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とある冒険者の手記

C.見つけた目標

2021.04.10 11:35

「母さん!姉さん!返事をしてください!」


黒衣森に、少年の悲痛な叫び声が響き渡る。

少年はクリーム色に赤紫色のメッシュの髪をしており、黄色と緑のオッドアイをした、ミコッテ·ムーンキーパーだった。

瓦礫の山になってしまった我が家に向かって、泣き叫びながら、必死に母と姉を呼び続ける。

少年は母に頼まれ、庭の花壇の水やりをしているところに、物凄い衝撃波が襲い、気絶。目が覚めると、この現状であった。

家の中には母と姉がいた。

2人がどうなったのか、少年は気が気ではなかった。

何度も叫ぶように呼び掛けるが、返事は一向に返って来なかった。

何時間呼びかけ続けただろうか。

少年の声が枯れかけていた時だった。


「坊や!どうしたんだい?!」


呼びかけ続けていた声に導かれたのだろうか。そこには年輩のエレゼンの女性と、ミコッテ·ムーンキーパーの少女が立っていた。

2人を見た少年は、縋る様にエレゼンの女性に言った。


「お願いします!母さんと姉さんを助けてくださいっ!!」

「まずは落ち着きなさい。何があったか教えてくれるかい?」


エレゼンの女性にそう言われ、少年はゆっくりと話し始めた。


「朝に水やりをしてて、気がついたら気絶をしていたんだね?」

「…はい」


エレゼンの女性は考え込んだ。

現在の時刻は既に午後の3時を回っていた。

この状況で呼びかけられている人物の反応が無いということは、既に息絶えていると言うことを示していた。


「坊や、残念だけど、それだけ長い時間反応が無いとなると、坊やの家族はもう…」

「そ、んな…」


崩れ落ちるように座り込み、ボロボロと涙を流す少年。


「この倒壊した家屋を私らに退けることは出来ない。せめてもの弔いをさせておくれ」


エレゼンの女性は少女に向き直った。


「ガウラ、この前教えたレクイエムは覚えているね?」

「うん」


ガウラと呼ばれた少女は、エレゼンの女性と共に唄い始めた。

それは死者を弔う鎮魂歌であった。

唄が終わる頃、少年の涙は止まっていた。

それを見たエレゼンの女性は、少年に話しかけた。


「私はディッケル·ダーンバレン。坊やのお名前は?」

「…僕はカル·ア·カルムです…」

「いい名前だね。カル、良かったら今日は私の家に来なさい。これからどうするか、ゆっくりそこで考えようじゃないか」


少年カルは、ディッケルの言葉に頷き、ゆっくりと立ち上がった。

そして、ガウラの方を見る。


「君は…?」

「私はガウラ·リガン」

「ガウラは2年前に怪我をして弱っているところを私が助けた子なんだよ。記憶も無くてね。それ以来、家で一緒に暮らしているんだよ」


そう言ってディッケルはカルの頭を優しく撫でた。


「こんな所で立ち話もなんだ、家に向かおう」


こうして、3人はディッケルの家へと向かって歩き出した。



家へ着くと、暖かいアップルティーを入れ、カルの話を聞く。

カルは10歳で、父は双蛇党の大牙士であり、今まさにカルテノーで起こっている帝国との戦いに参加しているのだと言う。

その話を聞いたディッケルは、双蛇党に手紙を出すことにした。

父親が迎えに来るまで、家に居るといいと伝え、その日は夕飯を食べ、ベッドに入る。

だが、カルはなかなか寝付けなかった。

今日の出来事は平穏に暮らしていた10歳の子供にはショックが大きかった。

目を閉じれば瓦礫になった家が鮮明に思い出され、何も出来なかった悔しさと悲しさに涙が溢れる。


「眠れないの?」


声に目を開き、そちらを見ると心配そうな顔でガウラが立っていた。


「…うん」

「そっか、じゃあ子守唄を唄ってあげる」

