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発酵食品

2018.09.11 04:50

https://www.nippon.com/ja/japan-topics/c08002/ 【発酵食品で元気に:食の冒険家・小泉武夫氏が語る神秘の力】より

夕方になるとスーパーの納豆が売り切れ、漬物も品薄になる。発酵食品は本当に体に良いのだろうか?発酵学の第一人者・東京農業大学名誉教授の小泉武夫氏が、近年明らかになった発酵食品の健康効果を語る。

発酵食品の需要が急増している。なぜこんなにも注目されているのか。

おいしく免疫を高める

幾つかの理由がある。第1は、国民の健康志向の向上だ。発酵食品は体にとって良い食べ物だ、とうすうす分かってきて、それでは食べてみようということになった。第2は、発酵食品が究極の自然食品で、添加物を加えず、原料を発酵微生物のみによって天然の状態で造り上げる、他の食品とは全く違う価値を持った食べ物だからだ。第3は、天然のおいしさや特有の匂いなどに神秘性を感じて、一度その真味を知ってしまうとまた欲しくなる性格の食べ物であるからだ。伝統食品として昔から食べられてきた信用性のある嗜好(しこう)食品だと分かってきたのだろう。

本当に発酵食品は体にとって保健的機能性(健康効果)を持っているのか?もちろん、その通りなのである。穀物や動物の乳、野菜、魚類を発酵させて出来上がった発酵食品には驚くほどの栄養や滋養成分がある。例えばビタミン類や必須アミノ酸類、健康効果のあるペプチドなどが蓄積されている。これは発酵微生物の生理作用によって生成されたものである。高い血圧を正常に戻す機能性物質や、がん細胞の発生を抑える抗酸化物質、中性脂肪を減少させたり血栓を溶解させたりする物質、放射性物質を防御する物質、肝臓の機能効果を高める物質などを発酵微生物は生合成して発酵食品内に蓄積する。

最近の研究で、発酵食品には免疫を活発化する効果があることも明らかになった。私たちの健康は正常細胞によって維持されているが、突然変異が起こると正常細胞ががん細胞に変化し、大変困ったことになる。一方、自然変異すると正常細胞は免疫細胞に変化し、大変うれしいことになる。免疫とは「病(疫)気から免れる細胞」という意味で、免疫細胞を多く持つ人は、ウイルスなどの侵入を免役細胞が阻止してくれたり、体内でがん細胞が発生しても抑えてくれたりする力を持っている。

免疫細胞はほとんど大腸でつくられる。食べた発酵食品が大腸を通過するとき、発酵食品中に含まれていた発酵微生物の菌体が大腸を刺激して、正常細胞を免疫細胞に変えることが分かってきた。

とにかく発酵食品には、以上述べたような多くの保健的機能性が備わっているのだから、まさに神秘的な食べ物と言ってよい。以下に、日本の代表的な発酵食品、納豆、みそ、米酢、漬物、熟鮓(なれずし)について、これまで明らかになった健康効果を述べる。

納豆

納豆は、よく煮た大豆を納豆菌によって発酵させた食品。納豆は煮ただけの大豆に比べて、納豆菌の繁殖によってビタミンB2が10倍も増えている。

ビタミンB2は成長を促進したり、体内におけるさまざまな代謝を活性化させたりする役割を果たしている。

また納豆に多く含まれるビタミンB1はかっけ予防、しびれや筋肉痛、心臓肥大、食欲減退、神経症などの防止に、

ビタミンB6は皮膚炎を防ぎ、体内でアミノ酸の代謝や成長に関与する。

ニコチン酸は皮膚、消化器、精神の障害を主症状とする病気に対する抗ペラグラ因子になるなど重要な働きをしている。

最近になって納豆菌には、複数の健康的機能があることが分かってきた。腸内で有毒菌の繁殖を防ぐ作用がある他に、二つの重要な酵素が見つかったのである。

一つはナットウキナーゼという酵素。血栓の主成分であるフィブリン(繊維素)を溶かしてくれる。この酵素は血栓溶解剤としてすでに開発されており、経口投与により腸管内から血管に吸収されて血栓を溶解することが証明され、経口繊維素溶解治療法の薬として実用化されている。

もう一つは、アンギオテンシン変換阻害酵素。抗血圧上昇性酵素で、高血圧の降下作用を持つ酵素として注目されている。免疫を活性化する効果もある。

納豆の栄養価で最大の特長は、豊富なタンパク質だ。全体の約17%がタンパク質で、牛肉の18~19%と量はほぼ同じ。遊離アミノ酸(ほとんどが必須アミノ酸)も発酵前の大豆に比べて比較にならないほど増加し、栄養価が極めて高い。うま味の基はグルタミン酸で1%以上も含まれている。他に無機質(ミネラル)のカルシウム、リン、カリウムも豊富だ。

