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鉄道貨物の未来

2021.10.02 07:14

1.はじめに

 本日は打越祭にお越しいただきありがとうございます。

 早いもので高校二年生である自分にとってはこれが最後の文化祭になってしまいました。今回は自分の好きな貨物列車について書いていきたいと思います。普段鉄道に乗っていてもあまり貨物列車を見たり、関心を持ったりすることはないと思いますが、貨物列車は今日の日本経済において重要な役割を果たしているのです。日本の物流の一翼を担っている貨物列車は、トラックや船などに比べてCO2排出量が少なく地球にやさしい物流手段です。今回はそんな鉄道貨物、主にコンテナ貨物についてみていきたいと思います。

2.鉄道貨物の現状

 現在鉄道貨物が輸送を担っているのは、物流の全体の約0.9%です。グラフ1をご覧ください。

<グラフ1>


 左のグラフは2016年度における、キロ単位における輸送実績を表したグラフ、右のグラフは運んだ荷物の重さ(t)に運んだ距離(km)を掛けた輸送(t・km)を表したグラフです。こうしてみると、物流業界全体において鉄道貨物が占める割合はいかに低いかがはっきりとわかります。

 しかしこのグラフを見ると鉄道貨物が持つ一つの特徴が見えてきます。それは左のグラフと右のグラフにおける、鉄道が占める割合の違いです。左のグラフは純粋に運んだ荷物の多さによって割合が分けられていますが、右のグラフは荷物の重さ(t)×運んだ距離(km)である輸送トンキロによって分けられています。それゆえ右のグラフでは長距離輸送かつ大量輸送を得意とする鉄道貨物の割合が増えているのです。

 次のグラフをご覧ください。このグラフは国内の陸上貨物における自動車と鉄道のシェアを表したグラフです。

<グラフ2>


 このグラフを見ていただければわかる通り、鉄道貨物は長距離になればなるほどシェアが拡大していきます。鉄道貨物は長距離に強いということがわかります。しかしグラフ1にように鉄道貨物の国内シェアはあまり高くはありません。なぜなら国内貨物の需要のほとんどは750km以下の中距離だからです。やはり今現在物流の多くは東京~大阪間の需要が一番多いですが、同区間は520kmほどです。ちなみに東京~仙台が350kmほど、東京~北海道、東京~博多までがそれぞれ1200kmと1000km程度ですので、いかに中距離輸送が日本の物流のほとんどを占めているかがお分かりになると思います。

3.今日における鉄道貨物の立ち位置

 グラフ1で示した通り、荷物のkg単位で見たとき、鉄道貨物のシェアは0.9%と非常に少ない値になっています。それは日本における物流のほとんどが、中距離輸送が主流になっているからですが、JR貨物が輸送している貨物のシェアはどうなっているでしょう。表1をご覧ください。

<表1>


 この表は各地方から輸送される荷物の目的地の分布の輸送量(t)を表したものです。そして色を付けた部分は二地点間の距離が1000kmを超えるものです。(なお二地点間の距離は便宜上北海道は札幌、東北は仙台、関東は東京、北陸は金沢、東海は静岡、関西は大阪、中国は広島、四国は高松、九州は福岡を起点として計測しました。)

 こう見るとやはり色を付けた部分の輸送量はいずれも1000トンを超えており、距離に比例して輸送量が増えていることがわかると思います。

 また日本の主要都市である東京~大阪間の輸送、東京~仙台間の輸送量は1000トンを超えておらず、トラック輸送が主流になっています。なぜこのようにトラック輸送が主流になっているのでしょうか。その要因としてあげられるのは貨物の持つ特性にあります。鉄道で荷物を輸送する場合、荷主からトラックなどの何らかの手段でいったん貨物ターミナルへ運び、その貨物ターミナルで集められた目的地が同じ方向のコンテナに集約されます。その後集約されたコンテナを編成し、機関車で目的地に一番近い貨物ターミナルで、トラックなどに積まれ送り主のところに届けられます。しかしトラック輸送の場合、積み替えや集約する手間は必要なく、そのまま送り主のところまで直接輸送できるのです。そのため距離が近い場合、手間がかからないだけでなく早く運ぶことができるのです。

 図1は鉄道輸送とトラック輸送の違いを模式的に表した図です。

<図1>


 この図を見ればお分かりいただけると思いますが、鉄道貨物は一度荷物を貨物ターミナルに運び集約しなければならないという手間がかかります。そのため中距離輸送が主流の日本ではトラック輸送が主流になっているのです。

