地域鉄道の活性化
1.はじめに
文化祭に来場し、また「停車場」を手に取っていただきありがとうございます。高校一年生の**です。毎回言っているような気もしますが、時の流れとは早いですね。文化祭後からは研究班長になるので学業も研究も恥の無いように頑張っていきたいと思います。
今回は地域鉄道の活性化について研究しました。内容が最後までまとまらず書くのが難しかったですが、最後まで読んでいただけると幸いです。
2.地域鉄道とは
(1)地域鉄道の定義
地域鉄道は国土交通省によると『一般に、新幹線、在来幹線、都市鉄道に該当する路線以外の鉄道路線』であり、このうち中小私鉄と第三セクターを合わせたものを地域鉄道事業者と定義されています。2021年4月の時点で全国に95社の地域鉄道事業者が運営しています。都市鉄道は東京駅から半径50km、大阪駅から半径50km、名古屋駅から半径40kmの路線網のことを指しているため、範囲外の私鉄および地方交通線などが地域鉄道に当たります。
(2)地域社会の活性化
地域鉄道の活性化といっても様々な解釈が可能です。鉄道事業の黒字化や利用客の増加のみが地域鉄道の活性化ではないと思います。そもそも、鉄道は乗客がいないと成り立たず、その乗客は地域社会の中で生活を営んでいます。そのため、私は地域鉄道の活性化とは地方社会の活性化と考えています。人口が増加すれば地域社会が活性化し、乗客も増加します。
地域鉄道を活性化させるためには、地域社会、そして地方公共団体との連携が必要不可欠だと考えます。
3.鉄道の存続
(1)鉄道存続の意義
鉄道の経営が厳しくなったときに最終手段となるのが路線の廃止です。JR北海道の札沼線や日高本線などで、廃止を選択せざるを得なかった路線もあります。赤字部門のコストカットを行うのは一般の企業と同様ですが、公共交通機関という公共性の高い事業ということもあり簡単に廃止することはできません。鉄道の存続には大きな意義があります。
①公共交通機関の確保
鉄道が存続することによって中距離の公共交通機関が確保されるという意義があります。鉄道が存続するため当たり前のことだと思われるかもしれません。しかし、鉄道が廃止されると基本的にはバス路線への移行になりますが、バス路線は鉄道路線に比べて廃止にかかる費用が少ないため、採算の取れないバス路線はすぐに廃止される可能性があります。
また、鉄道が廃止されてもバス路線になって残り、公共交通機関が確保されるため、そうでない場合と比較して公共交通機関が無くなる可能性が低いのは明白です。
②知名度の向上
鉄道路線とバス路線を比較したときに鉄道路線のほうが地域の知名度向上に役立っていると思います。鉄道は時刻表や地図上に載り、バス路線と比べて数が少ないために認知度が上がると考えられます。地域の知名度が向上すれば、観光客の増加などで地域が活性化される可能性が高まります。
(2)BRT・バスの可能性
BRTとはBus Rapid Transitの略でバス高速輸送システムのことを指しています。BRTは名古屋ガイドウェイバスや、東日本大震災で被災し、鉄道での復旧が困難となった気仙沼線や大船渡線などで採用されています。
鉄道が災害により廃止される場合、既存の鉄道設備を利用してバス路線として復旧されることがあります。現在でも2017年7月豪雨で被災した日田彦山線がBRTでの復旧を目指しています。バス転換、BRT化のメリットもいくつかあります。具体的には運行費用の削減や柔軟な運行形態などが挙げられます。柔軟な運行形態とオンデマンドタクシー(予約があった場合のみ運行する乗合タクシーのようなもの)などの拡充などで、鉄道で運行していた時よりも低コストで利便性の高い交通形態を構築できる可能性があります。
地域の象徴としての鉄道存続と、経営の改善のためのバスを天秤にかけて、鉄道会社と地方自治体、沿線住民がしっかり話をする必要があると思います。また、路線を廃止する場合、利便性が落ちないように交通形態の見直しは必須です。
4.鉄道を存続させるために
(1)鉄道の存続に必要なこと
