浪花節をレコードで聴く④
二代目日吉川秋水『新門辰五郎/柳生二蓋笠』(ローオンレコード)
●火消しで侠客の新門辰五郎のところへ大阪屋の若旦那がやってきた。家を勘当になったばかりか、そのきっかけになった吉原三浦屋の紫太夫が、お馬家貸の大三という、いけ好かない男に身請けをされたので、何とかして欲しいと言うのだ。そこで辰五郎は若旦那が病の床に就いたと嘘をつき、膏薬代として300両を大阪屋からせしめて三浦屋へ赴き、大三よりも早くに太夫を身請けしてしまう。面白くないのは大三で、店の者に盾突くが後の祭り。辰五郎は大三が黙ってはいないだろうからと、背の丈六尺余りある八百屋平兵衛を吉原に向かわせ、花魁の代わりに駕籠に乗せると、案の定、大三がその駕籠を襲い、血の雨が降るという「身替り花嫁」という一席。
●滑稽読みの二代目日吉川秋水の江戸を舞台にした話。十八番の「水戸黄門」とは異なり、江戸は浅草の火消しの親分が関西弁でやり取りをするナンセンスさ。それを許してしまうのが、情感込めて引っ張るのではなく、一節を短く唸る秋水の独特の節回しと、洒脱な啖呵にあると言える。途中、言い間違いや言い淀む部分も幾箇所かあるが、それも味。浪曲を心から楽しむというより、登場人物の生き方の中に見える滑稽な部分を節と啖呵にのせる様子を楽しむといったら言い過ぎだろうか。実際に声の良さや節回しに耳を澄ますというより、決して美声ではないが、節と啖呵の楽しさが秋水節の魅力である。もう一席は講談で知られる『柳生二蓋笠』。大久保彦左衛門は三河の出身だから江戸弁でなくてもいいが、「~しとんね」「~しなはれや」という、そのギャップがやっぱり面白い。酒色にふけり勘当になった柳生又十郎が、七年経って叔父である大久保彦左衛門の前に現われ、剣の腕を披露し、父である柳生但馬守に勘当を許される。『新門辰五郎』は啖呵中心であるが、『柳生二蓋笠』は節をたっぷり楽しめる。特に、8年ぶりの父と息子の対面、かつ対決場面でバラシと言ってよいのか、その畳み込むような節が聴きどころである。曲師は日吉川つや子。(2021.09.03.)