4.トラックドライバーの不足

 鉄道貨物とは少し離れてしまう話題になりますがトラックドライバーの不足は日本の物流を語るうえで触れておかなければならない話題です。グラフ3をご覧ください。このグラフはトラックドライバーの求人倍率の推移を表したものです。

<グラフ3>


 このグラフのとおり近年急激に倍率が増えていることがわかります。

 なぜこれほどまでにトラックドライバーの不足が深刻化しているのでしょうか。要因は様々ありますが、大きな要因としては重労働のわりに賃金が低いことがあげられます。グラフ4は全産業の平均年収と大型トラック、中・小型トラックの平均年収を比べたものです。

<グラフ4>


 これを見れば、トラックドライバーの年収が全産業の平均年収よりも低いことがわかります。

 またグラフ5はトラックドライバーの平均労働時間の推移を表したものです。こうしてみるとトラックドライバーの平均労働時間は、全産業の平均労働時間よりもはるかに長いことがわかります。労働時間が長く、賃金が低いため、近年トラックドライバーが減少しているのです。

<グラフ5>


 また賃金が低いことの理由として、運送業を営む会社には、中小企業が多いことがあげられます。経営基盤が弱く、従業員に十分な給料を払うことができないという事態が発生しているのです。

 労働時間が長いことについては、荷主の庭先での荷物の待ち時間や、配達時間が長いためです。一運行当たりの平均荷待ち時間は1時間45分と、非常に長く、この時間を減らすことができれば、労働時間を削減することができるのではないでしょうか。

 しかしこのトラックドライバーの不足の問題は場合によっては鉄道貨物にとって追い風になり、トラックが担っている輸送のシェアを鉄道貨物が奪うことができるかもしれません。

5.貨物のIoT化 AIの導入

 近年、話題になっているAIを貨物輸送に導入する動きがみられています。AIにより貨物ターミナルに集約された貨物を方面別に、最も効率よく振り分けできるのです。これにより、積載率の低いコンテナや、貨物列車をなくし、一回の運行で輸送できる最大量の貨物を運ぶことができるかもしれません。またこのIoTやAIの技術はトラックにも応用できると考えられます。トラックの積載率が41%と低い値になっており、トラックの低積載率の改善にも効果を発揮すると思われます。

6.専用貨物の現状

 JR貨物では特定の荷主のみの荷物を運ぶ専用貨物があります。下の表はJR貨物が運行する専用貨物をまとめたものです。

<表2>


*ftとはフィートの略 1ft=30.5cm 貨タは貨物ターミナルの略 以下同様

 佐川急便が荷主の貨物はスーパーレールカーゴと呼ばれている貨物電車です。通常は貨物列車はコンテナを積んだコキを機関車が牽引しますが、このスーパーレールカーゴは編成の両端部分に動力部分を集中させ、編成の中間部にはコンテナを乗せるための荷台を付随させるという構造になっています。また130km/hと高速で運転するため、東京貨物ターミナル駅~安治川口駅(大阪府南部の貨物の拠点駅)を約6時間で走ります。

 トヨタ自動車が荷主の貨物はトヨタ・ロングパス・エクスプレスと呼ばれています。名古屋南貨物駅周辺にある、トヨタ自動車の部品製造工場で製造された部品を岩手県金ヶ崎町にある、トヨタ自動車の岩手工場に運ぶための貨物です。

 福山通運が運行する専用貨物は一日3往復運行されています。名古屋貨タ駅を15両で出発し、途中の北九州貨タ駅で4両を切り離し、11両のコンテナで終点の福岡貨タ駅へ向かいます。

 西濃運輸は2018年の4月から貸切専用貨物の運行を開始しました。15両編成中4両は吹田貨タ駅~郡山貨タ駅までの運行で、11両は吹田貨タ駅~仙台港までの運行になっています。

 このように大手運送企業であれば貨物の輸送は鉄道にスイッチできます。最近ではキリンビールとアサヒビールが共同で関西圏から金沢、富山地方への製品の輸送を鉄道に切り替え始めました。実際北陸から関西圏への輸送は、関西圏から北陸への輸送よりも多いため、関西圏発北陸方面行の貨物は、常時空のコンテナを積んで運行していました。今までトラックで輸送していた荷物を、その空のコンテナを用いて両社は荷物を運ぶことにしたのです。