みそ

日本のみそ文化圏地図と郷土みそ(日本語のみ) 提供=小泉武夫

みそは、大豆や米、麦などの穀物に塩と麹(こうじ=微生物「麹菌」を、米や麦、大豆など穀物に繁殖させたもの)を加えて発酵させる日本の伝統調味料。基礎調味料「さしすせそ(砂糖、塩、酢、しょうゆ、みそ)」の「そ」に当たり、微生物の力で造り出される。みそのように長期間熟成させる発酵食品は、うま味が強く、肉、野菜、魚などを漬け込んで長期保存もできる。みそに含まれるタンパク質は麦みそで10%、豆みそで19%前後と豊富で、昔から米や芋などを主食とするでんぷん主食型民族の日本人にとって貴重なタンパク源だった。中でもタンパク質を構成するアミノ酸は、リジンやロイシンといった生命の維持に不可欠な必須アミノ酸が多く、粗食の日本人に不足していたビタミンやミネラル類も豊富に含まれるため、栄養面からも私たちを大いに助けてきた。

発酵によって生じたリン脂質の一種レシチンは高血圧の予防に効果があり、リノール酸は心臓や脳髄中の毛細血管を丈夫にする働きがあることも分かっている。

みそには、大腸がんを防ぐ効果のある食物繊維や、腸内のビフィズス菌を増やすオリゴ糖も多い。みそのビタミンBは酸化を防止し、がんを予防する。1981年10月の日本癌(がん)学会で、当時国立がんセンター研究所の平山雄(たけし)疫学部長は「みそ汁の摂取頻度と胃がん死亡率との関係」について疫学調査を発表した。みそ汁を毎日飲んでいる人とほとんど飲まない人とを対象に調査した結果、みそ汁の摂取頻度が高くなるほど、人口10万人当たりの胃がんでの死亡率が低くなっていた。さらに毎日飲む人は胃がんの他に、全部位のがん、動脈硬化性心臓疾患、高血圧、胃、十二指腸潰瘍、肝硬変などの死亡率がそれぞれ低くなることが観察された。

みそでは大豆アレルギーがほとんど起こらない。

血中のコレステロールを下げる不飽和脂肪酸やメラニン色素の合成を防ぐ遊離脂肪酸も多く含んでいる。

強い血圧上昇抑制作用、放射線防御効果と免疫賦活性を持ち、抗腫瘍性と細胞に変異を起こさせる物質の活性を抑制する抗変異原性も認められている。

野菜の栄養がみそ汁にたっぷりしみ込んだ豚汁 ©Pixta

米酢(こめず)

米を発酵してつくった酢が米酢。日本で酢を使った料理に関する最古の具体的記載は「万葉集」巻16(7世紀後半~8世紀後半)に見られる。塩と酒としょうゆと酢は古くから重要な調味料で当時はそれを「四種(くす)」と呼び、この4種の調味料を小さな器に盛って食前に置く風習があった。

米酢の効用にはまず疲労回復効果がある。疲労原因の一つに、筋肉を中心とした体内に疲労物質の乳酸が蓄積されることは前々から分かっていた。疲れた時、酢が体内に入ると、エネルギーを作り出すTCA回路の循環が活発になり、ビルビン酸が乳酸に変化せずに分解される。

老化防止効果もある。例えば高血圧症の患者に、毎日臨床的に酢を一定量投与した場合、投与しなかったグループに対して血中総コレストレール値や中性脂肪値が減少したという。

酢には体内の脂肪分解を促進するダイエット効果も認められ、

さらに高血圧症を発生させるアンジオテンシン系の酵素を阻害する成分も発見されて高血圧予防効果もある。

糖尿病予防や肥満抑制、脂肪肝改善、過酸化脂質抑制、抗腫瘍性などへの効果も認められている。

漬物

日本には3000種類以上の漬物があり、世界一の漬物王国と言われている。ダイコンの漬物だけで80種類ある。最近、日本の漬物が、健康を支える妙薬とまで言われるようになった。

動脈硬化、がん、心臓病、高コレステロール、糖尿病といった生活習慣病の予防効果が、多くの研究機関の報告や臨床試験で明らかにされてきたからである。便秘宿便から起こる大腸がん、高カロリー動物性食品摂取過剰による高コレステロール症、動脈硬化症、肥満、心臓病、糖尿病などの症例がある。

