藤木氏は単にIR構想を壊そうとしているのではありません。きちんとそれに代わるコンテンツを提案しています。横浜港でのディズニークルーズの提案です。ウォルトディズニーが横浜市での事業に参画することは素晴らしいと思います。カジノと違って子供たちやファミリー層が喜びます。IR施設の誘致により、横浜市で商業施設同士やレジャー事業者同士で市場を奪い合う熾烈な淘汰合戦を強いられるようになる可能性があります。そうまでして新たなギャンブル施設をつくるより、メルヘンチックで健全な世界的コンテンツであるディズニーによる事業参画を誘致する方が横浜市民にとって喜ばしいことなのではないでしょうか。
以上、最後までご拝読を賜りありがとうございました。