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The Weekend Traveler

世にもロックなお寺ステイ

2021.09.06 22:53

京都は綾部でとんでもないお寺に出会った。


観光地大使、かずこが事前にくれた宿泊リストの中から今回はお寺ステイなるものを体験してみることに。


こんな世の中だから見知らぬ土地でふらふら出歩くより受け入れてくれる一箇所で学びを深めよう、ということで。

正暦寺というお寺が今回の学びの宿。

同じく徳を爆上げしたい女子を伴い、一泊のお寺体験スタート。

全国にこのお寺ステイはあるみたいで予約とか事務的な事はどっかの会社がまとめてる模様。

1日1組限定の離れを使わせてもらう。

古いけども部分的なリノベーションとおかみさんの完璧な清掃と細やかな気配りでお部屋は快適そのもの。

特に水場はインバウンド需要を見込んで洋式に完全リフォームされていてそこらのホテルより上質な設になってて最高に快適。

お寺だからフロントとかないので部屋まで住職が説明に来てくださる。

このラグジュアリーな冊子が館内細則とアクティビティの案内になっている。

お寺の紋というのか、カッコいい。

古いけど丁寧に使われている床の間。

右の冷風機は壁に穴開けられるところが限られててエアコンが1台しかないから、とおかみさんが氷をパンパンに入れてくれてる冷風機。

部屋のあちこちに置かれてて、おかみさんは「暑くってごめんなさいねー」と本気で暑さが恨めしいテンションで何回も詫びてたけど、実際は充分すぎるくらい涼しい。

日本に住んでても和風の生活は遠い存在。

襖に直接絵を描こうって誰が考えついたんだろ。建築的にはただの間仕切りなのに、優美な絵のおかげで優雅な空間に。


かつては小僧たちが一直線に雑巾がけしてたかもしれない廊下もゆったりしたソファ席に。夜は綾部特産の和紙を使ったランプを置いておきますね、とこれまた気の利いたおかみのおもてなし。

住職のオリエン聞きながら、綾部に移住してお茶と和菓子を作ってるというグディーズさんの羊羹と冷茶をいただく。

ここまで朝4時起きで出てきて相当眠かったのに、おいしすぎて目が覚める。さっそく気合い入りました、住職!


さっそくお寺の中を見せていただく。

住職は夕食の準備があるのでおかみさんがツアーしてくれるそう。

普通、逆じゃね?

まあ、いいや。おかみさん、よろしくです。

夏用の袈裟がポップでかわいい。

このスペースは壁や間仕切りが多くて集会などに使いにくかったので数年前にリフォームした時に全部ぶち抜いたそう。デザイン的にも素敵なとこはちゃんと残してあってその潔さも気持ちよい。


コロナ前は鉄ヲタの檀家さんのリクエストに応えてプラレール全面に敷き詰めて地域の子どもらも呼んで鉄道イベントしたりしたそう。なんと自由な…

苔が見事なお庭は京都の名庭100選みたいなのに選ばれているそう。

でも自治体は何もしてくれません、わたしが大汗かいて手入れしてるだけです笑

と言い放つおかみさん。

京都だけじゃなくて日本の美しい風景はこういう掛け値なしの努力によって保持されてるのかもな。

にしてもおかみさんのぶっちゃけトークにリアクションを探す私たち。

檀家さんからのお中元はこうやって並べて見せるのがしきたりだとか。

このテーブルはこのために作った特製贈答品見せる用の机。

京都市内から嫁いだおかみさんは結婚当初、こういうしきたりとか文化の違いに大いに戸惑ったそう。

本堂を経て裏庭へ。

え?

えええ?

これは?


檀家さんが食べたいって言うからピザ窯作ったんですよー

と事もなげにおかみさん。


檀家さんも檀家さんなら寺も寺だぜ!!


