浪花節をレコードで聴く⑦
港家小柳『深川裸祭り』(ローオンレコード)
●鳶の千太はある日、仕事中に高いところから落ち、打ち所が悪かったことから失明してしまう。先に女房を亡くした千太には一人息子の千吉がおり、仕事に出ることもできないので、隣のおかみさんの世話になるが、深川八幡例祭の日に、千吉はみんなと一緒に神輿を担ぎたいと言ってくる。千太は自分の着ていた半纏と股引を着けさせて祭りに行かせると、千吉が「そんな恰好で担がれちゃ、町内が笑われる。そう意気地なしへ言ってやれ」と、鳶の頭に突き飛ばされたと帰ってくる。それを聞いた千太は、仕事の指図をしておきながら、事が起これば自分のことを突き放し、意気地なしと呼んだ頭に怒りを覚え、千吉に神輿のところまで連れて行けと家の外へ。ところがそこで一人の男が現われ、「俺が話をつけてやる」と一言って来る。この男こそ新門辰五郎。辰五郎は親子の代わりに、神輿は格好ではなく心で担ぐものだと裸になって神輿を操り、千太が亡くなったあとは千吉を引き取り、立派な鳶へと育て上げる。
●「港家小柳」という芸人はその芸歴に謎を持つ人が多い。事典や資料にその名を残すことが少ないのも原因だ。現在、この『深川裸祭り』を高座でかける港家小ゆきさんや小そめさんの師匠である五代目港家小柳も不詳の部分が多かったが、ここで紹介するのは昭和48年に亡くなった四代目で男性の小柳である。師匠は初代港家小柳丸というから、堺正章の父堺俊二の兄で、その十八番がこの『深川裸祭り』であったという。その師匠の話を継いだ四代目小柳は、空気を突くような高音の声で唸っていくが、その息が長いだけに、自然に聴き込んでいってしまう。目が不自由になった父親をせっつく子どものセリフはピッタリで、また、ちょっとかすれた声が威勢の良い職人をもうまく描け、”切れる啖呵”を聞かせてくれ、更に父親としての情愛がにじみ出るようなセリフが印象的である。テンポと情とその声で聞かせていく一席。曲師は港家柳子。尺八は中田東作。(2021.09.08.)