SHINE研修『春分の塩炊き2017』(1)導入
一年に一度、春分の日は日常の業務を横に置いて塩を炊こう
ということで始まり今年で4回目となった春分の塩炊き。
例年の如く冨貴工房そして(実は)三宅商店のアドバイザーでもある冨田貴史氏をお招きして19,20日の2日間、塩炊きSHINE(社員)研修を敢行。
夜通し海水を火にかけ続ける濃密な2日間。最高の天気の下、無事に塩炊きを終えることができました。
そもそもなぜ春分なのか?
春分は昼の時間と夜の時間が同じになる日。この日を境に昼の長い日が続いていく。イランの暦は春分を元日としていたり、ヨーロッパでは春の開始と定めているところも。日本では「春分の日」という国民の休日になってますね。
春分(と秋分)の前後7日はお彼岸。「暑さ寒さも彼岸まで」という通りストーブの使用も減ってきました。スカッと晴れることも多く、また庭先でお昼ご飯を食べ始めています。
さらに春分の3月20日は七十二候の『雀始巣 (すずめはじめてすくう)』です。暖かくなり繁殖期に入った雀たちがチュンチュンさえずりながら、せっせと巣を作り始めます。三宅商店岡山事務所も冬の間なかなか進んでいなかった片付けや改装にもいよいよ力が入り始めています。欧米ではスプリングクリーニングと言って冬の期間に使った暖房のススを春に大掃除する習慣がありますが、我々もやらないといけません。ススだらけですから。
暦の上ではとっくに春でしたが、体感としてはそうはいきませんよね。暖かくなり寒くなりを繰り返して、やっと春らしくなってくるのが春分の頃。外仕事のモチベーションも上がる時期ですし、年度の境目でもあるので気持ちの切り替えにはもってこい。そして今、桜の季節ですね。
なんで塩炊き
生命が塩辛い海から生まれたように、我々の体には塩が必要です。
体内の水分量を調整したり、消化や吸収の助けとなったり、神経の伝達に関わるなど、必要不可欠な塩。食材の味を引き出して日々の食事を豊かにしてくれる存在としても私たちの生活からは切っても切り離せません。
衣食住の「食」におけるイロハの「イ」たる塩を自給するなんてクールじゃありません?
世界の塩の消費量を見てみると実は海塩のそれは岩塩の1/4。海に囲まれた島国であり岩塩の産出しない日本に暮らす我々にとっては意外な数値かもしれません。
いわゆる自給自足というと野菜を作ったり味噌を作ったりというイメージが真っ先にわきますが、塩を作るという発想にはなかなかならない。野菜に関しては自らの土地が問題なければ安心安全な野菜を作ることはできるでしょう。しかし塩に関してはそうはいきません。
海岸線には海水浴客が捨てたゴミや漁業廃棄物が並び、排水を集めて汚れた水が母なる海に流れ込む。それこそ環境汚染物質が集められる場所と言っても過言ではないのが海です。地上の7割を占める海だからこそ人類はその懐に甘えてしまったのかもしれません。
塩を作るということは海を守ることでもあります。
毎日口にする塩だから安心安全がいい。安心安全な塩を確保するには、綺麗な海が不可欠です。綺麗な海から作られた塩は本当に美味しい。だったら綺麗な海を守りたいですよね。
例えばイギリスはロンドンのテムズ川は大都市の汚染された典型的な川でしたが、様々な取り組みの結果、サケが遡上するまで綺麗になっています。それなら例えば東京の神田川でも出来るのではと思わせるし、海だってもっと綺麗にできる。
塩を作りその塩を使うという行為はマクロな環境問題を見つめるとてもよい機会とも言えます。
SHINE SHINE SHINE
そんな素晴らしい機会を、いつもの仲間たちと、いつもとは違う(より)リラックスした環境で共有できる。今いる場所に安住せずに常に改善を求めて磨きをかけていく。社員研修。もとい、SHINE研修。
結論から言うと4〜5kgの塩ができたのですが、三宅商店で販売している塩でも1kg2160円、5kgで約1万円ですからよっぽど買ったほうが安いです。塩は海から運んでこなくちゃならないし、人件費を計算したら大変。薪に関しては廃材と間伐材のみなのが救いですが。
しかし塩を炊くことによって得られる気づきはプライスレスです。
何しろ最も重要な調味料といっても過言ではない塩、全てのご家庭にあるであろう塩を作るのがこんなに大変だなんて、作ってみないとわからないし、大体の人は知らないのではないでしょうか。ご飯粒一粒残さず食べなさいとはよく言いますが、味噌汁の一滴まで無駄にできません。コメに限らず、塩に限らず、食べ物は地球の恵み。改めて痛感しました。
なんてったって約24時間海水を火にかけ続けるわけです。当然一人ではできません。皆で力を合わせてそれぞれの得意分野を発揮すると、なんて効率がいいんだろうと思うし、互いの理解も深まります。みんなでやるとより良い結果が得られる(少なくともそういう分野がある)わけですがらコミュニティーは嫌でも結束しますし、良い結果は誰もが求めるところなので、そこに尊重が生まれる。
塩に関しては海の近くで専任のプロフェッショナルが一定以上の規模でやるのが当然効率が良い。餅は餅屋、塩は塩屋といったところ。これは自分たちで作ってみてよくわかりました。しかしその専任のプロの規模が大きくなりがちな現代では、自ら実践してありがたみが身にしみるものでもあります。
今や塩に限らずあらゆる製品の製造は私たちの目の届かないところで行われ、私たちは「生活」からどんどん引き離されています。だからこそその問題点が浮き彫りになった原発事故以降は、その「生活」を取り戻すべく、ものつくりを始める人が増えている。
この記事を書いているのも当然パソコンだし、三宅商店が商売をするのもパソコンがあってこそ。いくら山村の古民家に事務所を構えてもやっていることは都会と一緒。だからこそ今回のような作業は、私たちの「生活」をチューニングするのに良い機会でした。
と、小難しいことを語ればきりがないのですが、自分たちで作った塩は格別美味しい!自分たちで作ったという主観を取っ払っても美味しい!本物の塩は塩化ナトリウムの塊ではなく、ミネラルを豊富に含んだ旨味調味料なんだと実感します。
このままでは紙面がいくらあっても足りない!語りたいことはたくさんあるのですが、今回はこの辺りにしまして、次回は塩作りの過程を、実践の様子をご紹介したいと思います。それでは!
※塩については過去の冨田氏による記事もご参考ください