綾部の町外れの寺の竹藪に唐突に現れたピザ窯に完全にやられた私たち。負けました、おかみさん。

ピザ窯でピザ焼いているお店まで視察に行って試行錯誤して自分たちで作り上げたそう。

ちゃんとお寺の紋入りなあたりが誇らしげでかっこよい。斜めに走る蔦もかっこよい。

正門の脇に設置された投句箱。

小さな鍵がかかってるところがなんだか優しくてかわいい。

しかしこの住職夫婦を唸らす句が詠める気はまるでしない。


ちなみにこの境内ではプロレスイベントをやったり石畳にレッドカーペット敷いてファッションショーしたり、一度は鐘撞場をDJブースにしたクラブナイトもやったそう。


この寺、完全にぶっ飛んでます。



地域の人たちが老いも若きも参加して、バーなんか行った事ないおじいおばあも楽しんでたってんだから、これぞ寺小屋というか大昔からのお寺さんの役割ってもんだろう。

いやはや、目で見てる景色以上の情報とこぼれ話多めのおかみさんツアーを終えて次はお寺の鐘つき体験。

18時の鐘を撞かせてもらう。

ちなみにDJブースになったのはここ。鐘もさぞかしびっくりしたことだろう。


時間になるのを待ってたら遠くから別の鐘の音が。


あー、いつもあそこちょっと早いんよねー


とおかみさん。


別のお寺のフライング鐘つきだった模様。


結構早くつかはる時は、あー、今日はお出かけなんかなーと思ったりするんです。


と。

なるほど。

お寺にも生活があるわけで。

さて、つきまーす。


これがなかなかいい音色で響かすのが難しい。そこらの町中に響いてるので緊張する。

しかし毎日の事とはいえ、こんなに軽くお客が鐘ついていいのか…恐縮です。


ガンガンついちゃってください、みたいなおかみさんのノリに背中を押されて無事に綾部の町に時を告げて、次は夕食のお時間。

古いけれど丁寧に管理されてて素敵な敷物と襖。特に敷物。模様すぎにはたまらんです。

さあさあ、お寺ディナーのフルコース、始まります。

お寺なのにお酒飲んでよし、というのを事前にホームページでも予約の人にも確認して望んだディナーなので最初からビールでぐいぐい。

おかみさんが一目惚れで買ったという陶器に漆を塗った色っぽいビアグラス。

コースターはオリジナルで作っちゃったんですってさ。お寺の紋がこんなスタイリッシュになるとはね。


さーあ!

始まります!

お宿のコースは綾部名産の軍鶏を一羽余すところこなくいただく、言わばお命頂戴しますコース。お寺指定の養鶏農家さんから予約がある時に1羽だけ調達するそう。

しかしながら、わたくし、哀しい事に肉という肉が食べられませぬ。

事前に伝えていたので別メニューを用意していただいた。こんな時、ほんと申し訳なくて自分を呪いたくなる。


けどまあ仕方ない。

前菜はなんと全て洋物メニュー。

器も素敵だし、軍鶏が食えないんだったらこれでも食っとけって感じは全くなく、むしろ新メニューをぶつけてくるシェフ住職。

泡醤油なるものも初めてトライ。

綾部では結構よく使うそうで、おかみさんはお刺身なんかはこっちの方がもう絶対いいと思うそうで。

確かになんか合理的な醤油でいいな。

もちろん美味しいし。

漆の器に入ってるのはまさかのビシソワーズ。


次はカルパッチョ。

お寺で食事してること忘れそう。

今回のコースでシェフ住職最大のチャレンジがこのブルーベリーソースだそう。

もう…何やってんすか…住職…


どの食事も本当の本当に美味しくて、お寺ステイって事でどんなに粗食でも酒が飲めればいいですという、密かなわたしらのナメた思考を根本から吹っ飛ばす絶品の数々。


ただ…

しかし…

品数が多くて、そして調子乗ってビール飲みすぎて、この後は写真も残せないくらいに腹パンパンで給仕される以外の時をのけ反りながら過ごすことに。

えぇ、わたしらが雑魚です。


デザートではまたグディーズさんのわらび餅が出ててきて、しかも思いの外、粒デカだったのだけれど、これまた満腹がふっ飛ぶ美味しさで、もう無理と思っていたのに無事に腹の中に収まる。

ぐうの音も出ない程に腹一杯のところにシェフこと住職が現れてお腹いっぱいなりました?と聞かれたので首がちぎれるほどに縦に振る。もう声出すのもしんどいっす。

にんまりする住職。

食べきれない程出して食べきれなかったら僕の勝ちなんです、と。

事実、ラストのご飯ものが食べきれなくて部屋に持ち帰る事にしていたわたし。

もう負けでいいです。

おかみさんに聞くところ、住職は料理や食べ物にもとても興味があって、新しいメニューやもっと美味しくするために大阪やら京都市内やらに視察に行ったりされてたそう。お寺とは別ベクトルの貪欲さ。


