映画レビュー!映画『整形水』まさに「夜眠れなくなりそう」な秀作!!韓国サイコホラーの実力やここに
数多くの秀逸なサイコホラー作品を輩出する韓国発!「美しさ」を貪欲に追及する一人の女性が、欲望におぼれた結果恐怖の運命にたどり着くさまを描いたホラーアニメ映画『整形水』。本作は韓国で大ヒットを飛ばしたWeb漫画作品『奇々怪々』(オムニバスホラー)の一篇をアニメ化したもの。ちなみに『奇々怪々』はグローバルでの累計閲覧数は31億回を超えるという驚異的な注目度を誇っています。
作品を手掛けたのは、本作が長編アニメ作品第一弾となる新鋭・チョ・ギョンフン監督。チャレンジ精神満載で挑んだ本作は、あの大ヒットゾンビホラー『新感染』シリーズのヨン・サンホ監督も絶賛。「第7回新千歳空港国際アニメーション映画祭」では「長編部門コンペティション」にノミネート、「第46回ボストン・サイエンスフィクション映画祭」では「最高アニメーション賞」を受賞と、高い評価を受けています。今回は『整形水』が醸し出す恐ろしさの根源に迫ってみましょう。
【あらすじ】
人気タレントのメイクを担当しているイェジは、自身の外見に幼い頃から強いコンプレックスを持ちながら生活していました。受け持ちのタレントからは馬鹿にされ、ふとした偶然で出演したTV番組の姿をSNSでさらし者にされるなど、日に日にそのコンプレックスは彼女をむしばんでいました。
ところがある日、一つの差出人不明の荷物がイェジのもとに届きました。それは巷で噂になっていた“整形水”という美容薬。顔を浸せば、自らの手で自由自在に思い通りの容姿へと変えることができてしまう奇跡の水であります。
半信半疑ながら美しくなりたいという欲望に駆られたイェジは“整形水”を試すことを決意します。そしてその行為により彼女は全く別人のような、美しい顔へと変身を遂げます。ところがその変身は意外なものに。
そして彼女は、自身の変身を完全なるものとして自身の人生を取り戻すべく、禁断の道に足を踏み入れていきます。こうしてイェジの完全なる美しさへの探求が始まりますが、その末路は身の毛もよだつような恐ろしい運命へとつながっていくのでした。
【ここに注目】
サイコホラー作品のテーマとして、社会の根底にある「格差」というポイントを取り上げているところには注目であります。例えば韓国のテレビで放映されるドラマのテーマとして、このポイントを取り上げたものは非常に多く作られており、ある面「韓国らしさ」を強く感じられるところであります。
この作品では、社会のとある一面に存在する「格差」というイメージを「美しさ」という側面で見つめ、これを表現するために「整形」というアイテムを用いているのがユニークな点ポイント。韓国は世界でも「整形大国」として知られ、例えば日本などに比べると自身に整形を施す、あるいは身内に整形を受けさせるということに対してハードルが低いという話もあります。
ところがこの作品では、謎のアイテム「整形水」の効果、そしてこれに手を付けた人が巻き込まれてしまう恐ろしい出来事の顛末を描いており、他方で整形に関与しない人間の本質、ピュアでまさに「美しい」部分を強調して描き肯定することで、さらに「整形」により人々が陥れられるおどろおどろしい世界観を強調しているようでもあります。
それでも人々が「美しくなりたい」と願う、その根源は何か?この作品はその謎に迫り、それが人間にとって非常に無残な結果を残すことを示しています。こういったストーリー、意思が「整形大国」といわれる韓国の作品より発信されるのは、ある意味新たな刺激でもあります。
この「美しさ」ですら自身の地位や身分を示すものである、この恐ろしい物語にはそんな深い焦点すら埋め込まれているようでもあります。例えばこの「美しさ」「整形」などといったイメージを、日本国内の作品としてストーリーを作り上げると、同じような作品となるとはあまり想像できないのではないでしょうか。
【あわせてここが見どころ】
ポスタービジュアルのキャラクターを見ると、非常に日本のアニメ作品のメインストリームにある、いわゆる「萌えキャラ」「可愛らしいキャラ」的な印象を受けますが、作品はもっとシンプルなイメージで統一されています。また一方で「醜い」ビジュアルイメージの人間がリアルな画で表現されており、このギャップは作品の大きなポイントです。
さらに本作はアニメでよく使われるシンプルなコマ割りの作画手法ではなく、日本のアニメ制作会社の一つであるポリゴン・ピクチュアズが取り組んでいる作品のような、浮遊感のある3Dアニメ調の動画で描かれているのも非常に目を引きます。
このチャレンジには「アニメ作品」でありながら、アニメっぽくない方向性を見せている意図、ある意味「アニメ作品を作る」という感覚で作品が出来上がったのではないようにも見えます。
つまり独特の世界観を構築するにあたり、敢えて「アニメ作品を作る」という手法に至ったという方向も見られ、単にアニメ作品というジャンルに埋もれさせるのも惜しい作品であることがうかがえます。特にクライマックスからエンディングの展開には「そう来たか!?」と思わせる驚愕のどんでん返しも、思わず隣人の心理を疑いたくなるような恐怖感が一気に醸し出されます。
単にビジュアルイメージだけで「アニメ作品か…」とステレオタイプな印象を思い浮かべてしまうのは早計です。まずは是非ご覧になってみてください。きっと作品を見た日は眠れぬ夜になりそうなおぞましい世界が、そこには待ち受けていますから…
2020年/韓国/ 85分/カラー/ビスタ/5.1ch/英題:BEAUTY WATER/翻訳:小西朋子/PG12
原作:オ・ソンデ(LINEマンガ『奇々怪々』内「整形水」)
監督:チョ・ギョンフン
提供:トムス・エンタテインメント
配給:トムス・エンタテインメント/エスピーオー
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公式サイト: seikeisui.jp /Twitter:@seikeisui
2021年9月23日(木・祝)全国公開