腸内細菌叢の多様性
http://www.daiko-dental.com/daiko-note/all/consideration/979.html 【腸内環境・フローラについて】より
多種多様な腸内細菌のうち大きく三種類に分けると、「善玉菌」「悪玉菌」「日和見菌」に分けることができます。
善玉菌は腸内フローラ全体の10%前後で、その代表選手は「乳酸菌」(ビフィズス菌、乳酸桿菌など)腸内で有用な働きをする菌です。
乳糖やブドウ糖を栄養源として増殖し、乳酸発酵を行って乳酸や酢酸を作る。腸を酸性に保ち、腸の働きを促し、便秘や下痢を防ぐ。消化吸収を助け、免疫細胞を活性化させたりする。
ビフィズス菌のもっとも大きな特徴は、ヒトの腸内に最も多くすんでいる有用な菌であることです。ヒトの腸内では1~10兆のビフィズス菌がすんでいますが、乳酸菌はその1/10000~1/100以下にすぎません。そのため、ビフィズス菌はヒトの腸内に適した菌と言えるでしょう。また、乳酸菌は糖を分解して、乳酸を多く作り出す菌ですが、ビフィズス菌は乳酸以外にも酢酸を作り出し、善玉菌として働きます。
乳酸菌は、ヨーグルトや漬物などの発酵食品から簡単に体内に取り込むことができるが、ビフィズス菌は食品から生きたまま体内に取り込むことが難しい。
悪玉菌は腸内フローラ全体の20%前後で、その代表選手は「クロストリジウム」(ウェルシュ菌など)腸内で、腐敗の働きをする菌で、ウェルシュ菌は、タンパク質などを原料に、発がん物質や有害物質を作り出す。最近話題になっている「赤身肉」が大腸がんの原因とされているのは、悪玉菌は、肉を多く食べる人に多くみられるためです。
また、悪臭を作りだし、便の臭いをきつくする作用もあります。
腸の中の善玉菌と悪玉菌の割合は、2:1、善玉菌は全体の20%で、悪玉菌は10%、日和見菌は全体の70%。
このバランスが崩ずれ、悪玉菌が全くいなくなると、善玉菌が働かなくなってしまいます。善玉菌が働かなくなってしまうと、食べ物の消化・吸収が上手くいかなくなり、健康維持に必要な栄養分が吸収できなくなってしまいます。
こうした善玉菌の「サボリ」を止めるために存在していたのが、悪役の悪玉菌の唯一の良いところで、悪玉菌は、善玉菌の働かせる役名をしています。
悪玉菌がいてこそ、善玉菌が正しく働き、私たちの健康を維持してくれるのです。
生まれたばかりの赤ちゃんの腸には、悪玉菌が全くいません。善玉菌だけです。母乳を飲んだり、お母さんに抱っこされたりとお母さんと触れ合う中で、悪玉菌をお母さんから貰い、赤ちゃんは、初めて、外部の侵入者を知ることになり、免疫力を獲得するのです。
悪玉菌は、この世に生を受けた赤ちゃんが生まれてはじめ知る悪い菌ですが、その一方で、これから成長していく赤ちゃんを病気から守る免疫力の獲得にも一役かっているのです。
人の腸内環境に劇的な変化が起きるのは、離乳期です。離乳期が、悪玉菌優勢になるか、善玉菌優勢になるかの分かれ目です。
一般的に、2歳になるまでに発症しなければ、アトピー性皮膚炎にはならない、と言われています。この時期までに悪玉菌がいなければ大丈夫で、逆にアトピーの引き金になるには、母親から受け継いだ悪玉菌です。
日和見菌は腸内フローラ全体の70%前後で、「大腸菌」「連鎖球菌」「バクテロイデス」などです。腸内が健康であれば悪さはしないが、悪玉菌が優勢の「腐敗モード」では、悪い働きをする菌です。
健康な人の便には、ビフィズス菌が多く見られ、その割合は全体のおよそ10~30%であります。便秘症や臭い便の人には、善玉菌が少なく、悪玉菌が多く存在しています。日和見菌は、優勢なほうに味方しますから、悪玉菌はその実数よりもはるかに強大な力で腸内を腐敗させることになります。悪玉菌による腐敗は、毒素の再吸収を招き、様々な病気の引き金になる危険性をはらんでいます。