水に溶けるペクチンなどの食物繊維は、動脈硬化や心臓病の予防に役立つ。血液中のコレステロールや胆汁酸の排せつを促進するのだ。

一方不溶性の食物繊維は胃や腸などで消化器官を物理的に刺激して、インスリンやホルモンの分泌を高めて便秘を解消し、糖尿病や直腸がんなどを防ぐメカニズムが生じる。

熟鮓(なれずし)

熟鮓は、塩をした魚を炊いた飯と共に長期間発酵させた伝統食品で、鮒鮓(ふなずし)や鯖鮓(さばずし)、秋刀魚鮓(さんまずし)などがある。現在、一般に食されている「すし」は、発酵させてないため「早ずし」と呼ばれる。

熟鮓は魚の長期保存のみならず、発酵中の微生物がさまざまなビタミン群を多量に生成し、含有量も豊富であるためビタミン補給の点でも優れた食品だ。

その上、熟鮓に含まれる良質の乳酸菌や酢酸菌は生きた活性菌で、腐敗菌の繁殖を阻止する細菌群が多量に腸内に住み着いて腸を整える。

さらに、風邪の予防、血圧上昇の抑制、疲労回復、免疫賦活作用、便秘解消などが報告されている。


https://www.nippon.com/ja/japan-topics/c08001/ 【目に見えない微生物のパワー】より

微生物の持つ力に注目する吉田さんは、発酵菌を使って土壌を豊かにすることで農薬を使わない野菜作りを実践する。微生物の力で生ごみや雑草などを発酵させた堆肥は土を豊かにし、その土で野菜を栽培するとがんや老化を予防する効果があるといわれるファイトケミカル成分が高まり、病気や害虫を寄せ付けない丈夫な野菜に育つ。「発酵菌は人間の身体でも同じような現象を起こしていると思います」と吉田さんは言う。

吉田俊道さん 提供=吉田俊道

吉田俊道さん(撮影/長崎新聞社 尋木章弘)

微生物豊かな土壌での野菜作りと同じポイントを押さえて保育園などで食改善を実践したところ、4週間足らずで子どもたちの体調に変化が表れたという。

長崎県の農業改良普及員として、生産現場で農業と深く関わってきた吉田さんは「菌ちゃんふぁーむ」の社長。1996年に県庁を退職して活動の幅を広めるために99年に「NPO法人 大地といのちの会」を立ち上げた。

毎年全国各地で100回以上の講演に招かれ、子どもたちのおなかの菌を増やす「菌ちゃん人間作り」のための「生ごみリサイクルと食生活法」を広めている。福岡県久留米市では吉田さんの話を聞いて、保育園の5割以上がほぼ毎年野菜を作り、給食にも用いている。

一日1回の給食で子どもたちが…

自然の一部である菌にはさまざまな働きがあることを、吉田さんは有機農業を通じて子どもたちに伝えている。その活動は、ドキュメンタリー『いただきます:みそをつくるこどもたち』(2016年公開・オオタ ヴィン監督)の続編として公開された『いただきます:ここは、発酵の楽園』(20年1月公開・同監督)で紹介されている。有機栽培で育てた野菜、小魚、みそなどを使った食事をして腸内環境を調えることで、子どもたちの体調が改善された体験だ。

生ごみリサイクルと食育給食を作り始めてからの園児一人当たり年間病気欠席日数

私立保育園マミー(長崎県佐世保市)は、給食の食材で使う野菜の半分を、園児と一緒に生ごみリサイクルで育てた無農薬野菜で賄う。堆肥は給食や園児の家庭の生ごみを発酵させたものを使う。園児と一緒に作った発酵食品(みそ、たくあん、梅干し、ぬか漬け)も給食に使う。2006年から改善した給食を食べて野外で遊ぶ取り組みを始めたところ、一人当たりの年間欠席日数が平均で5.4日だったのが、2年後には0.6日に減った。

香川県三豊市立仁尾小学校では、吉田さんの講演を聞いて、2012年4月から週に5日のうち3日、それまでの調味料の代わりに一人当たり0.5グラムの煮干しと昆布とアゴを空いりして混ぜた粉末を入れたり、よくかんだりするように指導した。同年には児童330人のうち体温35度以下が30%だったのが、翌年には5%以下に減少。一方、36.5度以上の児童は30%以下だったが、2年間で80%以上を占めるまでに増えた。体温の上昇は欠席者の減少にもつながり、12年に年間延べ764人いた欠席者が13年に172人、14年には66人にまで激減した。

「4週間試すだけで変化が表れます」と吉田さん。映画『いただきます』のせりふに、食べたものが私たちの身体になる(You are what you eat)とある。食生活を改善すると、便の切れが良くなったり、臭くなくなったり、爪や髪の毛の質が変わったりする。子どもたちの体温が上がって体調が良くなり、集中力も向上し、心が穏やかになることでけんかがなくなり、ぐずる子が減ったと保護者や教師から多くの声が寄せられている。

青虫が、キャベツを選んでいる?

