[2017. 2. 13]シリア政策調査センター・Nabil氏とZaki氏による発表の要旨「シリア危機の根源と開発分野への影響」
2017年2月11日に東京にて実施されたシンポジウム「シリア危機への実効的アプローチに向けて」において、シリア政策研究センターのNabil氏とZaki氏の発表の要旨を公開します。
(*シンポジウムの報告についてはこちら)
シリア危機の根源と開発分野への影響
ナビル・マルズーク
ザキ・メフシー
シリア危機発生前の開発指標は、経済社会生活が飛躍的開発の実現を不可能としていることを示している。シリアの開発モデルは、縁故資本主義の生成に代表されるような「最低辺での均衡」をもたらし、低い生産性、大規模なインフォーマル・セクター、アカウンタビリティや協調性の欠如に苛まれた制度、政治的排除、労働市場への参入の減退、実質賃金改善の取り組み欠如によって特徴づけられてきた。一方、国際収支、国内外の債務における赤字は微細なものにとどまり、国内通貨の為替レートも比較的安定し、政府部門における大規模な雇用、衛星、教育といった社会セクターやインフラ・セクターへの(政府の)支援は保証されていた。それにより、経済、社会、制度といったシリアの隠されたさまざまな可能性への投資はなされなかった。
しかし、21世紀、とりわけ2000年代において、新リベラル主義的な経済政策が広く採用されることで、「最低辺での均衡」は崩壊し、政治的・社会的排除に伴われるかたちで経済的な排除が顕著となった。一方、制度改革や公平実現をめざす社会的な意識が高まり、現状と実現可能な状況との間に乖離が拡がっていった。しかし、政治・経済・社会制度のもとでは、こうした圧力に応じ、社会における新たな目標、利益、可能性を表現するような開発はいつまで経っても実現されなかった。そのことが、シリアを「制度的息詰まり」状態へと追い込んだ。
人口動態が、変革に向けた圧力を増大させるのに重要な役割を果たした。より高い教育を受け、外国に精通した若者世代が、通信革命を通じて知識を豊かにした結果として台頭し、この世代が互いのコミュニケーションを強めることで、上限なしの要求を行うことで、非効率的な制度に衝突するようになった。チュニジアとエジプトの革命は、集団的な意識を高めるかたちで作用し、既存の政治制度改革は不可能ではなくなり、より進歩し公正な社会を実現し得るという希望や信頼の念が高まった。
しかし、2011年3月に生じた社会運動、権利と尊厳を求める動きは、体制による弾圧に直面した。その結果、それは次第に武装闘争へと変化し、6年を経て人道危機、世界的な紛争になった。独裁、過激主義、ファナティシズムに彩られた権威主義的勢力は、公的なものであれ非公的なものであれ、虚しい武力衝突へとシリアを追いやり、これに対して中東地域レベル、国際社会レベルでの支援が行われるようになった。自由、尊厳、正義といった価値観に向けて制度変革を行う代わりに、暴力が政治・社会・経済構造の基軸をなし、文化面、財政面で諸々のファナティシズムへの投資がなされ、全体主義、そしてグローバリズムを利するかたちで国境を越えるようになった野蛮なテロをもたらした。
紛争は人道的悲劇、価値や道徳の崩壊をもたらすとともに、シリアの構造、価値観、経済制度を破壊した。また物的、人的、社会的資源の減少をもたらすとともに、経済ガヴァナンスと掲載運営に大きな負の影響を与えた。経済構造の変革と変化は、権威主義勢力のさまざまな目的や優先事項のために実施され、それによって、権威主義勢力は暴力資源の再配分とそれに関わる活動を続けている。加えて、経済政策は、効率性と平等性の低下に資してしまっている。当局は、主要な開発の目的と(あるいは)従来の開発の成果を犠牲にして、開発に逆行する動きを進めている。また、武力紛争は実効勢力を輩出し、彼らは強要、恐怖、ファナティシズムを利用して、自らが掌握する地域を支配し、シリア経済の資源、支配勢力、労働基盤を分断してしまっている。
危機当初、大いに成長した唯一の「セクター」は暴力だった。この「セクター」は自らにかかわる活動を基礎として、経済の骨組みを再構築したのだ。権威主義勢力は人々を直接徴用し、密輸、寡占、窃盗、強盗、武器売買、人身売買などの違法な活動を「組織化」することで、直接、間接に軍事行動に関与させている。こうした違法な活動に従事する労働人口は2014年において、シリア国内で経済活動に従事する人口の約17%に達している。
シリア危機の紛争と悲惨な影響に対抗するには、現下の危機の根源を越えた(解消した)かたちでの愛国的なビジョンを構築することが起点となる。現下の危機の根源とは、国内における制度上の行き詰まりと国際的な権威主義からなる。そのために、権威主義勢力によって周縁化された人々をシリアの将来と危機終息において主要な役割を担うプレーヤーとみなす必要がある。また、シリア危機の紛争と悲惨な影響に対抗するには、シリア人が苛まれてきた不平等や周縁化を解消する新たな開発モデルに向けた行動が必要で、それには、人権と人間の尊厳が最優先課題にするという点で合意する市民勢力(市民団体)との世界レベルでの協力が求められる。さらに、危機からの脱却とは、社会の役割を復活させ、経済、社会、文化、政治における新たな構造についての協調的イメージを作り出すことであり、それによって、危機の悪影響を解消し、協調主義と平等に基づく制度再構築がなされる。