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河北新報社 記者と駆けるインターン

かわら版に託す思い 茨城大3年 吉田有希

2015.09.09 01:00

 20歳の冬。

「こいこい、こっち来て嗅いでみろ」。

杜氏(とうじ)が酒樽のふたを開けると、果物のように甘い香りがした。

樽の中にはうぐいす色の日本酒。味は今でも鮮明に脳裏に焼きついている。

 



 佐藤華子さん(38)は宮城県松島町にある酒販店「むとう屋」の店長。

父が社長を務める店を手伝い始めた当初はアルバイト感覚。

半年ほどでやめるつもりだった。

杜氏との出会いを通して酒蔵の魅力を知り、どっぷりとはまった。



 佐藤さんが22歳の時、当時別のスタッフが書いていた

「かわら版」の執筆を社長が任せてくれた。

「かわら版」はむとう屋おすすめの酒や肴を写真つきで紹介するリーフレットだ。

2カ月に1度発行し、全国各地およそ3500人もの会員に郵送する。

なかには「酒は飲めなくなったけどかわら版だけ送ってくれ」という客も。

佐藤さんは自ら杜氏のもとを訪れて酒造りにまつわるエピソードや味について話を聞く。



 取材を重ねるにつれて「酒屋のお嬢さん」から「はなちゃん」と呼ばれるまでになり、

杜氏との距離が近くなったと実感している。

あるかわら版の一コマには日本酒を杜氏の写真付きで紹介し、

「人柄と同じ味」と表現。

付き合いが長いからこそできるワザだ。



 2011年の東日本大震災。

店の1階部分に津波が押し寄せた。

店舗にあった商品が流され、顧客や納品先の情報も失った。

佐藤さんをはじめスタッフが「もうダメなんだ」と絶望。

支えてくれたのは蔵元や客だった。

 



 全国各地から安否の気遣いや励ましのメッセージが届いた。

店に駆けつけて掃除を手伝ってくれる杜氏もいた。

店舗は2011年6月に再オープン。

震災後、止まっていたかわら版の発行は年末の再開にまでこぎつけた。



 



 「作り手の気持ちを客に届けたい」。

東北の冬、酒を造る杜氏の手は真っ赤だ。

「こんなに頑張って造るお酒なんだからおいしいに決まっている」

と佐藤さんは力強く語る。

佐藤さんが書くかわら版は杜氏と客との架け橋になる。



 




【かわら版を手に笑顔を見せる佐藤店長】



 



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