「子守唄?」

「うん。私が寝れない時、ディッケルばっちゃんがよく唄ってくれたんだ」


そう言って、ガウラは唄い始める。

その歌声は12歳とは思えぬほど美しく、安心するもので、カルは次第と瞼が重くなり、眠りについたのだった。



それから数日後、双蛇党から手紙が届いた。

その内容はとても喜べるものではなかった。

カルの父は、カルテノーの戦いで戦死したと言う内容。

それはカルが天涯孤独になった事を意味していた。


「これから、カルはどうしたい?」


ディッケルの言葉に、カルは少し考えてから答えた。


「ディッケルさんが迷惑でなければ、このままここに置かせてください。手伝えることは何でもします」


10歳にしてはしっかりした考えに、ディッケルは驚きながらもそれを承諾した。


「ありがとうございます、ディッケルさん」

「敬語は使わなくていいんだよ?」

「いえ、僕は居候ですから。それに目上の人には敬語を使いなさいと、父さんと母さんにキツく言われてましたから」


余程躾に厳しい両親だったのだろう。

それを無理に変えさせることはせず、それなら好きな様に敬語を使わせようと、ディッケルは判断した。



それから月日は流れ、 カルが11歳になろうとしている頃だった。

いつものようにガウラと共に、林檎農園で収穫の手伝いをしている時にそれは起こった。

立て掛けていたハシゴが倒れ、ハシゴに乗っていたガウラが怪我を負った。

幸い頭は打たなかったが右腕を酷く擦りむき、血が溢れ出していた。


「ガウラ!大丈夫かい?!」

「う、うん。大丈…痛っ!」


慌ててカルも駆け寄る。

痛々しいその擦り傷に、カルが手をかざした。


「カル?」


不思議そうにカルを見るガウラ。

カルは掌に意識を集中させる。

緑色の優しい光が傷を覆い、傷を癒した。


「凄い…」


呆気に取られるガウラとディッケル。

カルは少し疲れたように溜息を吐いた。


「カルはケアルを使えるのかい?」

「ケアル?」


ディッケルの言葉にガウラが聞き返す。


「ケアルと言うのは幻術士や白魔道士が使う回復魔法だよ。まさか、カルがそれを使えるなんて…」

「すみません、黙ってるつもりはなかったんです。ただ、言う機会がなくて…」

「どこでそれを覚えたんだい?」

「父さんからです。父さんは幻術士でしたから」


少し気まずそうに答えるカルに、ガウラは目を輝かせて言った。


「凄いよ!魔法なんて簡単に使えるものじゃないのに!カル、幻術士になったら、きっと多くの人を助けられるよ!」


その言葉が、カルに1つの決意をさせた。

その夜、カルはディッケルに「幻術士になりたい」と打ち明けた。


「目標が見つかったんだね」

「はい。もう、僕のような人達を増やしたくないんです」


カルは真っ直ぐディッケルを見つめた。


「11歳の誕生日を迎えたら、僕はグリダニアに行こうと思います」


カルの言葉に、ディッケルは「そうかい」と言葉を返した。

そして、カルの11歳の誕生日の翌日、ディッケルの家には双蛇党の隊員がカルを迎えに来た。


「ディッケルさん。約1年の間、大変お世話になりました。このご恩は一生忘れません」

「最後までしっかりした子だね、カルは。幻術士ギルドでもしっかりやるんだよ」

「はい。ありがとうございます」


カルはディッケルに頭を下げる。


「カル」

「ガウラちゃん…」


カルに歩み寄り、ガウラはにっこりと微笑んだ。


「私ね、もう少し大人になったら冒険者になるんだ!だから、また会おうね!」


カルは、ガウラの言葉に驚いた表情を浮かべたが、直ぐに笑顔になる。


「うん!また、会いましょう!」


そう言って2人は握手を交わす。

そして、カルは双蛇党隊員と共に、ディッケルとガウラの元を去ったのであった。