仏メディアが報道する『日本人シンドローム』 パリ症候群の実態とは?
“パリ症候群”という日本人によく見られるシンドロームを知っているだろうか。
パリ症候群とは、「流行の発信地」などといったイメージに憧れてパリで暮らし始めた外国人が、現地の習慣や文化などにうまく適応できずに精神的なバランスを崩し、鬱病に近い症状を訴える状態を指す異文化における適応障害の一種である。(参照:wikipedia) パリ症候群についての情報は日本語ではいくらでもあるので気になる方はそちらを調べてもらうとして、今回はフランスでフランス人に向けて報道されるメディアは“パリ症候群の実態”をどのように報じているかをテーマとする。報道姿勢を世界的に高く評されている仏紙ル・モンドが先週金曜日にインターネットに載せた記事を翻訳してみた。パリ症候群をフランス人に理解してもらうことで、日本人とフランス人の相互理解に役立てれれば幸いである。 パリ症候群 ― パリでおかしくなってしまった日本人たち 欧米人はインディアンシンドロームについてはよく知っている。インドの港町ボンベイにあるフランス大使館で働く精神科医が書いた本“インドの愚か者”では、インディアンシンドロームの実態を見事に説明していた。ガンジス川を冒険する欧米人旅行者の約10%はこの不可解な症状に苦しんでいるという。 アイデンティティのぐらつき、現実との接触の喪失、幻覚、精神病の妄想など…。これまで精神科的な病にかかったことがない若者に多くみられる症状で、支離滅裂な発言をし、アイデンティティを示す書類を持たず、路上を裸でさまよっているようなものだという。 こういった症状がみられる人でも、自分の国に一時帰国すると精神の錯乱が一旦は治まるが、すぐに現実の世界に引き戻されてしまう。こういった海外でのカルチャーショックがアジア人に多くみられる症状であることを知るフランス人は半分にも満たないと言われている。 パリ症候群とは、パリを訪れた日本人を苦しめる適応障害の一種。 153年の歴史を誇るアメリカ最古のオピニオン誌『The Atlantic』の今週の記載した記事によると、「今年の夏にパリを訪れた日本人100万人のうち20代の女性が一人この不可解な症状によって死亡、うち6人は入院を必要とする状態にある」としている。
The Atlanticはパリ症候群をこう説明する。 「簡単に説明すると、これは初めてパリを訪れた旅行者に見られる身体と精神の両方に支障をきたす症状です。出発前に想像していた街とは違うということを実感することによって発症するカルチャーショックの一種です。」
パリ症候群の原因とは?
理想化されたパリ
この現象を繰り返し調査するSlate.frはさらにこう付け加える。
「外国人にとってパリという町はシャネルの5番のような広告や、仏映画アメリにでてくるような愛の街、ロベール・ドアノーによって撮影されたモノクロ写真にあるような絵になる美しい街を想像するのです。そういった写真にはセンスを持った女性や片眼鏡をした口髭の男性が写っています。
ズレたパリのイメージの一番の犠牲になるのが日本人女性。
彼女たちは理想化した狭いパリのイメージしか持っていないため、メディアの影響を受けやすいのです。パリのイメージがパリジャンのカフェやエッフェル塔、ルイ・ヴィトンの看板などに止まってしまっています。」
パリ症候群をテーマにした本“Le Syndrome de Paris ”が2005年に出版されたが、仏紙Le Figaroは当時、日本人を対象にアンケートを行った。日常生活についての質問を行った調査の結果に、パリの日本大使館で領事官第一秘書を務めるヨシカツ アオヤギはこうコメントしている。
「テレビ(に映し出されるパリ)では、全てが波風のない、バランスのとれた、オスマンの大きなビルで画一性のあるイメージが映し出されます。しかし、我々は歩道を撮るのを忘れすぎている。祖国を離れた人たちがフランスでの生活様式に順応する現実の厳しさを悟り、自分を責める傾向にあることを情報として付け加えなければなりません。」
冷淡なパリジャンの視線
この本の著者であるフィリップ・アダムはより正確な事実を伝えている。
「若い女性が最も被害を受けている。20~25歳の女性で、理系というよりは芸術史を専攻するような学生に多く、パリを耽美主義の街で、心優しい青年のいる場所だと思い込んでいます。」
2006年にBBCのインターネット上に公開された記事によると、「想像上のパリジャンとは違い、パリの人に失礼な態度をとられたことからショックの度合いが高くなる」としている。
確かに仏紙Le Figaroが強調するように、日本VSフランスのマッチでは両者は対立してしまうだろう。
・生まれもって慎み深い人と、率直な物言いで有名な人
・入念に敬意を払う人と、暗示的なユーモアを言う人
・辛抱に強い人と、ころころユーモアが変わる人
・迅速なサービスの国と、市役所の遅さ
・集団主義精神の国と、激しい個人主義国家
つまり調和の混乱である。
パリで5年間文学を学ぶ女学生は光の都で体験した当初の苦労を語った。
「(パリで)言葉がわからなければ、フランス人はあなたが存在しないかのように接します。パリの理想的な姿を想像して日本を発ち、パリでブラックホールを見つけ、パリジャンの冷淡な視線を目の当たりにするのです。」
Saint-Anne病院で日本人の精神科医にインタビューしたフランスの旅行ガイドマガジンLe Guide du routardも、カルチャーショックの深刻さを重視している。
「パリ症候群に苦しむ日本人はフランス人の生活習慣に慣れるのに苦労します。誤解された、好かれない、馬鹿みたいという感情を抱いてしまうのです。個人主義、短気、あけっぴろげなユーモアは集団主義の謙遜する礼儀正しくて真面目な日本人の気質とは相いれないのです。」
最後にフィリップ・アダムの言葉で締めくくろう。
「 日本人がもつフランスへの愛着のため、パリ症候群はより難しくなるのだ。 」