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これからの公共交通のあり方について

2021.10.02 06:40

第1章 はじめに

 皆さんこんにちは。高校二年の**です。いよいよこれが最後の研究になってしまいました。なので、悔いのないように、今までの集大成となるような研究にしたいなあと常々思っています。その結果、実はこの時点ですでに研究テーマを2回も変更しています(笑)。悩みに悩んで決めた研究テーマは「これからの公共交通のあり方について」です。それでは早速、本題に入っていきましょう。

第2章 公共交通とは

 そもそも、公共交通機関とはなんでしょうか?公共交通機関とは、不特定多数の人々が利用する交通機関のことです。たとえば、鉄道は不特定多数の人が利用できる交通機関のため、公共交通機関に分類されます。なお、タクシーについては、公共交通機関に含むという解釈と含まないという解釈がありますが、この研究の中では公共交通機関に含めることとします。数ある交通機関を分けると、次のようになります。


※私的交通機関…この研究では、「公共交通機関」の対義語として「私的交通機関」を用いることとします。

 公共交通と私的交通には、長所・短所で見ればたくさんの相違点がありますが、そもそも根本的な構造上の違いとして、私的交通機関が「個人の足」なのに対し、公共交通機関が「地域・広域の足」として機能している、という点です。つまり、私的交通が自分の好きな時に好きな場所へ移動できるのに対し、公共交通はその地域の人々全員の足として利用する人が多い区間に運行されます。

第3章 公共交通の現状

 現在の日本の公共交通の現状を説明するにあたって、いきなり全てを述べると文章量が膨大になってしまうため、まず大まかな概形について記し、その後に交通の形態別に詳しく述べていきたいと思います。

 次のグラフをご覧ください。グラフ1は全国の交通機関別の輸送シェアを人キロベースで表しています。グラフ2は全国の交通機関別の輸送人員を表しています。


 そもそも、かつて日本の交通のほとんどは鉄道・路線バスと、それに付随する徒歩・自転車によって成り立っていました。遠距離を移動する場合も、主な部分を鉄道で移動し、付随部分を路線バス・徒歩という場合が多かったのです。戦後に日本が驚異的な経済発展を遂げると、それまでおろそかにされてきた道路の整備が国策として行われました。長距離輸送の効率化を目的に空港整備も行われ、それらの交通機関が発達していくにつれて、短距離での鉄道輸送は自家用車にとってかわられるようになっていきシェアが低下し、長距離での鉄道輸送も航空の台頭でシェアが減少するようになりました。しかし、シェアは下がっていったものの、輸送量は上昇していったため、輸送量だけを見ればそこまで減少していません。ただし、路線バスは主な旅客が短距離利用なので、自家用車と役割がかぶり、シェア、輸送量ともに減少しました。

 そして、日本の人口減少により、公共交通は路線バスだけでなく鉄道、ついには航空も輸送量が減少傾向になるでしょう。一定の輸送需要がなければ公共交通は成り立たなくなってしまうからです。しかし、自家用車は人口減少によって廃止された地域の代替交通としてこれからも一定の輸送量を保つと筆者は考えています。

 現状では、首都圏や京阪神圏などの大都市圏への人口の集中により、大都市圏では公共交通の利用者が増加しています。これらの都市圏では、公共交通だけでなく私的交通を利用する人も増加しているため、道路の渋滞や鉄道・バスの混雑といった問題が起きています。このような状況から、大都市圏に限れば、公共交通は今後も安定した需要が見込め、発展していくでしょう。

 しかし地方では、公共交通は存廃の危機に立たされています。大都市圏への人口流出により、地方は過疎化が進んでいます。その影響で、乗客が減少し、地方の公共交通事業者は大半が経営難に陥っているのです。

 ここから、詳しく輸送形態別に説明していきます。そもそも、輸送形態とは、「どこからどこへ人を運ぶ輸送なのか」ということを分類したものです。ここでは、鉄道路線や空港、バス路線などがよく整備された公共交通事情のよい都市を「大都市」と定義し、それらがあまり整備されていない都市を「地方都市」と定義した上で、人々の輸送形態を以下の3つに分けてそれぞれの現状について考えていきたいと思います。

