毒でなければ薬では無い
http://www.eisai.co.jp/museum/curator/column/040702c.html 【クスリは量によって“毒”にも“薬”にも】より
内藤記念くすり博物館収蔵品「さお秤」
もうすぐ楽しい夏休み、博物館では“夏休み親子教室”を開催します。昨年に引き続いて今年も、「さおばかり(桿秤)」の歴史を学ぶと同時に、参加者一人ひとりにさおばかりを作っていただきます。
さおばかりは、数多くある重さばかりの種類の中でも、簡易式で携帯にも便利につくられている秤です。意外と簡単に作れますので、工作を楽しみながら秤の仕組みを学んでいただけることでしょう。
そもそもはかることは「科学の基本」ともいわれていますが、日常生活の中で、私たちは無意識に食べ物や体重など、モノの重さを比べたりはかったりしています。
私達がこの世に命を授かって最初に触れる秤は、生まれたときにはかった体重計でした。秤には長い歴史があります。目的や用途に応じて多くの種類が誕生しました。また、古代エジプトでは、死後に冥界の王オシリスの裁判で、天秤は死者の罪業をはかる神の道具として使われました。羽毛は地上で最も軽いものとされ、人間の心はそれよりもさらに軽くなければならず、罪深い人ほど心臓が重くなるとされました。羽毛より軽い心臓を持つ魂だけが天に導かれたとされています。
実用面では、古くから商取引において無くてはならない秤ですが、薬との関わりも深く、昔から薬や医療に携わる人々は、わずかな薬物の増減を大切にしてきました。そのため少量のモノを例える表現として、『薬ほども無い』といいますし、使用量がとても大切!という意味をこめて、『匙加減』というように、患者の体質や具合に応じて量の加減を見ることができる医師こそが名医とも謳われました。病気や怪我を治療したり予防する薬は、『量によって“毒”にも“薬”にもなる』ともいわれ、微量で大きな影響を及ぼしますので、細心の注意が必要です。
くすり博物館では歴史的な秤を多数所蔵しています。「長さ」「容積」「重さ」をはかるための道具、尺(しゃく)や枡(ます)そして秤類など、度量衡関係の資料は約1,000点余りがあります。はかるモノの特徴や用途、時代やお国柄によって、実にさまざまな形の秤と分銅、錘(おもり)がありますよ。
https://www.nichiren.or.jp/words/2017/11-866/ 【毒の変じて薬となりけるを良薬とは申し候けり】より
『大田殿女房御返事』/
弘安3年(1280)聖寿59歳(建治元年説あり)
=変毒為薬=
「毒変じて薬となる」と聖人は言われています。毒も調合処方次第で病気に効く良薬となります。
ところで法華経には「煩悩即菩提」「生死即涅槃」という教えがあります。私たちを苦しめる心の毒とは煩悩です。しかし、煩悩の中にこそ悟りの種があるのです。生死の苦しみの中にこそ成長の鍵が秘められているのです。聖人はこう叫ばれています。
「毒を恐れるな! 苦から逃げるな! すべて悟りを得る良薬だ!」
日蓮聖人ご遺文
『大田殿女房御返事』
本書は大田乗明氏の妻が聖人に供養米を送ったことへのお礼のお手紙です。
この大田氏は富木常忍氏や曽谷教信氏等と共に聖人の生涯を支えた大檀越です。
この書には法華経の極理である即身成仏について説かれており、別題として『即身成仏抄』ともいわれています。
夫には聖人の重要な教義書が数多く与えられており、妻にもこの様なお手紙が与えられるということは夫婦共に信仰を一にしていることが伺えます。
弘安3年(1280) 聖寿59歳(建治元年説あり)
https://www.sbj.or.jp/wp-content/uploads/file/sbj/9310/9310_biomedia_4.pdf 【毒薬変じて薬となる?~植物を助けるウイルス~】より
兵頭 究
皆さんは「ウイルス」に対してどのような印象を持たれているだろうか?「毒」を意味するラテン語の「YLUXV」が語源であるように,宿主を病気にしてしまう悪者(病原体)というイメージが強いのではないかと思う.実際に,インフルエンザウイルス,HIV,エボラウイルスやデングウイルスといった,人に強い病原性を示すウイルスがしばしば世間を騒がせている.この他にも農作物に感染し甚大な経済的損失をもたらす植物ウイルスが数多く知られている.しかしながら,「毒」と「薬」はコインの裏表であるように,ウイルスが役に立つ事例もいくつか存在する.たとえば,バクテリオファージは細菌を宿主とするウイルスで,多くは宿主細菌を殺してしまう性質を持つ.そのため,細菌感染症に苦しむ人,動物,植物などにとって,これらのファージは「薬」として働くといえる.本稿では植物に対して,ウイルスが有益な「薬」として働く例をご紹介したい.
