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ゆとりらYOGA

「さよならテレビ ドキュメンタリーを撮るということ」(読書感想)

2021.09.10 08:30

東海テレビのゼネラル・プロデューサー、阿武野勝彦氏の新刊。

同タイトルのドキュメンタリー映画を観たのはもう1年以上前…。

この本は、映画「さよならテレビ」だけではなく、今まで東海テレビで製作された数々の話題作について回顧し、ドキュメンタリーとは、映像とは、メディアの役割とは、というところにまで踏み込んで書かれています。著者の生い立ちや熱い思いも伝わってくる1冊。

私は、「人生フルーツ」(2017)が大好きで、劇場で5~6回は観ました。その都度違う友人を連れて行って、最初と最後は1人で行ったかな…。とにかく、観る度に新たな発見があり、ブレがちな自分の芯を意識し直すチャンスを貰いました。

老夫婦の簡素な暮らしぶり、だけでなく、その場所にたどり着くまでの「時をためる」作業の尊さを教えて貰いました。

この「人生フルーツ」から、東海テレビ製作のドキュメンタリー面白い!と思い、「ヤクザと憲法」「平成ジレンマ」「死刑弁護人」「ふたりの死刑囚」などを観てきました。

どれも凄く興味深かったですが、なかでも強烈だったのは「ホームレス理事長」!

この本には、この作品「ホームレス理事長~退学球児再生計画」は、それまでのドキュメンタリー6作の中で、入場者数はぶっちぎりの最低だった、とあります。

なんで!?めたくたに面白かったんだけど!

(↑この作品には、監督が球児を9連発で平手打ちするというシーンがあり、当時、大阪・桜宮高校の体罰で生徒が自殺した問題がありました…。)


山田理事長も、また、切り拓く人である。もっと踏み込んで言ってしまおう。不登校、暴力、闇金、ネットカフェ……。このドキュメンタリーは、社会からはみ出した世界の連続だ。理解できない人々もいるだろう。しかし、世の中には理解不能な現実だってあるものだ。理解できないと切り捨てるのではなく、まあそういうこともあるかと許容するほうが豊かな生き方だと思うのだ。考えてみれば、子どもの頃にわからなかったことが、ある日、合点がいくこともある。人間の脳は、思っている以上に度量が大きいはずだ。
 それでも、自分の理解を超えたことをどうしても認めない人がいる。そういう人に限って、とても整った論理で批判を展開する。だが、理事長や退学球児が実際に生きていることは事実で、そのことだけは否定することはできない。
(P132 第5章 世の中には理解不能な現実がある)

阿武野氏のこういう眼差しにとても共感します。

現実を見るってこういうことなんだなと思います。

自分が住んでいる日本で、

家があって、仕事があって、学校に行ける、ことが当たり前ではない世界があるんだということを、いつも心に留めておきたいと思います。

(山田理事長のその後~現在を知って戦慄しました…いろんな意味で!)


後半の、樹木希林氏との痛快エピソードは、楽しさと緊張のお裾分けを頂いてるみたいな気分で読みました!

この方が亡くなった後、怒涛のように追悼本が出た理由にも少し触れられていました。

私は当時、ムックの初版本を1冊購入しましたが(阿武野氏の追悼文と、吉田豪氏のご本人へのインタビュー載っていたから買った)、巻末、娘さんの内田也哉子氏のあいさつ(葬儀の喪主代理の言葉)がミスプリだったようで、別紙が差し込まれていて驚いた記憶があります。

何だか出版業界の内情を、いろいろ想像してしまうような出来事でした。


東海テレビの一連のドキュメンタリー映画は、ソフト化されていませんが、日本映画専門チャンネルで随時放送されているみたいです。
NHKのそれとは違って、何とも言えない可笑し味があるんですよねえ…勿論重いテーマを扱っている作品も多いですが、問題意識や冷静さだけでない何かが、映像から伝わってきて、私は大好きです。