ここまで長々と述べてきましたが、最も鉄道経営を苦しめているのは鉄道事業の赤字です。新型コロナウイルス感染症の蔓延によるテレワークの普及により都市部の鉄道を中心に大打撃を受けていますが、地域鉄道も例外ではありません。それに加えて、人口減少・少子高齢化の影響を受けているのは地方が中心になります。この時代の中で鉄道事業者はどのような選択をすればよいのでしょうか。
(2)利用客の増加による収益増化
①観光客の増加
新型コロナウイルスの蔓延以前であれば効果的な手段の一つであった観光客の利用客増加ですが、新型コロナウイルスの影響で訪日外国人が減少し、日本国内の移動も少なくなったため難しい手段となってしまいました。感染症の蔓延が終息し、落ち着いて観光できるようになった場合に備えて観光客誘致をできるようにしておくべきだと思います。具体的には車内や駅における放送の外国語対応や、訪日外国人をターゲットとしたイベントの実施、海外向けの情報発信などです。情報化が進んだ現代ではSNSや口コミサイトなどの情報も大切になるため、積極的な情報発信とまた来たくなる、SNSで広めたくなるような地域のイベントや事業、サービスをしていく必要があると思います。
②地域住民の利用増加
地方鉄道を最も利用しているのは地域住民です。当然地域住民の利用を増加させることができれば、定期利用の増加につながるため、安定した収入源になります。しかし、人口減少や少子高齢化により、主な利用客である学生の数が減少しています。地域住民の数は限られているため、乗客数の増加にも上限があります。そのため、人口減少および少子高齢化を食い止めることが地域住民の利用増加につながると考えられます。しかし、地方の沿線人口は鉄道だけではどうすることもできません。地方自治体の政策が重要になります。
地方の人口を増加させる方法として、移住者の増加があります。徳島県神山町では、働きやすいビジネスの場を提供することに力を入れており、その中でサテライトオフィスが開設され、2011年に人口が増加しました。
北海道厚真町では、子育て支援住宅を販売したり、「厚真町お試しサテライトオフィス専用施設」を設置したりするなどして、転入者を増加させました。あくまでも具体例に過ぎないですが、このように地方公共団体の政策によっては移住者によって人口を増加させることができます。
(3)鉄道事業の赤字削減
経営の立て直しの際に最も必要なことは赤字の削減です。利用客の増加による赤字削減は前項と同じであるため省略し、経費の削減について書いていきます。
①新車導入費用とランニングコスト
運行にかかる費用は車両が老朽化するにつれて高くなります。ランニングコストを削減するには新型車両の導入が効果的ですが、資金が限られている地方鉄道では新車の導入が難しい会社も多くあります。新車を導入している会社には静岡鉄道やしなの鉄道、遠州鉄道などがあります。しなの鉄道では、SR1系を導入することによって電力使用量が従来の115系と比較して50%ほど削減される見込みです。
静岡鉄道の新型車両のA3000形
新造された新車を導入する費用を賄えない会社については、他路線で置き換えられた中古車両を使用することが多くなります。車両導入費用は安く抑えられるものの、ランニングコストや整備費用などが高くなるため、どのように旧型車両を置き換えるかも重要になります。
自社で新車を導入する場合、導入時期を工夫することで費用を抑えることができます。現在、JR北海道でH100系が大量導入されており、同じ時期に同様の車両を導入すれば、製造コストが安くなります。また、新潟トランシスの地方鉄道向け気動車シリーズは設計が共通化されている部分も多く、一から車両を設計するよりも安く車両を導入することができます。
中古車両を導入する場合、最も問題となる点は欲しい車両が見つからない可能性があるということです。地方で使用されることが多い18m級の車両は都市圏であまり使用されていないことがあり、中古車両の導入も簡単ではありません。過去の例としては一畑電車の1000形です。ステンレス車体で、VVVF制御、18m級車体の車両が中古車両の市場に出回ることは多くなく、東急1000系の廃車を待っての導入となりました。また、1両単独で運転できる車両は市場になかったため、JR四国7000系をベースとした7000系を導入しました。