①都市郊外と都市中心部間の輸送(都市圏輸送)
②地方都市郊外と地方都市中心部間の輸送(都市圏輸送)
③都市間輸送

 まず、①の都市圏輸送についてです。下のグラフをご覧ください。このグラフは、三大都市圏における各交通機関の利用率を輸送人員ベースで示しています。



 東京や大阪をはじめとする大都市圏では、旺盛な輸送需要を反映して公共交通機関が充実しており、運行本数も多く、大勢の人々が公共交通を利用しています。大都市圏では、車を使っても駐車場がない所も多いことや、道路渋滞により時間の正確性が保証できないことも要因の一つです。しかし、この道路渋滞により路線バスは輸送人員が微減傾向にあり、それとともに輸送シェアも漸減しています。都市部の路線バスは路線網が利用者にあまり認知されていない、という理由もあります。

 それに対して鉄道は輸送シェアが増加のち微減、輸送人員は増加のち横ばい傾向にあります。1980年代後半から1990年代にかけて鉄道のシェアがやや低下しているのに輸送量が横ばいなのは、全体の輸送人員のうち自家用車が増加したとみることができます。

 自家用車は、増加傾向だったものが近年は横ばいで推移しています。シェアも横ばいです。これは近年、経済的理由※やそもそも車のある暮らしに魅力がなくなったことによる若者の車離れが進んでいることや、「カーシェアリング」と呼ばれる、登録を行った会員間で特定の自動車を共同使用するサービスが普及していることが原因として挙げられます。

 都市圏輸送の例として、筆者は横浜市郊外にある自宅から新子安にある浅野高校まで電車と自転車で以下のように通学しています。

自宅→(自転車)→A駅→(市営地下鉄)→B駅 →(京浜東北線)→新子安駅→(徒歩)→浅野高校


※経済的理由…自動車には、近年の高騰している本体価格、毎年払う税金、維持費、教習所に通う費用など、買う時と買った後に高額な維持費がかかる。近年の国民の経済状況の悪化も考慮すると、自転車、原動機付自転車、タクシー、レンタカー、カーシェアリングなどを利用した方が、かえって安上がりになる場合もある。

 では、②の地方都市における都市圏輸送について、下のグラフをご覧ください。このグラフは、地方都市圏における各交通機関の利用率を輸送人員ベースで示しています。


 ①とは対照的に、②のような地方都市での都市圏輸送は需要の少なさが原因で公共交通機関を運営しても採算が取れないため、公共交通機関が発達しておらず、住民の主な移動手段は自家用車となっています。ただし、このような地方都市でも路線バス網も少なからず整備されており、また規模の大きな都市では鉄道もあります。しかし、過疎化に伴う利用者減少のため、本数が減少し利便性が低下、これらの公共交通は自家用車に駆逐されようとしています。

 鉄道は輸送人員、輸送シェアともに微減傾向にありますが、最近、減少が加速しています。路線バスは、輸送人員、輸送シェアともに減少傾向にあります。

 都市圏輸送についてまとめます。路線バスは、減少傾向が弱まってきました。もうこれ以上は一定の利用者がいて、落ちるところまで落ちたといえます。鉄道は大都市圏と地方都市圏で明暗が分かれています。大都市圏は人口が維持されているので輸送人員は横ばい傾向が続いていますが、地方都市圏では人口減少により輸送人員が減少しています。ただ、今後は大都市圏でも人口減少が予想されるので、輸送人員は下がっていくでしょう。


 ここから③の都市間輸送の話に入りますが、今まで述べてきた都市圏輸送がおもに通勤・通学客を運んでいるのに対し、都市間輸送はおもにビジネス客と観光客(特に国内)を運んでいます。また、輸送距離も都市圏輸送とは比較にならないほど伸びるのは言うまでもありません。下のグラフは、国土交通省の「幹線旅客流動調査」をもとに、輸送距離別のシェアを表したものです。


