第六次エネルギー基本計画案について(参議院浜田聡議員のお手伝い)
こんにちハロー。苦月も今日で終わり。緊急事態宣言が解かれましたが、夜の街に寄るの待ち、ですね。
さて、昨日は参議院浜田聡議員のお手伝いに上がり5年毎に見直される政府のエネルギー基本計画案が先日公開されましたので内容を考えてみました。
政府は2050年までのカーボンニュートラルをコミットしています。これはパリ協定に基づいていますが、同様に2050年までにカーボンニュートラルにコミットする国は世界で123ヶ国に上ります。アメリカはバイデン大統領がパリ協定への復帰にサインしています。中国は2060年までネットゼロにすると表明しています。日本政府は2050年をエンドとして遡り、今回の計画案は2030年までの方針と目標値を策定することとしています。
これまでは取り組むべきことを積み上げていく計画であったものを今回の第六次エネルギー基本計画は2050年から遡って2030年には達成しておかなければならないことを計画しています。経過方式から逆算方式に変更しているようです。2050年というゴールは施一定しているのですから逆算して計画を立てるのは当然と言えます。
それでは以前の電源別の発電割合と現状のそれらの数値を確認しておきます。
資料:自然エネルギー白書2011、経済統計要覧2011より
東日本大震災前の数値です。2005年には京都議定書が発効されており、その後、2015年のパリ協定へと繋がります。この時点での日本は再生エネルギーはわずか3.5%の発電量に留まっている反面、原子力発電の割合が25%以上を占めていました。2011年に東日本大震災が起きた際に福島第一原発で放射能漏れの事故が発生して以来、原子力発電の割合は急速に低下しています。
資料:資源エネルギー庁「日本のエネルギー エネルギーの今を知る20の質問」より
パリ協定では2013年の温室効果ガス排出量を基準に2030年までに日本は26%の削減を目標とすることを定められています。2019年の温室効果ガス削減割合は14%となっています。削減要因となったのは再生可能エネルギーの比率が飛躍的に向上したことにあります。2009年には3.5%だったのが2016年には14.5%に向上しています。東日本大震災後の原子力発電の停止によりFIT制度を導入した太陽光発電事業への参入が飛躍的に増えたことが再エネ割合向上を牽引してきました。
資料:エネルギー基本計画の概要より、エネルギー需給の見通し、資源エネルギー庁
さらに2019年の状況は再エネが18%となり、温室効果ガス削減割合は14%となっています。再エネに関しての伸び率は鈍化していますが、東日本大震災後に停止していた18か所の原子力発電所のうち9か所が再稼働したことから原発による発電は1.7%から6%まで発電量が増加しています。
さて、今回の基本計画案で打ち出しているのが上記の図の右側の2030年ミックスという目標設定です。2030年度までの目標設定のハードルが飛躍的に高くなっています。国家のクリーン計画、環境的指針と経済界への投資圧力、参入促進を絡めた統合イノベーションと呼ばれる施策です。2030年度までのこれまでの目標値は再エネが22~24%でしたが今回の計画案では36~38%となっています。石炭、ガスによる発電は53%であったところを今回の計画案では39%としています。併せて、温室効果ガス削減割合をこれまでの目標値である26%から今回の計画では46%まで引き上げています。パリ協定で定められた2030年までの中期計画では26%削減することとなっていますので大幅な目標の上振れです。一見、自分で自分の首を絞めるような厳しい目標設定に思えます。
政府が考えるエネルギー戦略はこれまでのように環境保全、温暖化対策などは経済や産業の活動を制限するものという位置付けから、産業構造や社会経済の変革をもたらす成長機会であるという位置付けに変更したことによります。以前、アメリカのトランプ大統領が自国ファーストを掲げ、産業活動を優先するためにパリ協定から脱退しました。しかし、現在のバイデン大統領は速やかにパリ協定に復帰しています。2050年のカーボンニュートラルに向けての取り組みは、世界中でビジネスモデルの根本的な変革をもたらす経済成長のチャンスだと考えられるようになっているということです。
2019年度では非化石エネルギーは約24%で石炭や天然ガスや石油による化石エネルギーが76%を占めています。そして、これまでの2030年度のエネルギー計画では非化石エネルギーが42~46%、化石エネルギーが54~58%という目標でした。それを今回の第六次計画では2030年度までに非化石エネルギーを57~59%、化石エネルギーを41~43%としています。計画値の根底にあるのは、太陽光発電と水力発電の倍増させる計画ですが、それにも増してハードルが高いのが、現在6%程度である原子力発電を20~22%にするということです。現在、停止している9か所の原発の再稼働をするとともに、建設中の3か所、計画中の4か所の原発の稼働を急がないといけません。既に10か所の原発の廃炉が決まっていることから、すべての原発を稼働させて、新たに7か所の原発を新設しても目標値を達成することは容易ではないと思われます。
政府は敢えて高い目標値に変更することで民間企業の大胆な投資を促し、国として民間企業の挑戦を応援していくことで経済産業の成長戦略に繋げていこうという明確な意思を示していることが伺えます。
