優先席について
1.はじめに
みなさんこんにちは。中学 3 年の**です。気が付けば中学最高学年になってしまいました。入学した時には無限のように思えた中高 6 年間も、過ぎてしまった後から振り返ればあっという間なのだなと思わされます。新型コロナウイルスの感染拡大による制限もありますが、残りの生活ものびのび楽しく過ごしたいと思います。さて、今回のテーマは「優先席について」です。このテーマにしようと思ったのは、入部して初めて書いた横浜市営地下鉄ブルーラインについての研究で、「全席優先席」制度についての様々な記事を読んだのがきっかけです。拙い文章ですが、ぜひ最後までお読みください。
2.優先席について
ここでまず、「優先席」の定義を確認しておきましょう。辞書を引くと、「電車・バスなどで、高齢者や体の不自由な人、妊婦などが優先的に座れるよう指定された座席。」とあります。また、一般的にはこれらの人に加えて内部障碍のある人や乳幼児連れも対象とされています。
日本で初めて導入されたのは1973年で、当時の国鉄が「シルバーシート」という名称を使用して東京・大阪の国電区間で、また伊豆箱根鉄道が大雄山線・駿豆線で導入したのが始まりです。その後大手私鉄など他の鉄道事業者でも順次導入されました。
呼称は「シルバーシート」「優先席」などまちまちでしたが、1993年の京王電鉄を皮切りに、「シルバーシート」と呼称していた鉄道事業者も「高齢者専用だと思われないようにする」という理由から「優先席」に名称を変更しました。
また1999年には阪急電鉄とグループ会社の能勢電鉄・神戸電鉄が「優先座席」を廃止して「全席優先座席」とし、2003年には横浜市交通局もこれに続き「全席優先席」としましたが、後述の問題を受け2007年には阪急電鉄・能勢電鉄・神戸電鉄が再度「優先座席」を、2012年には横浜市交通局が最優先席にあたる「ゆずりあいシート」を設定しました。
優先席付近では、携帯電話の電波が心臓ペースメーカーを誤作動させるのを防ぐために、2000年の京王電鉄をきっかけに優先席付近では携帯電話の電源は切るというルールとなっていましたが、技術の進歩により、2015年の近畿地方の25社局をきっかけにこのルールは混雑時限定となりました。
なお、本研究では優先席での携帯電話の使用ルールに関連して、「携帯電話電源オフ車両」についても記述します。
▲優先席を示すステッカー
▲優先席を初めて導入した伊豆箱根鉄道
▲優先席付近での携帯電話の使用ルールを初めて導入した京王電鉄
3.課題
(1)席の譲り合いが活発でない
本当に座席を必要とする人が着席できるようにするための優先席ですが、実際には席の譲り合いが行われないことも多くあります。
当時「全席優先席」制度(詳細は後述)を導入していた横浜市交通局が2007年に実施した調査では、「市営地下鉄で席を譲っているのを見たことがありますか。譲られたことがありますか」という質問に対して、下の表のように約4人に3人が消極的な反応を示しました。
(2)全席優先席
「全席優先席」制度を日本で初めて導入したのは、阪急電鉄とそのグループ会社の能勢電鉄・神戸電鉄で、1999年に「全席優先座席」という名称で開始されました。また、横浜市交通局でも2003年に開始されました。しかし、2007年に横浜市交通局が実施した調査では、この制度に対して厳しい意見が寄せられました。
「全席優先席の継続に賛成か・反対か」という質問では、下の表のように反対派が過半数を占める結果となりました。
反対派の意見は下の表のように制度の実効性のなさを指摘するものでした。
一方、2011年に行われた調査では、選択肢の表現が変わったこともあって全席優先席の継続を求める意見が過半数を占めました。
これらの結果から、全席優先席をただ実施することに賛成する意見は少なく、実効性のなさを指摘して、手法の検討を求めたり他社のように一部の席のみを優先席とすることを求めたりする声も多くあることがわかります。また、席の譲り合いが行われていないのは制度の趣旨に大きく反した大問題であり、対策は急務です。
▲「全席優先席」制度を導入している横浜市営地下鉄
▲席の譲り合いを促すステッカー
▲「ゆずりあいシート」を示すステッカー
(3)携帯電話の使用ルール
先述の通り、現在は技術の進歩及びそれに伴う総務省の通知により「優先席付近では混雑時のみ携帯電話の電源を切る」というルールになっていますが、携帯電話の電波がペースメーカーに全く影響を与えないわけではなく、現在でも15cm以上離すよう定められています。ですが、電車内では多くの乗客は携帯電話を使用しており、人と人との距離が近くなり携帯電話とペースメーカーとの距離が近くなる混雑時においても同じです。現在は「混雑時は優先席付近では携帯電話の電源を切る」というルールになっていますが、優先席にたどり着くまでにはドア付近などの優先席以外の場所も通らなければならず、また車内に人が多すぎて優先席までたどり着けない可能性もあります。また優先席は一つ一つがそれほど広くなく、車内が混雑していると他の利用者でいっぱいである可能性もあるので、これでは不十分です。ですが、あまり多くの場所で携帯電話の電源を切るよう定めてしまうと利用客の強い反発は必至です。
▲混雑時には携帯電話の電源を切るよう促すステッカー
