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「ちょうちょう」コヴァリ マーヴリナ

2017.03.15 12:30

児童文学のノーベル賞とも言われている国際アンデルセン賞を1976年に受賞もしているロシアの絵本作家タチヤーナ・マーヴリナと、こちらもロシアの児童文学作家、ユーリー・コヴァーリがともに作った絵本は六冊ほどあるのですが、その中から日本の出版社が独自に編集して一冊の本にしたのがこの「ちょうちょう」という絵本です。

しかしユーリー・コヴァーリを児童文学作家と言ってしまうのは少し違うかもしれません。自ら「自分の表現したいことは児童文学で全て言うことが出来る」と言い、児童文学をその仕事の中心にしてはいましたが、ロシアではその作品は子供から大人まで幅広く読まれていたようです。

この「ちょうちょう」はコヴァーリの短い、1ページほどの短篇、十篇に、マーヴリナがそれぞれ絵を付けているもので、そのお話は、例えばアナトール・フランス/モンヴェルの「子ども景色」と似たような、ふとした、美しくどこか懐かしい情景を描いたものです。

きあげは

「ところで、おまえ、いつか空気を見たことがあるか?」りこう者のユーラがたずねた。ぼくはちょっと考えてから言った。

「見たよ」ユーラは笑いだした。

「そんなはずはないさ。おまえは空気なんか見てないさ。おまえが見たのは空だ。だって、ぼくたちに空気は見えないんだ」

でも、ぼくたちが、ちょうちょうや、とんでいるとりや、道の上をとんでるたんぽぽの綿毛を見ている時だけは、きっと、ほんとうに空気を見ているのだ。ちょうちょうはぼくたちに空気を見せてくれる。

こんな、親しみやすく子どもから楽しめるものが中心に編まれているのですが、中にはそうしたものとは毛色の違った作品も含まれています。

「家つばめのとぶ村」などはカフカ、はたまたフアン・ルルフォを思わせるような不思議な魅力を持った作品で、このような作品を読むと、コヴァーリが晩年に児童文学の枠を超えた作品に向かっていったというのも頷ける気がします。

そうした多様な魅力を持った掌編にマーヴリナが歌うような線と色彩で素晴らしい挿絵を付けているのがこの絵本なのですが、コヴァーリの紹介で長くなってしまったので、マーヴリナの絵の魅力はまた違う本の時に紹介させて下さい。


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