上記にも述べたように、離乳期を境に、いろいろな食べ物を口にするようになると、人の腸内細菌の種類は飛躍的に増えます。そして、腸は常に腸内細菌を選び、育て、その人独自の腸内環境(腸内フローラ)を作り上げていきます。
悪玉菌や日和見菌の数が増えるので、乳幼児時代の善玉菌の勢力は弱まります。そして、加齢とともに善玉菌の分量は下降線をたどり、反対に悪玉菌の分量が上昇カーブを描きます。しかし、現代では実年齢の若さにもかかわらず、腸年齢だけが老化の一途をたどっている人が非常に増えてきています。腸内細菌の状態は日々変わります。同一人物であっても、年齢・環境・食べ物・ストレスなどの要素でどんどん姿を変えていきます。
次に腸内細菌と脳について、一見、腸とは関係ないと思われがちな症状にも、「腸内の腐敗」と「有害物質の再吸収」が原因になっているものがあります。痴呆症は、知能の働きが低下した状態で、脳血管性痴呆症は動脈硬化や高血圧に基づく脳梗塞の多発が原因のひとつであります。次にアルツハイマー病は脳全体が委縮して、神経細胞の脱落などが起こる。神経伝達物質アセチルコリンの流れが悪くなるのも原因の一つである。
痴呆症の老人の便には悪玉菌のクロストリジウムとウェルシュ菌が非常に多い。乳酸菌の投与によって痴呆症の症状が緩和される例も報告されています。
原腸胚(げんちょうはい、英: Gastrula)は、動物の発生の段階の一つの名である。胞胚の後にあたり、脊索動物ではこれに続く段階は神経胚である。原腸が形成される段階にあたり、胚葉の分化が見られるなど、発生の上で特に重要な時期の一つであるが、脳も腸も原腸が分化して形成されるため、腸内細菌が脳に関係することは発生学的にも因果関係があるともいえる。
https://www.t-pec.co.jp/health_news/2015-7/ 【腸内フローラはバランスに注目 ~ティーペック健康ニュース】より
「腸内フローラ」が各方面で話題となっています。腸が健康に与える影響が注目される中、腸内フローラの状況がさまざまな病気のリスクだけでなく、太りやすさや精神状態、老化のスピードにまで関与していることが明らかになってきたからです。
フローラ(花畑)とはなんとも愛らしい名前ですが、以前は「腸内細菌叢(ちょうないさいきんそう)」といい、腸の中に棲みついているさまざまな種類の細菌が美しく群れをなして、まるで花畑のようにびっしりと敷き詰められていることから呼ばれています。
腸内フローラのバランスを整えることは、便通はもちろん、がんや糖尿病、アレルギー疾患、肥満や認知症、うつ病などの医療分野の予防・改善をはじめ、お肌のコンディションやアンチエイジングなどの美容分野まで、私たちの健康と生活をよりよく保つことにつながります。
体重の1~2㎏は腸内細菌
私たちの腸内には約3万種類以上、その数1,000兆個以上、重さにして1~2㎏にもなる細菌が棲息しており、それらを総称して腸内細菌と呼びます。
よく知られていることですが、腸内には体によい働きをしてくれる「善玉菌(有用菌)」と、異常繁殖すると悪さをする「悪玉菌(有害菌)」がいます。また、腸内環境がよいときには体によい働きをし、悪化すると悪玉菌に加勢して毒性を強める「日和見菌(中間菌)」というどちらでもない菌もいます。
これら3種類の細菌群は腸内で勢力争いをしながら、仲間たちでコロニー(細胞塊)をつくっています。そして、健康なときは善玉菌が悪玉菌を抑え込んで、腸内フローラの一定のバランスを維持していますが、何らかの原因で悪玉菌が増えると腸内腐敗が促進されて有害な物質が増えてしまいます。
●腸内細菌の種類
善玉菌(有用菌) 悪玉菌(有害菌) 日和見菌(中間菌)
代表的な細菌 乳酸桿菌
ビフィズス菌 ウェルシュ菌
ブドウ球菌
大腸菌(毒性株)
バクテロイデス(毒性株) 大腸菌(無毒株)
バクテロイデス(無毒株)
レンサ球菌
影響 感染防御、免疫刺激、消化吸収の促進、便性の改善、健康維持、老化防止 内の腐敗、細菌毒素の発生、発がん物質の発生、ガス発生、健康阻害、病気の引き金、老化促進 善玉菌が優勢になると善玉菌に、悪玉菌が優勢になると悪玉菌に加勢する
