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調性と使用楽譜の選択

2021.09.05 22:24

音楽には「調」があります。

先日開催しましたオンライン楽典講習会でも調について解説した回がありましたが、その時に僕は「ひとつの調という物語には7名の主要キャラクター(音)がいる」とお話しました。トップに掲載した画像はその時の資料の1ページです。


正しくは音階固有音と言うのですが、これらの7つの音が中心となってメロディなりが作られることでその調の色彩感を持ったひとつの音楽が生まれる、というわけです。


我々が聴いている音楽...クラシックだけでなくジャズでもポップスでも、それらの基本となっている西洋音楽は、どの音からスタートしても音階を作ることができるのが特徴で、ではこの曲(楽譜)は何調で書かれているのかを瞬時に判断するために楽譜それぞれの段の最初に「調号」を記載するルールがあるのです(ジャズやポップスでは二段目以降はしょることがあるので最初見た時びっくりしましたが)。

こんな感じ。


さらにこの講習会では、「なぜひとつの調だけではダメなのか。もしハ長調だけだったらピアノを弾くのも簡単なのに」などの疑問が生まれるかもしれない。という点に対しての解説をこのようにしました。

カラオケでよく使う機能のひとつに、自分の声の高さに合わせるキーチェンジがあります。ポップスでアーティストが誰かの作品のカバーをレコーディングする際や、クラシックの声楽の世界でもそれぞれの奏者の声の高さに合わせて調を変える場合があります。


そしてもうひとつ。

同じ作品でも調が変わると印象が変わります。この講習会ではヴィヴァルディ作曲「四季」より「春」の冒頭部分を例に出してお話しました。最初にオリジナルのホ長調を聴いていただき、その後、私の師匠の津堅直弘先生をはじめ、当時(30年以上前!)のN響メンバーが中心となって編成されたブラスアンサンブルの動画をユーチューブから一瞬拝借しまして聴いていただきました(この写真に写っていらっしゃるのは神代修先生です。なぜか今のほうがお若く見えるのは僕だけでしょうか笑)。


ちなみにブラスアンサンブルの演奏は変ロ長調です。


聴き比べると受ける印象が大きく変わるのがわかります。印象が変わりますが、だからと言ってそれに優劣が生まれたり、「原調じゃなければダメだ」ということは全くありません。なぜならブラスアンサンブルは「編曲」したものだからです。オリジナルをオリジナルとして演奏する意義や必要性はもちろん存在します。例えばオーケストラのコンサートで「今日のベートーヴェンの5番は長2度下げで演奏します。明日は完全4度上げね」なんてことはしません。

しかし前述のような編曲や、歌曲をトランペットで演奏するとなった場合は、例えば最もよく響くとか、演奏がスムーズであるなど機能性の理由から調を変えるというのは決して珍しい行為ではありません。


他にも調が複数存在する理由(複数調が存在することで生まれた可能性)はありますが、今日言いたかったことはそこではないので割愛します。


話を戻しますが、そもそも歌曲集などでは「高声」「中声」「低声」と声域によってカテゴライズされて複数冊出版されているくらいで、ではB管トランペットで演奏するのであれば一番機能性が高くて良く響く調はどれだろうかと考えて調を考えることは当然です。


一方で初心者の方が高音域が出せないから、という理由で大幅に調性を変えて低い音域だけで演奏できるように楽譜を書き直すことを僕はレッスンでたびたび行っています。


楽譜を簡単にするために調を変更しているか、特性や何か明確な理由があってその調を選択したか、ある程度音楽経験のある人、例えば現在(いわゆる)プロとして活動していなかったとしても音大を卒業した人や演奏家や作編曲をされている方であれば皆さんわかることだと思います。


なのに「楽譜を易しくしている」「オリジナルの調で演奏しないのは作曲者への冒涜」って言うなんて、どうにも救い用のないぶっ飛んだ発想で大変驚いてしまった次第です。



荻原明(おぎわらあきら)