中国の私設美術館の影響力が高まっている
黄 文葦
日本音楽家の坂本龍一による中国での初個展「坂本龍一:観音聴時|Ryuichi Sakamoto: seeing sound, hearing time」が、20213月19日に北京の私設美術館・木木芸術社区(M WOODS HUTONG)で開幕した。過去最大規模の坂本展となる本展では、8つの大型サウンドインスタレーションをはじめ、高谷史郎や真鍋大度らと共同制作した作品を展示。坂本の世界観を音、映像、空間を合わせた総合的な体験展示となる。
坂本は中国でもっとも名高い作曲家のひとり。中国人にとって馴染み深いのが、彼がかつて手掛けた映画「ラストエンペラー」の音楽だ。清王朝最後の皇帝・溥儀の数奇な運命を描いた同映画は、世界初めて故宮で撮影されたものとして、1980~90年代、中国人のあいだで大きな話題となった。
そのため、今回の展覧会は中国でのコロナ禍以来、もっとも人気の高い展覧会のひとつとなっている。また、会場では映画「ラストエンペラー」の貴重な写真も展示されている。 このニュースの以外に、気になる点は中国の私設美術館の発展状況。
木木美術館は、2014年にLin HanとLei Wangying夫婦によって設立された、北京市文化局に正式に認可され、北京市民政局に登録された民間の非営利芸術施設だ。美術館は北京の798芸術区の中核エリアに位置し、建物は1950年代に軍事工場として使われていたものだ。
2014年に一般公開された木木美術館では、定期的に常設のコレクションを紹介する展覧会を開催している。また、現代美術に対する独自の視点とスタンスを示す展覧会を毎年開催。また、定期的にアーティストや文化機関と連携し、学術的なレクチャーやフォーラムを開催。 美術館は、新しいコンセプトのもと、「グローバル」をベースにした中国の非営利民間美術機関の構築を目指している。
1991年、芸術家黄胄は中国初の私設美術館である「炎黄美術館」を設立。現在、北京には約40の様々な種類のアートミュージアムがある。そのうち4つは国有で、30以上の私立美術館がある。中国の私立美術館は、規模、技術、設備など、かなり高いレベルに達していると言える。南京の「紅色経典美術館」の現代美術コレクションは、量的にも、全体的な学術的方向性においても、中国の私立美術館の中では有数のものだ。
2020年11月時点で、中国では、920の私立美術館が登録している。これは、中国の私立美術館が急速に成長することを示す。特に上海では私立美術館の増加が著しく、中国の現代美術私立美術館の総数の34%を占める。 上海はその強い経済力と開かれた文化環境により、多くのアーティスト、コレクター、ギャラリー、アート機構、アートフェアなどを誘致し、2000年以降、北京と同様の文化集積現象を形成し、完成度の高い文化環境を構成している。
「貧乏人は車で遊び、金持ちは時計で遊び、本当の大物は美術館で遊ぶ」という新たな諺が生まれた。中国の一部のコレクターやビジネスマンは、私設美術館と私設博物館の動きを推進している。坂本龍一による中国での初個展には私設美術館を選んだのは、私設美術館の影響力を証明した。
中国の私設美術館の特徴を言えば、大きな会場、多くの展覧会の開催、多くのスタッフ、多額の投資、多くの来場者を抱えている。これらはすべて、中国の私設美術館が活発であることを示している。一方で、安定した資金や収益機会の不足、専門的な人材の不足、税制などの政策的支援の不足は、中国の私設美術館が抱える問題でもある。 美術館は純粋にお金のかかるビジネスなので、カフェや書店、派生商品のショップなどの付帯施設があっても、経費に比べれば収入は雀の涙だ。やはり、強力で優れた私設美術館、うまく運営している私設美術館が少ない。多くの私設美術館は、その豪華な外観や巨大な規模にもかかわらず、収蔵品や展示のための資金が圧倒的に少なく、レンタルスペースに頼らなければ生きていけないこともある。
それにしても、私設美術館が中国で発展していること、文化的な生活空間を作るには役に立つ。