さて、経済の成長戦略に温暖効果ガス削減への取り組みを絡めると言っても現状の数値からは大きく乖離があり、前目標から新目標を変更することは容易いことではありません。むしろ、実力以上の目標を設定したと言っても過言ではないと思います。計画案の主役は太陽光です。現状から2倍増とする計画です。太陽光に関しては既に森林の伐採など自然環境や景観を害する開発が社会問題となっています。日本の太陽光発電量は世界3位となっておりかなりの先進国です。平地面積での太陽光発電施設の設置率は日本が世界一位です。では、太陽光発電事業に今後の伸びしろがないかというとそうではありません。日本には耕作放棄地が数多くあります。平地での荒廃地も相当な面積が存在します。それらの活用は進んでいません。農地の転用は近くに鉄道駅が出来たり、市街化区域に隣接していたりしない限り原則不許可です。農地法が立ちふさがりなかなか思うように耕作放棄地を活用できていないのでしょう。この状況を改善し、耕作放棄地をエネルギー政策に活用できるように行政手続きの特例等を創設することが出来るならば2030年までに太陽光発電を倍増することは可能であるかもしれません。同時に住宅での太陽光パネルの設置による発電も進んではいます。これは発電したものを蓄電し住設やEVなどで利用するというサイクルを目的としていますから需要を抑える、節電するという効果に留まります。
太陽光発電のシェア拡大に関する課題は設置場所の問題だけではありません。使用する太陽光パネルの問題もあります。日本の太陽光発電で使用されているパネルについては中国産のシェアが非常に大きいそうです。中国産の太陽光パネルはその8割がウイグル族の強制労働による生産だと言われています。よって、アメリカは中国産の太陽光パネルの輸入を禁じています。中国共産党によるウイグル族へのジェノサイドを日本が下支えするわけにはいきませんので、日本の太陽光発電事業が順調に伸展するとは限りません。
いずれにせよ、再生エネルギーによる発電を促進するのは温室効果ガス削減の為です。ヨーロッパでは比較的再生エネルギーの活用が進んでいます。具体的にはエネルギーが足りない国や地域とエネルギーが余っている国や地域を細かく送電ネットワークで結ぶことで効率的なエネルギー消費が行えるようになっています。日本にはこうした送電ネットワークはありません。北海道電力、東北電力、東京電力、中部電力、北陸電力、関西電力、中国電力、九州電力がそれぞれ個々に独立した事業体として単独で発電と供給を行っています。もし国内の電力各社を送電ネットワークで結ぶことが出来たら電力の需給ギャップによるロスは劇的に解消され、ロスの解消の対象を化石エネルギーとすることで温室効果ガスの削減に大幅に繋がります。では、なぜ送電ネットワークは構築されないのでしょうか。それは巨額の投資を必要とするからです。北海道と東北を結ぶために約8000億円、北海道から東京までを結ぶと約1兆円、中部から関西を結ぶのに約500億円、九州と中国を結ぶのに約3500億円が必要だと言われています。つまり、投資が莫大過ぎて電力各社の収益に見合わないのです。電力各社が出来ない巨額投資ですので、それを可能とするのは政府による政治的な判断による投資しかありません。しかし、政府がそれを行うとしても1兆5千億円以上の費用を必要とすると考えられるので現実的はないかもしれません。
送電ネットワークの構築が困難だとしますと蓄電に頼るしかありません。しかし、現状は電力の長期蓄電を可能とする技術はまだ発明されていません。もし、小型で多量の電力を長期にわたって保持できる技術が発明されたら、それは正しくノーベル賞に値するような革新的な発明になろうかと思います。そういえば、東日本大震災が発生した際に、私が経営するホテルが立地するエリアも3日ほど停電していたのですが、私のホテルでは蓄電式のキューピクルが稼働してだと思うのですが30時間ほどは電力を維持することが出来ていました。つまり、その程度の短期間の蓄電技術は既に実用化されているのだと思います。世界が待望する蓄電技術はそれを何倍も効率化して容量を拡大したものを指しているのでしょう。出来そうで出来ないのが不思議です。根拠はありませんが、2030年までには発明され、実用化されるような気もします。
再生エネルギーを振興することは国民に課される再エネ賦課金の負担増にもつながっています。FIT(固定価格買取制度)によって再エネは購入されていますが、その原資になっているのが国民から徴収されている再エネ賦課金です。FITの価格は都度に改正されていて年々下がって行っています。それに反比例して再エネ賦課金は年々負担が増していっています。再エネ事業がそれだけ急速に増えていることなのでしょう。
参考:東京電力ホールディングス「再生可能エネルギー発電促進賦課金単価」より
年々増す再エネ賦課金ですが、温室効果ガスを2.5%削減する為に2.5兆円を徴収されています。目標の46%削減までにはあと32%を削減しなければならず、単純計算は当てはまらないかもしれませんが、残り8年間で32兆円を徴収して費やすということになるのかもしれません。つまり、省エネ賦課金という国民負担は今後も増えていくことが予想されます。32兆円というと税収20兆円の消費税率を20%くらいにしないと賄えないほど額です。重すぎる経済的負担が国民に課されないように政府はエネルギー政策を経済振興に転嫁することで乗り切りたいという意向が見え隠れします。しかし、それには民間事業者を呼び込む官主導の事業環境の整備が必要だと思います。省エネや節電を呼び掛けつつ、エネルギー事業に対して民間投資を期待することは裏腹な行為になってしまい兼ねません。
たとえパリ協定における温暖効果ガス削減目標の達成の為だと言っても、今後も続く国民負担が更に増えることが予想されると世論が反旗を翻すかもしれないと思います。そのことも踏まえて政府主導の投資環境の整備とグリーン事業に関する経済振興策の具体的な提示が重要であり、可及的速やかに提示されるべきであろうと思います。
以上、最後までご拝読を賜りありがとうございます。