EH500形牽引のトヨタ・ロングパス・エクスプレス


M250系のスーパーレールカーゴ


福山通運専用の31ftコンテナ


トヨタ・ロングパス専用の31ftコンテナ

7.Sea&Railサービス

 Sea&Railサービスとは通常は航空機を用いて輸送する国際間の輸送を船と鉄道輸送を用いることで、飛行機に比べより安く、より定時性の高い輸送を実現することができるのです。海を渡る時は船による輸送に任せ、陸地での輸送は極力鉄道での輸送に回すことでCO2排出量の削減や、高い定時性を保つことができるのです。

 通常海上輸送では31ftコンテナを使用するのが主流ですが、日本のSea&Railサービスでは12ftコンテナを使用します。理由は日本の貨物の主流は12ftコンテナであり、日本での荷物の集約や荷役が大変スムーズに行えるからです。

 この12ftコンテナを使用したSea&Railサービスは主に中国や韓国との間での輸送で大いに力を発揮します。飛行機には劣りますが、上海や釜山、ソウルからの輸送については3日で届けることができ、値段も飛行機より数段安いので需要は高いと思われます。



日本の貨物で多く用いられる12ftコンテナ


海上輸送用の31ftコンテナ

8.問題点

Ⅰシェアの低さ

 日本の物流における鉄道貨物のシェアの低さはやはり特筆すべき問題でしょう。ほかの先進諸国に比べ日本の貨物のシェアはとても低いのです。それは日本特有の問題に起因しています。

 ほかの先進諸国に比べ日本の国土が狭いことが挙げられます。日本の二大都市、東京と大阪間の距離は約550kmで、また東京~福岡間は約1200km、東京~札幌間は1100kmほどです。ほかの先進諸国、例えばアメリカを例にとりますと鉄道貨物のシェアは約40%、二大都市のワシントン~サンフランシスコ間の距離は約4500kmと貨物の特性を十分に発揮できるのです。しかし日本は国土面積が小さく、長距離輸送ではなく中距離輸送が主体になってしまうため、鉄道貨物の特性を十分に発揮することができません。日本の物流に求められるのは「大量の荷物を安定的に運ぶこと」よりも「少量の荷物を素早く効率的に運ぶこと」が求められているのです。そのためどうしても運送会社は後者の条件を満たすトラック輸送を選ぶのです。

Ⅱ貨物ターミナルでの積み替え

 消費者および輸送会社が鉄道貨物を使いたがらない理由は、貨物ターミナルでの荷物の積み替えにあります。トラックで貨物ターミナルに集約した荷物を、コンテナ車に積み替える場所がこの貨物ターミナルの役割です。この手間が運送会社に煩わしさを感じさせ、鉄道貨物を使う輸送会社があまり増えない要因となっています。

Ⅲ機関車の老朽化

 JR貨物において深刻化してきている問題として、機関車の老朽化があげられます。現在、国鉄時代に製造された機関車はおよそ180台で、JR貨物が所有している機関車のおよそ30%にあたります。この旧型機関車は新型機関車に比べ故障が多く、輸送障害になりうることが多くなります。以前のことですが、高崎線の鴻巣駅~北本駅間で、国鉄型機関車であるEF65系が回送中に故障し鴻巣駅~高崎駅間が約2時間にわたり運転見合わせになるということも発生しました。このように機関車の故障は、貨物が走るJRの旅客線にも影響を及ぼすのです。



車齢45年の旧型機関車EF66-27


車齢40年の旧型機関車EF65-2139

Ⅳ輸送時間

 トラックに比べて輸送時間がかかってしまうことも、鉄道貨物の弱点といえます。貨物ターミナルでのトラックから鉄道への荷物の積み替え、同じ方面への荷物の集約、操車場や貨物ターミナルでの貨物の増解結などトラック輸送に比べて、鉄道貨物は余計に手間や時間がかかるのです。

 これによりトラック輸送に差をつけられ、鉄道貨物の輸送時間の短縮を阻んでいるのです。

9.解決策

Ⅰモーダルシフトの促進

 解決策の一つ目として提案するのがモーダルシフトの促進です。モーダルシフトとはトラック等の自動車によって行われている貨物輸送を環境にやさしく二酸化炭素排出量の少ない鉄道や船舶での輸送に切り替えることです。次のグラフをご覧ください。