住職のあくなき探究心の賜物を一粒残らず堪能して部屋に戻り、昼間買った日本酒を更に飲み、持ち帰ったご飯も食べて一ミリの隙もない胃袋抱えてこの日はおしまい。

さて、翌朝。


一晩寝ても全くお腹は空いてません。

朝のおつとめ体験で腹を空かせよう。

という訳で必要以上の熱量で本堂へ。


正座用の丸いクッションみたいなのを用意してもらっていて、恐縮です、助かります。

下手にがんばらせないスタイルのこのお寺、根性論を信望しているどこぞの管理職にも見習っていただきたい。

お経を聞いて簡単なお説教を聞いて、色々鳴らしてみましょう、と体験させてくれる。

こちらの宗派はなかなか賑やか。

法螺貝はもちろんかなりの練習がないとできないので木魚や銅鑼や太鼓を触らせてもらう。

住職は法螺貝でポップス吹いてるっておかみさんが昨日言っていたような。

仮面ライダーみたいな木魚がとても良い音で叩き心地がよい。


この楽器はインドが起源で、とか、これは中国から来て、とか住職の説明を聞きながら、そうか仏教ってインドから大陸渡って日本に来たんだったなと今さら思い出す。


わたしが育った環境にあった宗教は、静かで厳かで凛とした雰囲気だったけども、ここはもっと賑やかで柔軟でいい意味で気軽で、一日お邪魔してるだけのわたしたちにもとても親しみやすい。

そんな感じで朝から仏教ってこんな感じだったなってのを思い出したところで、朝食の時間に。


昨夜のシェフ住職との死闘を思い出し、楽しみ半分、不安半分で朝食の部屋に向かう。

この漆の食器はふっるーくてぼっろぼろだったのを最近発見したそうで、それをたいそうな時間と技術とお金をかけて使えるものに修復してもらったんだそう。

このお寺の歴史とか伝統とか、古くてボロボロの食器が持つ本質的な意味は機能だけじゃないって事を大事にされている感じが伝わってありがたみが増す。リユースオブザイヤーを勝手に進呈したい。



朝食も絶品。

ほとんど地元綾部の食材とお寺の山で取れたもの。

お酒出します?なんて住職とは思えない冗談飛ばされながら朝食も完食。


さらにお寺アクティビティは続く。


次は御朱印体験。


このお寺はカラフルな絵を下地にした御朱印が話題で昨日もYou Tuberみたいな中華圏の女子がビデオ電話なのか配信なのかしながら大量の御朱印を買って行っていた。

コロナ禍で御朱印も通販される時代らしいっす。

さて、どんなもんじゃ。


住職が一式を見せてくれる。

案外、効率よく作れるようになってて驚き。


そしてさらに驚きがこのメタリック墨汁という存在。

小学生をときめかせるキラキラペンのまさに墨汁バージョン!

墨汁がきらめく!墨汁がカラフル!

初めて見るメタル書道の世界にテンション上がりまくりの中、新たな御朱印オーダーが入ったので、住職にお手本を見せていただく。


文字は手書きなんですね、さすがに。

そしてさすがに美文字ですね、住職。


何か好きな文字書いていいですよと言われたので渾身の一筆。

住職が笑ってくれたので、ここはわたしの勝ちですね、と昨日の夕飯のにんまりをお返しする。

11時チェックアウトなのにまだ続くアクティビティ。

ラストは竹林座禅。

昨日のピザ窯の奥にはお寺らしい竹林が広がる。暑いわ、蚊はいそうだわ、でなかなか戦慄のひと時。

しかし!


ここも初心者へのありがたいご配慮、蚊帳が!

しかも時勢を反映したディスタンス仕様じゃないか!

座禅の極意、みたいなお話をした後、あとは寝転んでもなんでもいいです、魂をしばし解放してくださいと言い置いて、住職は去っていかれた。

お言葉に甘えて寝転んで、蝉とか虫とかの音に耳を傾けつつ静かに過ごしてみる。

結果、暑さも蚊も気にならず30分ほど爆睡し、あースッキリしたーと座禅には申し訳ないけど有意義な時を過ごし、ようやくチェックアウトに向かう。

24時間も滞在してないけれど、学びだらけのお寺ステイ。


綾部の、しかも町外れみたいな立地で人を呼び込むって、みなとみらいでエアビーやりますとは桁違いの難しさがある。


だけども、このお寺の住職ご夫婦が、観光客向けにというわけじゃなくて元々持ち合わせたサービス精神とか好奇心とか探究心が至る所に溢れていて、結果、期待以上、お値段以上の体験の数々。


住職が客人の食事を嬉々として用意して、お酒もお肉もお魚もじゃんじゃん喰らってよくて、正座もクッションかませてよくて、御朱印もキラキラ墨汁で好きな文字書かせてくれて、座禅に飽きたら寝転んでよくて。


何にしても型破り。


何にしても自由で柔軟で、それでいてちゃんと大事な事が腹落ちしてくる。

コロナ禍でやれない事ばっかり嘆きがちだけど、できることって身の回りにもっともっとあるんじゃないかと勇気をもらったし、住職とおかみさんのしなやかな思考は座禅で喝入れられるよりも衝撃と感動が残してくれた素敵なお寺ステイだった。

綾部の旅はこれでおしまい。

胃袋鍛えてまた来ますね、住職。