「農薬を使わずに育てた野菜」と聞くと、野菜に虫がついているイメージを持つ人もいるかもしれない。「違うんです」と吉田さん。生ごみと発酵菌で土づくりをした畑で育つ元気なキャベツに青虫を放しても青虫はキャベツに寄り付かないが、同じ畑でも弱って腐りそうなキャベツには青虫が群がり、向こう側が透けて見えるほどきれいに食べ尽くす。吉田さんは「青虫がキャベツを食べるのではなく、弱いキャベツを青虫が選んでいるのです」と言う。虫が寄り付かない野菜ほど、丈夫でおいしい野菜の証であることを、写真を見せながら教えてくれた。

豊かな土壌で育つ元気な「菌ちゃんふぁーむ」のオーガニック・キャベツ 提供=吉田俊道

豊かな土壌で育つ元気な「菌ちゃんふぁーむ」のオーガニック・キャベツ

同じ畑で上は元気なキャベツ、下は弱っているキャベツ。虫は弱いキャベツに集中する。提供=吉田俊道

同じ畑で上は元気なキャベツ、下は弱っているキャベツ。虫は弱いキャベツに集中する。

免役力の7割を腸内細菌が作る

なぜ土に発酵菌を使うと、農薬を使わなくても丈夫な野菜が作れるのか。「菌が土を耕してくれるんです。有機物が十分に分解された菌の豊富な土で育った野菜には、病害虫は付きにくくなります。反対に土の中の菌が微妙に腐敗発酵していたり、度重なる殺菌剤の使用で菌が少なくなったりした土壌は抵抗力が弱くなり、病害虫が増殖しやすいのです」と吉田さんは解説する。

食物と一緒に入ってきた病原菌はその菌数が少ない場合、常在している腸内フローラ(細菌)により排除されることを研究した文献(※1)もあることから、吉田さんは人間の身体にも同じことが言えると考えている。

人間の腸には免役系細胞の約7割が、特に大腸の粘膜に集まっていて、免疫力の70%を腸内細菌がつくる(※2)という。発酵菌が土壌を豊かにしたように、腸内でもフローラ(細菌)の種類と数を増やして腸内環境を調える。「みそやしょうゆなどで発酵菌を取ると腸内フローラが増え、それによって腸内環境が良くなります。そこに餌となる野菜や微量栄養素を取ると免役力が高まるのです」。有機野菜で子どもたちの食改善に取り組んできた体験からの気付きだ。

「腸内フローラの餌として、ミネラルは海産物(小魚、海藻など)、玄米や雑穀、未精製の油(オリーブ、アマニ、エゴマなど)、乾物(ヒジキ、高野豆腐など)、岩塩などから摂取できます。ファイトケミカルは旬の野菜、できれば無農薬なのに病害虫の少ない野菜に多く含まれています」と吉田さんは付け加えた。

みそやしょうゆなどの発酵食品と食物繊維たっぷりの旬の野菜、ミネラルなどの微量栄養素を一緒に取る。これが、吉田さんが勧める免疫力を高める食生活なのだ。

一杯のみそ汁からできる腸活のススメ

3月に開催されたオンラインサミット『奇跡を起こす子育て』で、吉田さんは講師として自らの体験を基に腸の環境を調える「腸活」を紹介した。例えば、

1日一杯のみそ汁に旬の野菜や豆腐をたくさん入れて食べる。忙しい時はみそを湯で溶かすだけでもいい。煮干しや海藻などのミネラルも加えてまず4週間続ける。

食品ラベルをチェックしてなるべく自然素材だけで造ったみそやしょうゆなどの発酵食品を選ぶ。

食べる時は1口30回以上かんで腹八分目を心掛ける。

免役システムを活性化するために、空腹時間を増やす(腹八分目)。

夜に冷たいものや果物を取りすぎず、おなかを暖かく保つ。体温が低いと免疫力が下がるからだ。

「持続可能で、土壌も野菜も人も元気になる農業を目指しているのです」と吉田さんは言う。「地球の『いのち』の循環の中に自分がいることを体験すると、大地に支えられているという安心感が生まれます。大地や食べ物をありがたく思う心が育ち『この世にいらないものなんて何もない』という感覚さえ生まれます」と著書「『元気野菜づくり』超入門」で述べている。先人の知恵・発酵食品と旬の野菜でおいしい「腸活」をして、免疫力を高めて病気に負けない健康な体を手に入れたい。