<グラフ6>


 この表は1トンの荷物を運ぶのに排出されるCO2排出量をグラフにしたものです。トラックが1159g-CO2/トンとダントツで一番多く、鉄道はたった21g-CO2/トンと最も少なくなっています。鉄道は電気で走行しているものが大半でCO2の排出量はほとんどありません。また近年開発されているディーゼル機関車も最先端の技術によって、ハイブリット機関車やCO2の排出量が極限まで減少された機関車が増えてきています。このようにトラック輸送から鉄道輸送に切り替えることによってCO2の排出量を大幅に減らすことができるのです。

 政府はこのモーダルシフトの事業を推進しており、物流総合効率化法を施行しています。この物流総合効率化法の内容としては大枠としては3つあり、一つ目は複雑化した輸送網の集約、二つ目はトラック輸送の低積載率の改善を目指した荷物の集約化、そして三つ目はこのモーダルシフトの促進です。この環境負荷の低減及び省力化に努力し、国土交通省および政府に認定された場合、国からの支援を受けられるのです。支援の内容としては事業経費や運航経費の金銭的補助、輸送にかかわる施設の法人税や固定資産税の一部免除など金銭的な支援が多く、政府はこのモーダルシフトを積極的に促進しているのです。

Ⅱ新車の導入の加速

 8章のⅢで説明したとおり、JR貨物では機関車の老朽化が進んでおり、国鉄型の機関車がまだ全体の30%程、所属している状態です。先の章でも述べました通り、旧型の機関車は故障も多く、輸送障害の原因となりうるのです。そのため解決策の二つ目として新車の導入の加速を提案します。新車の導入により故障による遅延のリスクを減らすことだけでなく、貨物列車の速達化、そして最新技術を駆使した機関車を導入することで輸送力の強化や二酸化炭素排出量の削減も視野に入れることができるのです。

ⅢSea&Railサービスの促進

 7章で述べたSea&Railサービスは海外からの荷物の陸上輸送を鉄道が担うというものです。船舶輸送は国際貨物輸送額の約60%を占めており、Sea&Railサービスを促進することで、今までトラックにとられていたシェアを奪うことができると思われます。

Ⅳ専用貨物の増便

 4つ目の解決策として、6章で説明した専用貨物を提案します。専用貨物はほかの貨物に比べ輸送先が同一場所か同地方のことが多いため荷物の集約や貨物の増解結などの手間がほかの貨物に比べ少なく済みます。また長距離輸送になることが多くなるので、鉄道貨物の特性を大いに発揮できます。そのため輸送会社との協議が必要になりますが、専用貨物の増便は鉄道貨物に大きな追い風になるでしょう。

Ⅴ国からの支援

 この章のⅠで述べたことと少しかぶりますが、モーダルシフトの促進や、荷主がトラック輸送ではなく鉄道貨物を選ぶことに、何らかの割引や支援、補助金を増額することでより多くの人が鉄道貨物を利用することになるでしょう。

Ⅵ最新技術の導入

 最新技術を活用することによりディーゼル機関車のCO2排出量を抑え、輸送の速達化を達成することによって、荷主にとってより魅力的な輸送会社になるでしょう。またIoTやAIを駆使することにより、貨物ターミナルでの荷物の集約や貨物の増解結をより効率的にスムーズに行うことができるでしょう。

10.終わりに

 いかがでしたでしょうか。物流業界において鉄道貨物は今非常に厳しい立場に置かれています。しかしJR貨物は近年の営業努力により2016年度、24年ぶりに黒字化し、またそれ以降の経営も安定しているといえます。厳しい状況の中に立たされているJR貨物ですが、専用貨物の運転や大手流通業界との提携により、コツコツと利益を上げてきているといえます。個人的に好きな貨物をここまで根ほり葉ほり調べたのは初めてなので、貨物についてより多くのことを知れてよかったと思います。

 最後の研究ということで力を入れて書きましたが、OBの方々のレベルの研究を書けることはできませんでしたが、自分なりに満足のいく研究が書けたと思います。拙い文章でしたがお読みいただきありがとうございました。

11.参考サイト

・国土交通省 公式サイト

https://www.mlit.go.jp/

・日本貨物鉄道株式会社 公式サイト

https://www.jrfreight.co.jp/

・JR貨物の国際物流輸送について

http://www.logistics.or.jp/jils_news/JR%E8%B2%A8%E7%89%A9.pdf

・JR貨物 モーダルシフトについて

https://www.jrfreight.co.jp/modalshift/

・国土交通省 トラック輸送の現状等について

http://www.mlit.go.jp/common/001242557.pdf