植物病原糸状菌を宿主とするウイルスの中には菌の病原性を低下させ,その結果,植物の病気を軽減するものが知られている.世界三大樹病の一つであるクリ胴枯病の原因菌であるクリ胴枯病菌は,傷口から侵入し,宿主を枯死させてしまう恐ろしい病原体である.ところが,胴枯病に侵されたクリの樹が幸運にも回復するという現象が20世紀半ばに見つかった.このような病斑からは病原力の著しく低下した菌が分離され,そうした菌株はある種のウイルスを高頻度で保持していた.このようなウイルスは「ハイポウイルス」と呼ばれ,菌の病原力低下を引き起こすことが分かってきた.ハイポウイルスに感染した弱毒型の菌を利用することで,強毒型(ハイポウイルス非感染)の菌にハイポウイルスが伝播し,弱毒化することで病害の鎮静化に成功した例もある1).このような植物病原糸状菌に病原力の低下をもたらすウイルスはクリ胴枯病菌以外の複数の病原糸状菌からも分離されており2),病原体を宿主とするウイルスが間接的に植物を守ってくれている場面は,そう特殊なものではなさそうである.また,病原力低下を誘導するウイルスの粒子をあらかじめ植物に散布しておくことで,菌核病菌(多くの農作物を侵す植物病原糸状菌)の病原性を著しく低下させることが可能であり2),新たな病害コントロールの手段としてウイルスを利用する手法が注目されている.
この他にも,植物に感染するウイルスが直接,宿主植物に有益に働くケースもある.このような例として,弱毒ウイルスと呼ばれる植物ウイルス版の「ワクチン」が知られており,すでに実用化もされている.また「植物の環境ストレス耐性を強化する」という驚くべき性質を持ったウイルスも存在する.たとえばタバコ茎えそウイルス(TRV)が植物に感染すると,植物体内でさまざまな遺伝子の発現変動が引き起こされるが,興味深いことに,TRV感染植物では乾燥,凍結あるいは塩といったストレス応答に関わる遺伝子群の発現上昇が見られる3).TRV感染植物はウイルス非感染植物にくらべて凍結ストレス耐性に関わるプトレシン(ポリアミンの一種)が多く蓄積しており,凍結ストレス下における生存率が上昇する3).このTRV誘導性のプトレシン蓄積と凍結ストレス耐性との間には相関関係が見られる3).TRV以外のいくつかのウイルスでも,宿主植物に乾燥・凍結といった環境ストレス耐性を付与するものが知られている4).
ウイルスは絶対寄生性(生きた細胞の中でしか増殖できない)であり,そのため宿主である植物が予期せぬ環境変動などで死ぬような事態は,ウイルスが生きながらえ,確実に子孫を残す上で好ましくないに違いない.上記のような植物-ウイルスの関係は,増殖のための環境を提供してもらうウイルスにとってだけでなく植物側にもメリットがあり,ある種の相利共生の関係を結んでいるようにも感じられる.残念ながら,植物ウイルスが宿主植物に環境ストレス耐性を付与するメカニズムの詳細は分かっておらず,今後の研究が待たれる.機構解明が進めば,環境ストレス耐性を植物に付与するための,新たな手段の開発につながるかもしれない.以上ご紹介したように,ウイルスの中には植物にとって都合の良い(あるいは都合の良い性質を持った)ものも少なからず存在するようである.ウイルスが植物にもたらす「毒」としての作用だけではなく「薬」としての特性を理解することも,今後重要となってくるのではないだろうか.
1) 千葉壮太郎ら:ウイルス,60, 163 (2010). ;LH - DQG -LDQJ ' Annu. Rev. Phtopathol., 52, 45(2014).
)HUQDQGH]&DOYLQR/et al.Plant Physiol., 166, 1821(2015).
;X3et al.New Phytol., 180, 911 (2008)