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河北新報社 記者と駆けるインターン

銭湯とともに歩む   宮城大3年 鈴木あゆみ

2014.03.31 00:00
 



 



扉を開けると白い湯気が立ち上り、全身を包みこむ。



床のタイルの上には丸みを帯びた黄色い桶が置かれ、左右の壁と中央にはシャワーが並んでいる。



湯は底が見えるほど透き通っており、客同士の会話の声がやんわりと響く。



 



「はーい、いらっしゃい、どうもね」



仙台市太白区長町にある公衆浴場「鶴の湯」の2代目オーナー木村仁則さん(67)の声は穏やかだ。



1950年創業以来、お客様に銭湯の温かさを届けてきた。



 



 




番台に座る木村さん=仙台市太白区長町の「鶴の湯」



 



 



「時代がどう動くかを理解しないと商売はできない」と木村さんは話す。



かつて市内に約80軒あった銭湯は、現在5軒を残すのみとなった。



設備の老朽化や経営難、客入りの悪化などで、やむを得ず看板を下ろす店が相次いだからだ。



 



時代の変遷と共に人々の生活は便利になり、ニーズも変わってきた。



長年番台から社会を見続けてきた木村さんは言う。



「銭湯が売っているのは風呂そのもので、レジャーや娯楽ではないからね。



どの家庭にも風呂がある現代で、風呂自体を売りにするのは間違っているのかもしれない」



 



東日本大震災から1週間後の3月18日、鶴の湯は営業再開にこぎつけた。



通常の10倍以上、600人ほどが鶴の湯に押し寄せ、外まで行列を作った。



久々に湯につかり体の芯から温まることで、身も心も冷え切っていた人々はぬくもりと安堵をかみしめた。



 



銭湯に足しげく通う人もいる。



長町に住む年配女性。



もちろん自宅に風呂はあるが、木村さんの人柄、ゆったりと広々としている浴槽を気に入って、毎日のれんをくぐる。



そんな声を届けると、木村さんは「ああ、そんな人も確かにいるかもね」と照れ笑いを浮かべた。



 



銭湯は地域のコミュニティを生み出す空間でもある。



いつも同じ時間帯に入浴する名前も知らない人と、顔見知りになる。



天気だったり、新聞をにぎわすニュースだったりの会話を交わして、それぞれゆったり湯につかる。



そこで生まれたつながりは、身体だけでなく心も、ほんのりと温める。



目まぐるしく変化を続ける現代社会と人々のニーズ。



しかしいつの時代も変わらない、心身を洗う「風呂」を提供し続けていく。



 



鶴の湯に後継者はいない。



のれんを下ろすその日まで、木村さんは静かに番頭に立ち、客を待つ。



     



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