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#015 特別な日について―オーリドン

2021.09.21 05:28

by Motandhel

 アズルと約束どおりデートに行った!とても素晴らしい体験だった。思えば僕はこうしたロマンティックなモチベーションで誰かと一緒に出掛けたことがなかった。いや、もしかすると相手がそんなモチベーションでいたときはあったかもしれないが、少なくとも僕はなかった(これは反省すべきかもしれないが、今となっては謝罪すべき相手もわからない)。

 僕たちは会ってすぐにオーリドンへ行き、海を目指した。ひとけのない綺麗な浜辺を見つけるために、僕たちは日が傾きかけた海岸線をしばらく歩いた。オーリドンに自生する色鮮やかな木々と白い砂浜、そして青い空と海……何もかもが素晴らしく、ただ並んで歩いているだけでも心が躍った。カンバスを運べればよかったとその時は悔やんだが、今思うと気が付くと夜になっていたので、絵を描く暇などなかっただろう。

 実はアズルと会う前に、ミルのもとを訪ねていた。以前どこかで、敷物の上で何かを食べながらくつろいでいる恋人同士の二人組を見かけたことがあったのを思い出し、料理の得意なミルにスナックを作ってもらおうと考えたのだ。彼がいい顔をしないことはわかっていたが、自分で作るわけにはいかず(それならリンゴを持っていった方が遥かにマシだろう)、それでも今回のデートをどうしても特別なものにしたかったので、交換条件を出されることを覚悟して行った。しかしミルは(嫌な顔はしたものの)何も言わずにパイを持たせてくれた。彼はとにかく僕が着ていたサンスパイアの司祭の服が気に入らなかったようで、服の染色まで手掛けてくれた。海に行くのに相応しく爽やかで優しい色に仕上がった服を、アズルも褒めてくれた。こんなことを嬉しいと思うなんて、ティーンみたいだとまた笑われるだろうか? とにかく僕は嬉しかった。とてもだ。ミルにお礼をしなければいけない。

 僕とアズルは静かで眺めの良い浜辺を見つけ、座ってパイを食べた。ミルに作ってもらったことを白状すると、アズルは笑った。ジョークのつもりはなかったが、かなりウケてしまったようだ。なんであれアズルが笑ってくれるのは嬉しい。

 僕たちはしばらく景色を楽しみ、他愛もない話をし、そして海で泳いだ。オーリドンの空と海が夕陽で乳白色を帯びる景色がたまらなく好きだ。ただ「二人で時間を過ごす」という目的のために美しい海で泳いでいるのだと気付いたとき、僕はとても幸福な気持ちになった。僕たちは長い時間をかけてデートを楽しんだ。乳白色から薄い桃色、紫色と変化する空にうっすらと月が覗く様子が絵画のように美しかった。

 暗くなるまで海で泳ぎ、満足する頃には辺りはすっかり暗くなっていた。はしゃいだせいか、この日は家に帰るとすぐに眠りについてしまった。アズルといると自分がとても幼い子供になったような気持ちになってくる。もう思い出せないくらいに遠い昔のことだが、実際に子供だったときもこんな様子だったのだろうか。

 次のデートはどこへ行こう? アズルが僕のぎこちない行動と子供のような振る舞いに懲りていないといいのだが……。それから、次はなるべく自分で作った料理を持っていくようにしよう。料理を教えてくれと言ったらさすがにミルも怒るに違いないので、少しは練習しておく必要がありそうだ。