※幹線鉄道…新幹線、JR特急、一部の長距離民鉄線。普通列車・快速列車は除外。

※幹線バス…都市間バス・高速バスのこと。路線バスは含まれない。

※幹線旅客船…フェリーを含む航路。

 前述したように、一昔前は都市間輸送といえどもメインの部分は鉄道で、主要駅~目的地間の付随する部分を路線バス・徒歩が担っていましたが、自家用車の台頭でまず付随する部分に自家用車が入り込み、さらに高速道路の相次ぐ開通で近距離・中距離の輸送は自動車がメインの部分も担う例が多くなりました。しかし、長距離輸送においては航空機や鉄道をはじめとする公共交通に時間的優位性があるため、公共交通が高いシェアを持っています。ただ、グラフ上自家用車の割合が低い長距離においても、公共交通によるアクセスが極端に悪い場合、自家用車を使用する人も一定数存在します。

 近年、従来鉄道が担っていた中距離の部分を幹線バスが担うことも多くなってきており、幹線バスのうち高速バスの輸送人員は下のグラフのように年々増加しています。

 読者の皆さんは、「あれ?バスの輸送人員って減少しているんじゃなかったっけ」と思われるかもしれませんが、高速バスの増加人員よりも路線バスの減少人員が著しく大きいため、バス全体としては減少傾向にあるのです。

 大都市圏では公共交通の輸送人員がおおむね良好な数値を保っていて、公共交通の新たな路線も開設される一方で、地方都市が関係する輸送では人口減少やモータリゼーション、高速道路の開通により高速バスを除く公共交通が衰退し、自家用車利用が増加する傾向にあるのが現在の日本の交通体系であると結論されます。

第4章 公共交通の長所と短所

 ここまで公共交通がどれだけ窮地に追い込まれているかについての話をしてきましたが、そんな公共交通機関は、私的交通機関と比べると

①環境にやさしい
②効率の良い輸送ができ渋滞が緩和される
③健康の増進につながる

④ドア・ツー・ドアの輸送では私的交通機関に大きく劣る  

 などの特徴があります。そのほかにも利用できる時間が限られることや経路を自由に選べない、プライバシーが守られないといった欠点、事故が比較的少ないという利点がありますが、この研究では文章量の都合上、上記の4つの点にスポットを当てて考えたいと思います。

 まず、①環境にやさしいについてです。これは多くの人が知っていることだと思います。次のグラフをご覧ください。


 このグラフは、乗客1人を1km運ぶときに排出する二酸化炭素の量を表しています。見ての通り、自家用車>航空>バス>鉄道の順に排出量が少ないことがわかります。特に鉄道は突出して少なく、自家用車と比べると同じ人数を運ぶ時に約7分の1の二酸化炭素排出で済むことがわかります。

 次に②について、次の表をご覧ください。代表的な交通機関とその定員を示しています。


 表より、自家用車を基準として考えると、航空機は約33倍、路線バスは7倍、鉄道は20倍もの乗客を一度に運べることがわかります。鉄道を10両編成とした場合は、自家用車の185倍になります。

 1両にこだわってみれば航空機が1番多く載せられることがわかりますが、鉄道車両は一般的に1両編成で運用されることは少なく、数両の編成を組んで運行されます。その場合の輸送力はほかの交通機関の追随を許さない、圧倒的な輸送量を誇っています。

 つまり、公共交通機関は自家用車などの私的交通機関と比べると一度にたくさんの人が運べるため、道路への交通集中が緩和され、渋滞が起きにくくなります。

 しかし、これは逆に言うと需要が少ない場所(人口が少ない地方の市町村など)では、公共交通機関は輸送力過多となってしまう、ということです。そのため、第3章で前述したように現状ではそのような場所では自家用車が主な交通手段となっているところが多いといえます。