歯周病が全身に及ぼす影響
腸内細菌の理想のバランスは2:1:7
3群の腸内細菌の比率は「善玉菌2:悪玉菌1:日和見菌7」のバランスが理想といわれています。善玉菌が2割存在している腸は、悪玉菌の働きが抑制されます。とはいえ、善玉菌と悪玉菌を合わせても3割ほどで、残りの7割はどちらの味方につこうか常に様子をうかがっている日和見菌です。この日和見菌が悪玉菌に加勢しないように、善玉菌の量を一定に保ち、悪玉菌の勢力を抑える必要があります。
全身に関与している腸内フローラ
腸内細菌の働きは腸の中だけにとどまりません。脳の働きにも影響するなど、以下の5つの作用があることが知られています。
病原体が体内に侵入したとき排除する。
食物繊維などの消化を助ける。
ビタミンB2、ビタミンB6、ビタミンB12、葉酸、パントテン酸、ビオチン、ビタミンKなどのビタミン類を合成する。
幸せな気分をもたらす物質であるドーパミンやセロトニンを合成し、その前駆体を脳に送る。
免疫力のおよそ7割を腸内細菌と腸粘膜細胞との共同作業でつくる。
腸が原因とされる病気が全身に及ぶとされているのは、このような腸内細菌の働きがあるからです。そのため腸内フローラのバランスを崩すと、万病を引き起こすというわけです。逆に腸内フローラのバランスを整え、腸を健全にすれば病気を予防し、健康になり、寿命を延ばすことができます。
腸の難病治療で期待される「糞便移植」
腸内フローラに付随して最近注目されているのが「糞便移植」です。腸内フローラのバランスが崩れている腸の病気の患者へ、健康の人の便を生成し注入して腸内細菌を移植する「腸内細菌(便)移植療法」を指します。
米国ではすでに潰瘍性大腸炎の治療などで通常医療として行われており、日本でも2014年に臨床研究がスタートしました。潰瘍性大腸炎は近年日本で20~30代の人を中心に急増している難病で、さらに過敏性腸症候群や、やはり難病である腸管ベーチェット病などの糞便移植も研究が進められる予定です。
「便」と聞いて抵抗感のある人がいるかもしれませんが、国内で実施されている移植療法は、配偶者や2親等以内の健康な人の便を移植することとしています。肥満を引き起こす、俗に「デブ菌」と呼ばれる特定の細菌の存在も明らかになりつつあり、手軽で副作用の少ない便移植は、今後注目すべき治療法の一つとなっています。
腸内細菌の活動を高める食生活
腸内フローラを健やかに保つには、腸内細菌活動を高める食生活が大切です。そのためには以下の点に気をつけて腸によいものを食べるようにしましょう。
穀類・野菜類・豆類・果物類をとる
植物性食品は腸内細菌の餌となって腸内細菌の数と種類を増加させます。
発酵食品を食べる
漬物やみそ、納豆、ヨーグルト、チーズなどの乳酸菌やビフィズス菌を含む食品を毎日とることで、腸内の善玉菌を補充するのに効果的です。
食物繊維やオリゴ糖をとる
善玉菌の餌となる食物繊維やオリゴ糖は、野菜類、果物類、豆類に多く含まれています。ごぼう、れんこん、大豆、玉ねぎ、ねぎ、にんにく、バナナ、アスパラガスなどを積極的にとりましょう。
加工食品や食品添加物をなるべくとらない
インスタント食品やハム、ウインナーなどの加工食品は、腸内細菌の数を減少させることがあるため、食べすぎないようにしましょう。
ほかにも、よくかんで食べる、適度な運動を行う、自然と触れ合ってストレスを発散する、なども大切です。
腸内フローラが健康なバランスかどうかを知る最も簡単な方法は、便の回数や状態を観察することです。毎日1回排便があり、黄色か黄色がかった褐色でにおいがあっても臭くなく、柔らかなバナナのような状態が理想です。便秘や下痢、または黒っぽくて悪臭がする便は、腸内フローラのバランスが崩れている状態です。
