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Adolescence

観音寺葉月(1話)

2021.09.14 15:00

「ふぅ、ここなら誰もいませんわね」


ある春の日のあたたかい午後の時間。

観音寺葉月は、自宅の中だというのに人目を気にして辺りを見回していた。

目の前に広がる広い庭園には色とりどりの花が咲き乱れている。


誰も人はいないようだ。


お父様もお母様も、奥のお部屋にいるし、大丈夫ね。


すぅっと深呼吸して、胸に手を重ねる。



ラ、ラ、ラ…



葉月の好きなこと。それはこの縁側で思い切り歌うことだ。

ただ、人に聞かれるのは恥ずかしい。とくに身内には。

だから、いつも細心の注意を払ってタイミングを見計らっている。


それなのに。


いつも1人だけ邪魔してくる者がいる。


「はーづきちゃん」


来た。


パッと歌うのをやめ、縁側でのんびりとくつろいでいる様子を演じる。

もうバレていることには気づいているが、必死に取り繕う。


「なんですの、姉さま」


奥の廊下から現れたのは、6つ歳の離れた姉、観音寺円(まどか)だった。


「もー、何度目よ。お姉ちゃんには秘密にしなくていいってば」

にやにやしながらそう言って勝手に葉月の隣に腰掛ける円。


葉月はこの姉が憎たらしくて仕方がない。


いつもふざけたようなひょうひょうとした態度、妹を適当にあしらう姿、何より同じ遺伝子を持つはずなのにすらっと高い背丈。


気に食わない。


「何のことかわかりませんわね」

「私葉月ちゃんの歌好きなのにな〜?もっと聞かせてよ〜」

「嫌ですわ。大体あなたが入ってこなければ…」

「あれ〜っ、歌っているのは本当なんだ〜」


いたずらっ子のような表情をする円。

墓穴を掘ってしまった。

葉月は言い返すことができなかった。

ぱっと立ち上がり、円をきっと睨みつける。


「もうっ!」


それだけ言って足早にその場を去って行った。


そんな妹の姿を見て、円はため息をつく。


「本当に好きなんだけどな、葉月の歌」