 ③について、まず読者の皆さんにクイズを出題したいと思います。

問題 「自家用車で1時間かかる所にバスを使っていく場合、何倍のカロリーを使うでしょう?」

 正解は2倍です。実は公共交通機関を使うと、状況にもよりますが私的交通機関を使った場合に比べて1.5~3倍ものカロリーを消費できることが知られています。これは、公共交通機関の駅やバス停までの徒歩・自転車利用がカロリーを消費するためです。つまり、公共交通を使えばそれだけで運動ができ、健康の増進につながるということです。では、それを踏まえて次の問題です。

問題 

「大都市圏と地方都市圏を比べた時、どちらのほうがが肥満者の割合が多いでしょう?」

 きっと読者の皆さんは「ばかにすんなよ、そんなの大都市圏に決まってるだろ。田舎より都市部のほうが不健康そうだし」と思うかもしれません。しかしそれは不正解です。実は、地方都市圏のほうが肥満者の割合が多いのです。地方都市圏の人たちに肥満者が多い理由として、私的交通機関ばかり使う人が多く、カロリー消費量が大都市圏に住む人と比べてかなり低いことが挙げられます。これと同じような例として、世界の国別の肥満率を比較すると、明らかに私的交通機関利用率と肥満率に関連があります。



※加…カナダ 瑞典…スウェーデン 蘭…オランダ 丁抹…デンマーク

 このグラフを見ると、自動車以外の利用率が低ければ低いほど、つまり公共交通利用率が低ければ低いほど肥満率が高い傾向が読み取れます。

 以上より、公共交通は乗車の前後の徒歩・自転車により、利用するだけで健康の増進につながるという利点があります。

 しかし、乗車の前後に徒歩・自転車が必要である、ということは裏を返せばドア・ツー・ドア※での利便性に欠ける、ということです。これが公共交通機関の最大の欠点であり、自家用車などの私的交通機関にとってかわられている原因にもなっています。しかもこの問題は公共交通にとってずっと付きまとってくる問題で、解決はほぼできない欠点です。

※ドア・ツー・ドア…ドアからドアへと直接アクセスできること。自家用車は自宅から目的地まで道路があれば直接アクセスが可能であるから、「ドア・ツー・ドア」の利便性が高いといえる。

第5章 私的交通機関の特徴

 公共交通機関の長所と短所を、そのままひっくり返したものが私的交通機関の長所と短所である、といえます。なので、詳しい説明は重複を避けるためしませんが、自家用車の2つの欠点について補足をしたいと思います。

A 環境に悪いクルマ

 前述したとおり、自家用車は非常に環境に悪いことで知られています。その環境の悪さを、エコ活動による1年間のCO2削減量で比べてみたいと思います。


 グラフを見れば一目瞭然ですが、自家用車の使用をほんの少し控えるだけで非常に多くのCO2を削減できることがわかります。つまり、自家用車はそれだけ多くのCO2を排出しているということです。

B 事故の危険性

 どんな交通機関にも事故はつきものですが、私的交通機関は事故が起きる確率がとても多いです。1人当たりの事故発生件数を自動車事故・航空事故・鉄道事故・海難事故でくらべると


 また、この表の中に含まれるものですが、近年高齢者ドライバーによる事故が多発しています。その原因は主に加齢により判断力・反応速度が低下した高齢ドライバーが増えたことであるとされています。解決策として、運転免許の自主返納が推進されていますが、行政側としては自家用車がないと生きていけない地方の高齢ドライバーに対して簡単に「免許を返納しろ」とは言えないため、現状では各自治体によって免許返納には温度差があります。そこで重要となってくるのが公共交通の整備で、免許返納をした後にも住民が移動手段に困らないように路線を整備しなければなりません。逆に言えば、公共交通が整備されていれば、行政側としても容易に免許返納を呼びかけられます。