また、最近では詳しい腸内細菌の比率などがわかる「腸内フローラ検査」を行っている医療機関もあります。少量の便を採取するだけの検査で、費用は2、3万円からですが、自分の腸内フローラの状態を知りたい人は試してみてもいいかもしれません。
https://www.tanaka-cl.or.jp/aging-topics/topics-087/ 【No.087 腸内細菌叢の多様性とは?】
次世代シーケンサーという分析機器により腸内細菌叢のDNA塩基配列を解読することが可能となってきたことで、その多様性の変化と疾患との関係が明らかとなってきました。
そこで今回は腸内細菌叢の多様性についてお伝えします。
腸内細菌叢の解析方法の変遷
近年、ヒトの腸内細菌叢と疾患との関連性を示す研究が数多く発表され、腸内細菌叢の役割がますます重要視されるようになってきました。
過去において、腸内細菌は嫌気性培養法により約200の細菌が培養可能となり、それぞれの菌種に関する研究が行われていましたが、近年では培養法では調べることのできない菌種が数多くいることがわかり、新たな分析 方法として16S rRNA遺伝子を用いた菌種解析方法が開発され、約1,000菌種以上が同定できるようになりました。
しかしこの方法でもそれぞれの菌種の機能性まではわかりませんので、最も新しい分析方法として次世代シーケンサーという機械を用いて各菌種のDNA塩基配列を自動的に解読する方法が開発され、腸内細菌叢と疾患との関係性が一気に解明されるようになりました。
腸内細菌叢の変容(dysbiosis)と疾患
次世代シーケンサーの登場により、ヒトの腸内細菌叢の種類を調べるとともに各菌種の持つ機能性が明らかになり、ある疾患を持つヒトの腸内細菌叢に一定の特徴があることがわかってきました。
例えば、大腸がんの患者は、健常者とは異なる細菌組成あるいは構成菌種から成り立っており、このように通常とは異なる細菌叢の異常を変容(ディスバイオシス dysbiosis)と言います。
これまでに調べられている腸内細菌叢の変容が関与しているといわれている疾患は以下の通りです。
大腸がん 肥満
炎症性腸疾患 2型糖尿病
過敏性腸炎と小腸細菌異常増殖症
アレルギー疾患
抗菌薬起因性下痢 自閉症などの精神疾患
肝臓疾患(ASH、NASH) 多発性硬化症
腸内細菌叢を変動させる要因は?
腸内細菌叢は安定していると考えられてきましたが、様々な因子の影響で変動することも分かりつつあります。
例えば最も重要な因子は食事内容です。
伝統的な和食と典型的な欧米食による比較、あるいは高脂肪食摂取による変化が研究されています。
また抗菌性物質の投与、特に経口投与は腸内細菌叢の構成に著しい影響を与えることがわかっていますし、下痢や便秘、感染症によっても変動します。
更に宿主側の要因によっても構成に影響を与え、胃酸や胆汁酸、各種の酵素や多糖類の分泌なども影響を与えます。
なお、ストレスも変化の一つの要因と考えられ、生体に複合的な反応を引き起こすことで腸内細菌叢の構成に影響を及ぼすと言われています。
変容(dysbiosis)の診断基準は?
これまで見てきたように、様々な要因により腸内細菌叢が変容すると疾患に至る可能性が高くなります。
しかし、この変容を評価、判断するには日本人の健常者のデータが必要となります。
そこで、早稲田大学らのグループが、106名の大人の腸内細菌叢のDNAを次世代シーケンサーを用いて分析を行いました。
その結果、他の12か国の健常者のデータと比較したところ、日本人固有の腸内細菌叢を有することがわかりました。
そのため、変容を診断、評価するうえでは、同じ国の健常者データを基準にする必要があるといえます。
今後、腸内細菌叢の変容をターゲットにした疾患治療では、変動要因を取り除くこととともに、宿主への影響を把握した複数の細菌種の組合せが開発されるかもしれません。
【参考】
領域融合レビュー,2,e011(2013)
モダンメディア60巻10号2014
モダンメディア60巻11号2014
DNA Research,2016,1–9