何十年も前の8月22日
2021.10.05 03:50
独り言
まだ幼いその女の子は
私の前に立っていた
私はその子の両手を
自分の両手で包み込む
髪の長い子
綺麗な黒髪の女の子
目線を下に落としてる
両手に包まれたその子の両手は
私の
言う事を聞いている
’絶対に絶対に忘れない様にしようね
私達二人が
こうやって短い間
一緒に居られた事
絶対絶対
忘れない様にしようね’
その子にそう言うと
両手に力を込めた
これで
最後だ
これが見納めだ
胸の中に木霊する言葉
’うん
絶対に絶対に忘れない様にしようね’
この小さな手のひらのぬくもりを
私は絶対に
忘れない
他のものとは間違えやしない
胸ではなく
瞳と瞳の間に押し込んだ
スッと
その子は私から離れた
小さくなる
姿は
最後右手をあげて
私に手を振った
あの子は誰なんだろう
あの子は私の何なんだろう
懐かしい子
なのに
知らない子
なのに
いつも心の隅に居る
子
生きている私に
馴染んでいる子
周りに居る
生きている人より
現実的で
最も鮮明に
私の中で
生きている子
たった一度きりの夢なのにね
消えやしない
たった一度きりの出逢いなのにね
消えやしない
何十年経っても
今ここで起きた事の様に
ぼやけることなく
滲み出ることなく
残っているもの
魂の世界の記憶って
そういうもの
容易く消えるものじゃないから
何が何でも
留まろうとする記憶だから
だから
この世界が
生き難くなる
どっちの
感覚が正しいのだろう
これは
何なんだろう
気づいていなくても
無意識の下
無いものと
在るものとの
差異に苦しめられる
いつか
出逢えるといいな
持つ心が
思わず
今を忘れさせられて
無い記憶に包み込まれてしまう様な
そんな友達