第6章 公共交通と私的交通を比較すると

 公共交通機関と私的交通機関の長所と短所を表にまとめると、この表のようになります。


 このように2つの交通機関を表で比較してわかることは、私的交通機関が「社会的ジレンマ」を抱えているということです。社会的ジレンマとは、短期的・利己的にメリットのある行動をとれば、長期的・社会的なメリットが低下してしまうという状況のことで、詳しく言えば、いま・ここだけの個人的な利益を重視して個人が自分勝手な行動をすることで結果的に社会全体(日本国民)が損をして、最終的に自分も損をしてしまうという状況のことです。この場合、個人が自らの短期的・利己的な利益である「ドア・ツー・ドアの利便性が高いこと」や「プライバシーが守られること」を重視して私的交通機関を利用することで「環境が悪化」し、また、「事故の危険性が高まる」という社会的損失が生まれます。また、そのようなことが起きると、自らの首を絞めることになり、結局は自らが損をすることになります。

 何が言いたいのかというと、個人が少しでも私的交通機関の使用を控えれば、大きな社会的利益が生まれるということです。「少しの我慢でみんなの利益に」ということは社会的にも非常に重要なことであると思います。逆にこのまま私的交通機関の利用が増加していくなら、結局は日本の社会的損失となるでしょう。

第7章 公共交通が抱える問題

 第3章でも少しお話ししましたが、今の日本の公共交通は安定した経営が見込める大都市圏に対して地方都市では危機的状況に陥っています。また、相次ぐ高速道路の開通により、都市間輸送において自家用車を使う人が増加し、鉄道・路線バスを利用する人が減少傾向にあります。

 この章では、公共交通がどのような問題を抱えているかについてまとめたいと思います。

A 自家用車にかなわない

 前述したように、ドア・ツー・ドアの利便性に劣る公共交通は大都市部を除き、自家用車にシェアで年々押されています。

B 負の連鎖

 過疎化によって乗客が少なくなる→本数が少なくなる→利便性が低くなる→さらに乗客が減るという悪循環が起こります。

C 無益な競争

 都市間の輸送において、鉄道と高速バスは競合関係にある場合が非常に多いです。このような区間では、競争原理が働いてサービスの向上・利便性の向上につながる例もありますが、これからの人口減少社会を考慮した時、競争をしても乗客が分散されてしまうことで双方に不利益が生じる、と判断します。公共交通が危機的状況に陥っているこの状況で、私的交通に対抗していくためにはこのような無意味な競合はやめたほうがよいと思います。以下に例を挙げます。

(1)東京~房総方面

道路事情が悪かった時代は鉄道の圧勝でした。しかし、東京湾アクアラインや館山自動車道をはじめとする高速道路の開通により高速バスと特急の所要時間の差があまりなくなり、運賃面で大きな差をつけられている特急は衰退し、現在では高速バスが特急を駆逐してしまった区間もあります(成田線の「あやめ」など)。もちろん、高速道路の開通による自家用車増加も原因の一つです。

(2)名古屋~飛騨高山・富山

高山までの道路事情が悪かった時代は特急「ひだ」の独擅場でしたが、高速道路の開通で自家用車や高速バス「ひだ高山号」と競合するようになり、運賃面でバスが優れているために高速バスがシェアを伸ばしています。

さらに富山までは「ひだ」が1日4往復と少なく、2015年の北陸新幹線開業により、名古屋駅から北陸本線経由の特急「しらさぎ」の金沢駅 - 富山駅間の運行が廃止となり、それを見越して2014年に名古屋駅前~富山市街地の区間で運行される東海北陸道経由の高速バスがこれまでの8往復から10往復に増発され、所要時間も「ひだ」や「しらさぎ」と比べてもそれ程変わらず、運賃も半額程度の金額になるため競争が激化し、鉄道は劣勢が強いられる状態となっています。

第8章 目指すべき交通体系

 前の章で公共交通機関が抱える問題について記述しました。提示した問題を解決するにあたって、まず日本という国がこれからどのような交通体系を目指すべきなのかについて、筆者自身の考えを書いていきたいと思います。

