「附」にまつわるお話
1 「付」は、「附」にあらず!
以前、「附款」が法令用語だったことをお話しした際に、省略したお話しをしようと思う。
附款の「附」と交付の「付」は、全く別個の漢字であって、意味も異なるので、古来より使い分けられてきた。
「附」は、呉音で「ぶ」、漢音で「ふ」と読む。訓読みすれば、つく・つけるの「つ」だ。語源は、小さいおかだそうだ。
意味は、①つく、つける(ex.附言、附則、寄附、附記、附録、附加)、②したがう、つきしたがう(ex.附属、附随、附和雷同)だ。
これに対して、「付」は、呉音・漢音とも「ふ」で、訓読みすれば、つく・つけるの「つ」だ。語源は、人にものを手渡し与えることだそうだ。
意味は、あたえる、さずける、まかせる、たのむ(ex.交付、付与、送付、納付、還付、付託)だ。
ところが、文化庁の国語審議会が、「付」の方が字画が少ないという理由で、「附」の簡略体として「付」を使うよう方針を示した。
すなわち、「「付属」と「附属」――「附」「付」は古くから通じて使われている。「付」は字画が少ないので,今日では,「付属」を採ることが望ましい。同じように,これまで「附」と「付」とを使い分けてきた,「附加」「附記」「附近」「附言」「附則」「附随」「附帯」「附託」「附着」「附録」「寄附」「添附」「附する」,「付与」「付議」「下付」「交付」「付する」なども,すべて「付」の字でさしつかえないであろう。」
その結果、せっかく古来より使い分けられてきた「附」と「付」が混用されるようになってしまった。
常用漢字表に「附」が載っていないのであれば、「付」で代用するというのも理解できなくもないが、常用漢字表に「附」も載せているのに、字画が少ないという理由だけで、「附」の簡略体として「付」を使用すべしというのは、全く理解できない。
国語審議会はアホなのか?
お偉い国語審議会のお陰で、本来「附款」と表記すべきなのに、「付款」と表記する条例が29本、規則が23本も制定されてしまったのだ。。。
「付款」では意味をなさないだろうに。。。
https://jorei.slis.doshisha.ac.jp/search?rows=50&start=0&simple=%E4%BB%98%E6%AC%BE
2 「寄附行為」は、誤訳にあらず!
ところで、平成20年の民法改正前には、「寄附行為」という法令用語があった。「寄附行為」とは、「Stiftungsgeschaeft 財団法人の設立行為。またはその根本規則を定める書面。」をいう(末川博編『全訂法学辞典』日本評論社)。
※我妻栄編集代表『新版 新法律学辞典』(有斐閣)は、「寄附行為」に対応する外国語として「[独]Stiftung」を挙げている。
具体的には、財団法人を設立するには、一定の財産を出捐(しゅつえん。その意思に基づいて自己の財産を減少せしめ、もって他人の財産を増加させることをいう。)して法人の根本規則を定めて、これを書面に記載しなければならない(改正前の民法第39条以下)。
「寄」という漢字は、あずける、おくる、集める、集まるという意味であり、また、前述したように「附」という漢字は、つく、つけるという意味だ。
従って、贈られた財産(お金)を寄せ集め、くっつけて一つの財産の団体(財団)をつくって事業を行うから、ドイツ語の「Stiftungsgeschaeft」シュティフトゥングゲシェフトを「寄附行為」と訳したのだろう。
確かに、「寄附行為」という訳語から「根本規則を定める書面」をイメージすることはできないが、「寄」・「附」という漢字の意味さえ知っていれば、「財団法人の設立行為」の情景が目に浮かぶ分かり易い訳語だと思う。
ところが、西野法律事務所のHPに掲載されている『雑記帳』には、次のようにある。
「どうも「寄附行為」というのは「誤訳」っぽいですね。
「定款」は「約款」「付款」の「款」ですから「きまりごと」を意味する「款」に「さだめる」の「定」ですから、「諸規定」という趣旨ですね。
「寄附行為」というのは、ドイツ語の「Stiftungsgeschaeft」の訳という説があります。
確かに「Stiftung」というのは「寄附」という意味もありますが、「設立」という意味もありますし、「geschaeft」は「行為」のほかに「事業」という意味があります。
同じ「定款」でよかったのではないでしょうか。
なお、「寄附行為」はフランス語の直訳という説もあり、「行為」と訳された「acte」は「行為」のほか「証書」「法令」という意味があり、「寄附」は「寄附」でよいが「acte」を「証書」と訳すべきだという説もあります。」
https://www.nishino-law.com/publics/index/55/detail=1/b_id=92/r_id=2558/
このようなご意見が多かったのだろう。
平成20年に民法が改正され、新たに制定された一般法人法(一般社団法人及び一般財団法人に関する法律(平成十八年法律第四十八号))、公益法人認定法(公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律(平成十八年法律第四十九号))などの法人関係法の施行(平成20年12月1日)後は、一般法人については、財団法人の設立行為は、設立者による「財産の拠出」と呼ばれるようになり(一般法人法第153条第1項第5号、第157条・第158条)、書面に記載された財団法人の根本規則は、社団法人と同様に「定款」と呼ばれるようになった(一般法人法第152条)。
確かに、国語審議会によって「附」と「付」の意味の違いを忘れさせられた現代人にとっては、「財産の拠出」及び「定款」の方が分かり易いと言える。
しかし、一般法人ではない法人については、医療法(昭和二十三年法律第二百五号)による医療法人のうちの財団型医療法人(第42条柱書など)、私立学校法(昭和二十四年法律第二百七十号)による学校法人(第30条など)に関して「寄附行為」が用いられ続けているので、根本的な解決には至っていない。
3 人選には慎重を期すべし!
このような混乱が生じた原因は、全て国語審議会にある。国語を研究しているからといって、愛国者とは限らない。国も自治体も平和ボケしている。身元調査ぐらいしろ!と言いたい。