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砕け散ったプライドを拾い集めて

グラスの底についてくるコースター

2021.09.13 12:07

 「書き出し小説大賞」というものがある。この「書き出し小説」とは、〝書き出しだけで成立した極めてミニマムな小説〟と定義されている。その一行だけを審査対象にするという。
ただしこの賞がどれほど権威のあるのかは、さっぱり分からない。

 その36回(2013年)で秀作になっていた次のものが結構沁みるのだ。


 「グラスの底についてくるコースターを剥がし続けるだけの飲み会だった」


 この飲み会のメンバーはイモだらけで、トピックスも弾むような興味深いものでもなく、口説きたいほどのいい女も見当たらず、かと言って、早々にオイトマするほどの義理も欠きたくない。そんなこの男の懊悩と鬱屈が伝わってくる。


 その前年の35回の課題部門の「電車」での重賞作のなかでは、次のものがよかった。


 「ハトが乗り、次で降りた。」


 東京を臨みながらの大外輪のような「武蔵野線」。横浜鶴見から千葉の船橋へ半円形を描いているが、永遠に東京には近づけない悲しさよ。その路線を一時期使っていたが、「西国分寺」駅などでは待ち合わせの時間が長く、その間、鳩が乗り込んできて、そのまま次の駅まで通勤することがある。

 ロシアのモスクワ近郊の野良犬たちは、モスクワまで電車で通勤してきて、残飯を漁り、夕方また電車で近郊に退勤するという話があった。

西国分寺の鳩はただのレジャーのように見えた。