 まず、筆者は自家用車などの私的交通に依存する傾向が強まっている地方都市が関係する交通体系を、再び公共交通中心の交通体系に戻すことが重要であると思います。もちろん、需要が極端に少ない地域では公共交通を運営しても採算が取れないだけでなく、自家用車でも十分輸送できる人数を自家用車よりも多くの人員を輸送できるバスや鉄道で輸送することになり、かえって環境に悪くなってしまうため、自家用車も交通体系の一員として重要な役割があります。

 現在は良好な数の利用者がいる大都市圏においても、これから予想される人口減少による乗客減少の対策をとり、公共交通体制をより盤石なものにしていくことが重要だと思います。ただし、路線バスにおいては乗客が減少してから横ばいのままである現在の状況を打開するため、抜本的な改革が必要です。

 筆者が考える公共交通中心の交通体系とは、自家用車の利用を駅・バス停・空港と目的地間などの比較的短距離の移動のみに制限し、主要部の移動を公共交通機関に任せるような交通体系です。そのためにはドア・ツー・ドアの利便性が低い公共交通機関に対して、

1. 極力目的地の近くまで到達できるように公共交通路線網を張り巡らせること

2. 公共交通では避けられない「乗り換え」への抵抗を極力減らすこと

3. 私的交通機関に対抗するため、公共交通機関同士の無益な競争に規制をかけること

4. 私的交通機関利用を抑制すること

が必要であると思います。

第9章 改善策

 前の章で提言した①~④を基に、より具体的な改善策を考えていきたいと思います。

 公共交通路線網を再整備するにあたって、それぞれの交通機関で役割分担をする必要があります。路線バスやタクシーは最寄りの駅や高速バスのバス停までの移動手段とし、鉄道・新幹線・高速バス・飛行機をメインの移動で用いるようにするように役割分担をする必要があります。もちろん、駅や高速バスのバス停までのアクセスは自家用車や自転車も担うので、利用しやすいように駐車場・駐輪場を設ける必要があります。

 需要が少ないところでも、車両の小型化による増発や利用しやすいタクシーの整備などをすることによって交通機関網を張り巡らせることが可能です。どうしても公共交通が走らせられない場所では、思い切って自家用車に頼るのも手ではないでしょうか。

 乗り換えの抵抗の解消について、長距離を移動する人々の例として観光客があげられますが、観光客が公共交通に改善してほしいこととして「乗換が分かりにくい」「本数があるかどうかわからない」ということがあります。

 駅やバス停の改良は、乗換による歩行距離が極力短くなるようにしなければなりません。そうすると、やはり対面乗換ができるようにすることが望ましいです。それができない場合でも、エスカレーターやエレベーターの積極的な整備が必要だと思います。また、アクセスに自家用車や自転車を使用する場合を考慮して、駅やバス停に駐車場や駐輪場の整備を行い、パークアンドライドを推進します。

 乗り継ぎの接続時間は、なるべくスムーズに乗り換えができるように考慮してダイヤの設定を行い、ストレスを感じさせないようにし、さらに慣れない観光客のために乗換の案内を鉄道同士の乗り換えだけでなく、鉄道からバス、バスからバスへの乗り換えの案内も行うといいと思います。

 近年、交通業界で、「MaaS」という概念が話題になっています。MaaSとは、「Mobility as a Service」の略で、「運営主体を問わず、情報通信技術を活用することにより自家用車以外の全ての交通手段による移動を1つのサービスとして捉え、シームレスにつなぐ新たな『移動』の概念」と言葉上では表現されています。分かりにくいので、例を挙げます。

 たとえば、日本のトヨタとあいおいニッセイ同和損害保険株式会社が共同で出資をしているフィンランドのベンチャー企業が、2016年からフィンランドの首都・ヘルシンキで『Whim(ウィム)』というアプリを使ってサービスを開始しました。Whimを利用することで、公共交通機関やマイカーの相乗り、タクシー、レンタカーなどを組み合わせ、最適な移動手段を利用できます。「乗り継ぎや精算の手間」「最寄りの公共交通に行くまでのアクセスの悪さ」等の問題が指摘されていたヘルシンキの移動問題解決が期待されています。

