講釈師・宝井琴星の魅力
●今月9/12(日)の14時から墨亭で「宝井琴星の会」を開催します。琴星先生は墨亭初登場!多くの方に聴いて欲しいのが「琴星講談」。講談未体験の方、講談がちょっと苦手な方、講談大好きな方……と、きっと講談を楽しんでもらえる先生です。そんな宝井琴星先生の”勝手な”推薦文をここに掲載しますw。
●硬い読み口というのがある。武芸物や修羅場、お家騒動といった話を形を崩さずに、感情よりもリズムや調子で読み聞かせると言えばよいだろうか。先年亡くなった六代目宝井馬琴や一龍斎貞水の読みにそれを感じた。今、硬い読み口というと、二ツ目ではあるが宝井梅湯にそれを感じないでもない。
●それとは反対となると、軟らかい読み口という言い方になるのだろうが、あまりそういう使い方はしない。世話物や笑いの多い話、わかりやすく読み下すような読み口と言えばよいだろうか。最近はこちらの方が多くなったような気がする。
●東京の講談は軍談物がはじまりだけに、どちらかというと硬い読み口が好まれてきたように思える。寄席等でトリを務める者が修羅場で締めるという不文律があるのには、そういう考えがあったからであろう。
●先に挙げた六代目宝井馬琴、そしてその師匠である五代目は硬い読み口であったが、その弟子はというと、宝井琴調は軟らかな読み口。武芸物や侠客物であっても、舞台や主人公を柔らかく包み込むような読み口が魅力であり、宝井琴柳は元は小金井芦州の弟子であったことから、格調高い、どちらかというと硬い読み口と言える。
●ここにもう一人、宝井琴星がいる。琴星は硬軟のどちらかというと、いつもグミのように感じる。柔らかくはあるが、弾力があるだけに噛みしめると、その度に味わいが出てくる。宝井のお家芸でもある軍談物も手掛けるが、やはり琴星となると、何を読んでくるのかわからない新作講談がまた楽しみである。別項でも示したが、琴星の高座に接していて、同じ演目というのに出会ったことがない。勿論、追いかけ続けていれば、重なる演目もあろうが、大抵は異なる演目を聴かせてくれる。
●近々で言えば、いわゆる古典であれば『雲居禅師』『八丈島物語』『梶川与惣兵衛』あたりを、硬いとまではいかないが確かな読み口の中に、滑稽さがにじみ出てくるように、いわばわかりやすく聴かせてくれ、一方で新作はいうと……。
●横浜市営地下鉄「舞岡駅」の名の由来を源頼朝挙兵にはじまる歴史とともに掘り下げていく『舞岡の由来』。四国を治めた長曽我部氏の生き様を描いた話かと思えば、急展開をして徳島の阿波踊りの話になる『阿波踊りの由来』。鳥居忠英という大名が下野国の壬生藩に国替えとなった際に干瓢を名物にしたという『干瓢大名』。これは干瓢好きの神田菫花との干瓢トークに着想を得て創作したと聴いているが、そもそもの干瓢トークもまた気になる。そして、「ロミオ、あなたは何故ロミオなの」と釈台の前で呼び掛ける、シェイクスピアの代表作『ロミオとジュリエット』等々、更にかつて創作した『キリストの墓』といった話を掛け直しているらしいので、挙げ出したらキリがない。
●さて、宝井琴星先生、次の高座では何を聴かせてくれるのか。現代の講談を楽しみたい理由がまたここにもある。
●ご予約受付中です。もしよろしければ、墨亭でお待ち申し上げております。
※写真は「講談協会」HPより借用しました。