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金山知明税理士事務所・国際税務コンサルティングオフィス

国際課税勉強会13(移転価格税制における残余利益分割法)

2021.09.25 06:03

国際税務の裁判例研究会「一角塾」にオンライン参加しました。

今日は、以前に検討した移転価格税制に関する東京地裁平成29年11月24日判決(いわゆる上村工業の第一事件)の延長線上で起きた上村工業の第二事件(東京地裁令和2年2月28日判決)の研究でした。

この事件はメッキ加工事業で国際展開をしている原告法人が、技術提供をしている海外の関連会社から受けているロイヤリティの金額が、独立企業間価格より低すぎるとして、その差額について移転価格税制を適用して税務当局から課税を受け、その取消しを求めて訴訟を提起したものです。

具体的な争点は、利益分割法でなく基本三法(独立価格比準法、再販売価格基準法、原価基準法)と同等の方法が適用できないのかどうか、それができないとして、残余利益分割法による課税が適当かどうかが争われました。

原告法人は、基本三法のうち、独立価格比準法と同等の方法が利用可能であるとして、自社が別の会社から受けているロイヤリティの金額を独立企業間価格として認識できるので、利益分割法を使うことはできないはずだと主張しました。

当局側は、原告法人が別会社から受けているロイヤリティは、同種同様の状況で受けているものでないので、比較対象取引とすることはできず、原告法人と同様のノウハウ(無形資産)をもって同種の取引をしている企業はほかになく、基本三法は適用できないので、残余利益分割法を用いるのは適法であると主張しました。

第一事件で裁判所は、国税当局の主張をほぼ全面的に認めて残余利益分割法による課税が適法と判示しました(原告法人敗訴)。

第一事件では、課税処分から地裁判決が出るまでになんと10年以上もかかったため、その間、原告法人が課税処分前と同様の取引を継続していました。この継続していた取引に対して再び税務調査と課税処分があり、これが争いとなったのが第二事件です。

第一事件から一貫するもう一つの争点として、独立企業間価格の設定対象とすべき取引の単位という問題がありました。原告法人は各メッキ製品の個々の製造ノウハウ等に対するロイヤリティを個別にみるべきとしたが、国税はそれらを包括的にみて独立企業間価格を算定すべきとしました。

結局、第一事件、第二事件ともに、裁判所は国税の主張を認め、多様な製品に関するノウハウを包括的に評価して残余利益分割法を適用することが相当として、結局、納税者の全面敗訴となりました。

このような無形資産の使用許諾、ノウハウ提供に対するロイヤリティが問題となる移転価格案件においては、比較対象取引が存在しないケースが多いので、基本三法を使うことが難しく、課税関係は非常に不安定になります。取引単位をどうみるか、利益分割法の方が適合するか否か、無形資産の価値をどう計算するか等、意見の対立が起きやすい論点がいくつもあるからです。

この事件では、原告法人が、製品別のロイヤリティの金額について個別でなく一律に設定していて、個別製品ノウハウごとのロイヤリティ計算根拠も残していなかったようなので、そこに弱点があり、結局すべての製品ノウハウを一体と認定されて、利益分割法の登場となったのではないかと感じます。

移転価格税制が絡むのは、海外に子会社を持っているような比較的大規模な企業であり、僕も実務において触れたことがない世界です。しかしこうして裁判例をみると、一件当たりの係争税額が大きく、ダイナミックな分野です。にしても、私的経済取引に税務がここまで介入するのかという部分に違和感もあるというのが正直なところです。

納税者の立場からは、移転価格案件で劣勢にならないためには、やはり、すべての国外関連取引について、その価格の算定根拠を周到に、詳細に、合理的な形で残しておくことが最も重要だと再認識しました。