これに対する対応策としては、地方鉄道において電車を中心に20m級車両の運行に対応することや、経営改善によって自社車両を製造することが挙げられます。
それぞれの会社によって新車導入に使える費用が異なるため一概に言うことはできませんが、両方を組み合わせることも含めて、柔軟に対応する必要があると考えられます。
②経営の統合
広島電鉄は2021年度にも、広島市と周辺の路線バスの運行で競合他社と共同経営に乗り出す。独占禁止法の適用除外とする特例法が5月に成立、便数・ダイヤの調整が可能になるのに対応する。広島市内は路面電車とバスが頻繁に行き交い、乗客を奪い合う状況だ。人口減の中で「乗りやすくわかりやすいダイヤと運賃」を築き、郊外を含めた路線の維持を狙う。
日本経済新聞 2020年6月24日
2020年6月、広島電鉄と周辺バス路線が協調して、ダイヤの調整などを行うと発表しました。近年、地方の公共交通機関における独占禁止法の基準が特例により緩められる傾向にあり、熊本でもバス会社5社が共同経営により利便性向上を目指すと発表されました。私個人の考えでは、このような風潮が全国で広まっていくべきだと考えています。私は旅行の計画を立てる際に地方のバス路線を使うことがよくありますが、本数の少ない鉄道とバスの接続がとられておらず、苦労することが多くあります。
旅行で1度きりの利用なら多少は問題ないものの、通勤通学で毎日の利用となると利用客が敬遠してしまい、自家用車などの利用が増えてしまうと考えられます。バスと鉄道に限らず、さまざまな公共交通機関で連携が取られるべきだと考えます。
経営の統合のメリットはそれだけではありません。経営の大規模化によって、経費の削減が期待できます。地方自治体、バス、鉄道が一体となって地域社会を支えていくことが大切だと考えます。
(4)鉄道事業以外での収入で補う
今後鉄道事業が苦しくなることが予想できる現代において、鉄道事業以外での収入は重要になります。鉄道グループ会社の連結売上高に占める鉄道事業の割合は、東京メトロやJR東海は約80%、他の大手私鉄では20%前後になるのですが、遠州鉄道と静岡鉄道は1%を切っています。
この2社は自動車販売事業の収益が大きく、自動車産業が発展している東海地方の社会に根差した事業形態となっています。ここまで極端である必要性はないのですが、地域に根差した事業で収入を増加させる必要があると思います。
また、JR九州のように不動産事業を行うなど鉄道事業以外の収入は鉄道事業存続に大切な要素となります。
5.総括
地方鉄道や地方社会は厳しい環境下にあります。ここまでさまざまな対応策がありましたが、すべての会社に共通して言えることは、今のままではだめということです。経営改善のために様々な行動を起こしていかなければなりません。その具体策として今回の研究で述べてきたことが有効だと私は考えます。
6.終わりに
最後まで読んでいただきありがとうございます。執筆時点では文化祭がどのように行われているのかは分かりませんが、少しでも多くの人に鉄道研究部の展示を見ていただきたいなと思います。
地方鉄道を取り巻く環境は年々悪化しつつあります。人口減少、少子高齢化、新型感染症などさまざまな困難があっても、それぞれの地域の特色を生かして、地域社会を活性化していってもらいたいなと思います。
7.参考資料
・国土交通省
https://www.mlit.go.jp/index.html
・JR北海道
https://www.jrhokkaido.co.jp/
・遠鉄グループ
https://www.entetsu.co.jp/
・しなの鉄道
https://www.shinanorailway.co.jp/
・ダイヤモンドオンライン
https://diamond.jp/
・テレワークナビ
https://www.nice2meet.us/
・日本経済新聞
https://www.nikkei.com/
・東洋経済オンライン
https://toyokeizai.net/
おことわり:Web公開のため一部表現を変更させていただきました。掲載されている情報は研究公開当時のものです。現在とは若干異なる場合があります。