もういいかい?
「もういいんじゃないの」
つい先日、夜、寝しなに夫がぼそっと言いました。
(今現在、亡き娘の部屋に二人で寝ています)
というのも、家の中で一番快適な部屋だということがわかったからです。
九の字の広めにとった広めのバルコニー付き、大きい窓が壁二面にあり、季節によっては遠目に富士山が一望できます。
亡き娘のベッドと勉強机は二年くらい前に解体処分されていて、宿泊客用の部屋にもしていましたが、(そんなに泊り客なんて来ない昨今コロナ禍ご時世)。
テレビも設置した寝室もどき兼、娘の(僅かな)作品展示室にもなっているわけです。
「もういいんじゃないの」は、
部屋のカーテンレールに吊るしてある、亡き娘の「なんちゃってディズニー☆プリンセスドレス」に対しての言葉でした。
確かに……ニャンズにじゃれつかれて、すっかりぼろぼろの『美女と野獣』の衣装。
でも、こうして言われてハッとしました。
私にとってはもう既にこの部屋のインテリアの一つと化していたようなこのプリンセスドレスも、夫にとっては見るたびに「心に障る(?)モノ」だったのかなと。
……なんて、深読みでしょうか。
問われた私は、答えられず無言を通しました。
悲しいとかそういうことよりも、あらためてプリンセスドレスに目を向けて、
――ああ、随分ぼろぼろだし色褪せてきてるなぁ
そんな思いと共に、亡き娘との楽しかった思い出に目を細めてしまい、それどころじゃなかったという感じでした。
夫は無言の私に対して、バツが悪そうに、
「小さいほうのドレスはまだ綺麗だから、それは飾っておいてもよいけどね」と。
なんか……、気を遣ってくれてるのかな… と。
こんなやりとりがあり、そういやうちにはまだまだ「もういいんじゃないの?」というものが事後から四年八カ月の間(本日現在)、家じゅうのあちこちに置いたままのものがあることに唖然としました。
(自分ではかなり遺品整理したつもりだったのですが)
最後の夏サンダル、冬ブーツ。
自転車…(いつの間にかパンクしてるまま、ちょっとした物置になってる?)
ペットと称していた白豚姫ぬいぐるみポピーその他。
(クローゼットの中には…まだまだ娘が着ていたお気に入りの洋服や、最期の日に学校に着て行ったオーバーコートもあったり)
知らない人が見たら、なんてことない家の中の様子。
でも、大切な家族を喪った遺族としては、毎日目にしてるとはいえ… どう思っていたのか。
お互いの意識の勘違い、思い込みもあるのかなと、気が付いたわけです。
きっと彼(夫)は私に気遣って、ずっとぼろぼろのプリンセスドレスを飾り続けていることに口を出せずにいたのだろうと思うと、可哀想なことをしたなと、正直このときに思いました。
(これも勘違いだったりしてね!?)
プリンセスドレス――
「もういいんじゃないの?」
――そうだね。もうとっくに私の中では解放していたのかもしれない。
――ずっと黙って様子見していてくれてありがとうね(^_^;)。
今月下旬は亡き娘の、あれから五回目の誕生日があります。
解放できるものもあれば、新しく手にしたいものもある、始めたいこともある、そんな九月を迎えられることに、五年前の私は驚異の目を見張っているかもしれません。
◆自死遺族の集い