 筆者は、このWhimのようなサービスは、導入すると日本の公共交通に非常に良い影響を与えてくれると思います。「乗り継ぎや精算の手間」「最寄りの公共交通に行くまでのアクセスの悪さ」という欠点は、まさに日本の公共交通が抱えている問題で、これが解決すれば公共交通の利便性は飛躍的に向上します。

 鉄道と高速バスが完全に並行していて、競合が起きている区間では、鉄道への一本化をするといいと思います。このような区間では、鉄道・高速バスのどちらに一本化しても採算が取れるような需要がある場合が多いので、それなら本数が多少少なくなることは妥協し、環境への負担が低い鉄道へ一本化すべきだと考えます。並行していても一部で違うところを経由する場合など、完全には並行していない場合、鉄道の駅からその地区へ向かう路線バスを設定するなど、やはり鉄道中心の交通体系に是正していくといいと思います。

 自家用車が長距離輸送にも台頭してきている主な要因は、高速道路であると筆者は思います。高速道路を使えば、渋滞しているときを除き、鉄道の特急列車を使った時とほぼ同程度の時間で移動でき、乗り換えも必要ありません。ドア・ツー・ドアで直行できるので、公共交通が充実していないところへ行く場合、極端な時は新幹線を使うよりも早く目的地へ到着できるときもあります。

 しかし、このような状況では、渋滞の頻発、環境への負荷増大、事故の多発という問題が発生します。そして何よりも、利便性で劣る公共交通はどんどん衰退していってしまうのです。国としては「私的交通との競争によって公共交通も利便性が上がっていき、交通業界全体が発展していく」という競争原理を信じ、現状、いろいろな交通機関がしのぎを削る自由競争状態にしています。

 確かに、自由競争によって交通機関の利便性が向上した事例もあります。

 例えば、分割民営化後のJR各社は台頭するほかの交通機関に対抗するため、増便やスピードアップ、接続の改善などを行い利便性が向上しました。

 しかし、それから約30年が立ち、新しい道路が次々と開通している今の状況では、もはや、企業努力による競争力の向上では私的交通機関には対抗できなくなっているのです。

 そこで、筆者は国による私的交通の規制を行うべきであると思います。私的交通は、最寄りの駅までの区間など、短距離での使用は公共交通にも利便性の向上という良い影響を与えます。なので、短距離の利用を促進するため、一般道路の新設は筆者もどんどんしていくべきだと思います。

 しかし、高速道路は、私的交通機関で気軽に、安く、遠くへいける手段となってしまいます。現在、日本では都市間での地方でも高速道路の建設が進められていますが、これは即刻辞めて、既存の鉄道・路線バスの利便性を上げることにお金を投入すべきだと思います。また、高速道路の通行料を大幅に値上げし、公共交通よりもお金がかかるようにすれば人々の自家用車利用が抑制されると思います。

 さらに、私が高速道路建設において問題だと思うことに、「新直轄方式」があります。地方の高速道路は採算が取れないので、建設費の全てに税金が投入されています。このような建設方法のことを「新直轄方式」といいます。新直轄方式で建設された区間は維持費にも税金が投入されるので、その区間は原則無料で通行できてしまいます。

 高速道路を走る自家用車・高速バスの主なライバルは鉄道ですが、その鉄道は線路の建設費・維持費・運行費はすべて事業者側が負担しなければならないのに、自家用車・高速バスは事業者側が負担するのは運行費のみでよいのです。新直轄方式の区間においては高速道路の通行料さえ負担しなくてよいのは明らかに不公平です。この区間への税金投入を一刻も早くやめ、たとえ採算が取れない区間だとしても鉄道と同じように民間会社(NEXCO)に運営を任せなければならないと思います。

第10章 成功例

 公共交通の復権に向けた策が功を奏し、公共交通の利用者の増加を達成した例があります。それが、福井市です。

 福井市などを走る私鉄「えちぜん鉄道」の通勤定期券利用者数は2004年の約37.8万人から2018年度の74.7万人へほぼ倍増、「福井鉄道」も17.4万人から38.2万人へと2倍以上に増加しました。地方都市圏の公共交通が苦境に陥っているなかで、福井市は異例です。

 数年前、全線にわたって幹線道路が並行するえちぜん鉄道・福井鉄道は、モータリゼーションの進展とともに輸送人員が大幅に減少しました。近年はバス利用者すら減少し、マイカー利用が増えていました。

 これを重く見た福井県は脱クルマ社会を「公共交通機関の存続」と定義し、受け皿となる便利な公共交通ネットワーク構築と、マイカーから公共交通へ段階的に移行できる環境整備の2つのアプローチでこれに取り組みました。

 福井市は2009年に市民本位の公共交通構築を目指した「都市交通戦略」を策定し、県も2011年に「クルマに頼り過ぎない社会づくり推進県民会議」を設立し、「不必要な利用を見直し」「クルマは皆でつかう」「新時代にふさわしい社会」を基本方針とするアクションプランを策定しました。

 県や沿線自治体は利便性向上のために多額の資金を投じ、次のようなことを行いました。


◎日常的に使いやすい環境を整える施策

・路線バスの再編 ・駅を拠点とした地域フィーダーバスの設定 ・終電時間の繰り下げ

・乗り継ぎ割引や高齢者割引の導入 ・企画乗車券の充実

◎ハード面の刷新

・福井鉄道福武線に乗り降りしやすい新型の超低床電車(LRV)を導入 

・停留所を移設・拡幅してバリアフリー化を推進 ・ホームに屋根やベンチを設置

・えちぜん鉄道の市内中心部約3キロを高架化し、福井駅の道路渋滞と東西アクセス性を改善

・パークアンドライド用として福井鉄道14駅、えちぜん鉄道21駅に無料駐車場を設置

◎運行面の改良

・福井鉄道とえちぜん鉄道の相互直通運転

・上記の結果として日中の運行本数がえちぜん鉄道が1時間当たり2本から3本に、福井鉄道は同2本から3本に増便


 このように、単純に鉄道の利便性を向上させるだけでなく鉄道に乗った後の目的地への向かい方を改善した、言い換えると利用者が気軽に鉄道を乗車できるように駅までの交通を改善したことが鉄道の利用者増加に貢献したということです。

 この福井市の例から、「一定の人口密度がある地方都市では、公共交通機関に付属する交通機関を整備し、役割分担を行えば公共交通も生き残れる」ということがわかりました。福井市の場合、付属する交通機関として自家用車をうまく活用できたことが公共交通の利用者増加につながったといえます。

第11章 終わりに

 いかがでしたか?執筆の後に読み返してみて、「鉃道研究部っぽくない」と筆者自身が感じました。まあそりゃそうですよね…。公共交通について言及する以上、鉄道以外の移動手段にも触れなくてはいけなかったのは仕方なかったのです。どうかご容赦ください。

 これで鉃道研究部員としての私の研究は最後になってしまいますが、もし機会があればこの先大学生になった時に論文という形で執筆するかもしれません。その時はもっと深くデータを分析し、説得力のある論文にしたいと思います。あ、まず大学に入れるように勉強しないとだめですね…。

 ここで旅行記の告知をします(といっても自分は書かずに丸投げしてしまったのですが)。この夏に同級生2人と関西へ旅行した時の様子がその2人が執筆した旅行記に収められています。この文章の数倍読みやすく書かれていますので、ぜひお読みください。

 最後に…校閲してくださった先生方&同輩たち、提出期限を過ぎているのにヘラヘラしていてもイヤな顔一つしなかった後輩たち、そして最後まで読んでくださった読者のみなさんに、感謝の言葉を述べたいと思います。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

第12章 参考資料

・乗りものニュース

https://trafficnews.jp/

・東洋経済オンライン

https://toyokeizai.net/

・国土交通省

https://www.mlit.go.jp/

・総務省

http://www.soumu.go.jp/

・茨城県公共交通活性化会議

http://www.koutsu-ibaraki.jp/