4.解決策
(1)席の譲り合いが活発でない
①「専用席」の導入
まず、「専用席」を導入するべきだと思います。「優先席」として健常者も座れるようにしていることによって、たとえ全席を「優先席」にしても先述の横浜市の調査のようにあまり席の譲り合いがされないのだと思います。ですから、一定の数の席は「専用席」として健常者は座らず開けておくことで、本当に席を必要とする人がいつでも座れるようにするべきだと思います。
これを実際に導入している鉄道事業者があります。それは札幌市交通局です。
札幌市交通局でも当初は「優先席」を導入していましたが、「優先席」を使用していた時に若い健常者が座席を占領することが多く、本来の利用対象である人たちが座れないとの声が多く寄せられ、市議会で審議されるなどして「専用席」に変更されました。「専用席」に変更されてからは、混雑時でも周囲に「専用席」の対象者がいなければ空いていることが多いです。
ですが、あまりたくさんの席にこれを導入すると、健常者が着席できる席が少なくなる上、それによって車内の混雑が激しくなり、利用者の強い反発が予想されます。
そこで、現在「優先席」が設置されている位置、つまり車両の端に導入するべきだと思います。あまり設置しすぎてしまうと健常者が座れる席が少なくなってしまいますが、この程度であればあまり問題ないですし、本当に席を必要とする人たちも気軽に座ることができます。
現在、優先席は座席や吊革の色を変えたうえでステッカーや車内放送などでも利用者に案内がなされており、その「優先席」という名称を「専用席」とするだけなので実現可能です。
②コミュニケーションツール
また、「席を譲ってほしい」という気持ちと「席を譲りたい」という気持ちをつなぐツールを導入するべきです。席を譲ってほしい側も自分から「席を譲ってください」と声をかけるのは難しいですし、譲る側も「どうぞ」と声をかけるのは勇気がいることで、時には「私はそんなに年寄りじゃない」などと怒られてしまうこともあります。ですから、こうしたツールを利用することで、トラブルを防ぎ気持ち良く席の譲り合いを行うことができます。
例えば、南海電気鉄道の公式アプリ「南海アプリ」では、席を必要とする利用者と座席を譲っても良い利用者との意思疎通を手助けする「席ゆずりあいアシスト」機能を提供しています。この機能は、下の表のような手順で利用します。
両者は「ゆずりあい画面」を目印にお互いを探し、最後にお互いにコミュニケーションを取ることによって成立します。
もともと新型コロナウイルスの感染拡大を受けて会話を控えつつ席の譲り合いが行えるようにと提供された機能ですが、感染が収束しても座りたい利用者と譲る利用者を確実につなぐことができる非常に便利な機能だと思います。
また、「席ゆずりますマーク」という、ある男性が考案したマークが普及し始めています。これは妊婦に席を譲る意思を示すマークで、「マタニティマーク」と「席譲ります 声かけてください」という文章が書かれています。厚生労働省からの利用許可も取得しており、公式ホームページで販売されています。
妊婦だけでなく、優先席の対象者など他の席を必要とする人にも「席を譲ります」という意思表示ができるようにすると効果的だと思います。席を譲ってほしい利用者は「ヘルプマーク」や「マタニティマーク」を利用してその意思を伝えることができますが、席を譲っても良い利用者がその意思を伝えるツールは今まで無かったので、非常に画期的なものだと思います。
そして、こうしたツールは各鉄道事業者でも積極的に導入するべきだと思います。最近はJRや大手私鉄など公式アプリを配信している鉄道事業者が増えているので、こうした事業者では「席ゆずりあいアシスト」のような機能を提供すべきだと思いますし、「席ゆずりあいマーク」も「マタニティマーク」のように各事業者の駅で無料配布すると普及すると思います。
(2)全席優先席
先述の横浜市の調査から分かるように、この制度を導入してもあまり席の譲り合いは活発にならず、効果は限定的です。なので、制度自体は否定しませんがこの制度を導入している場合でも「専用席」を導入して本当に席を必要とする人がいつでも座れるようにするべきでしょう。
(3)携帯電話の使用ルール
ラッシュ時間帯などの混雑時のみ1両だけ「携帯電話オフ車両」を設置するべきです。
車両全体で携帯電話の電源を切るよう定めることによって、先述のような危険をなくしペースメーカー使用者も安心して乗車することができます。
これは実際に2000年の東京急行電鉄(現在の東急電鉄)をはじめ一部の鉄道事業者で導入されていました。
「ペースメーカー利用者のためだけにここまでしなくても良いのではないか」と思う方もいらっしゃるかもしれませんが、日本におけるペースメーカーの利用者数は約40万人に上り、決して少なくはありません。
反発も当然予想されますが、女性を痴漢被害から守るために女性専用車があり、冷房が苦手な人のために弱冷房車があるのですから、これも許容されるのではないかと思います。ただし、この車両内では携帯電話が使用できないことにより利用客の利便性が低下するので1両だけの設置とし、また人と人との距離が取りやすい、混雑時以外の時間帯は設置しないようにします。こうすることで利用者の不満も最小限に抑えることができます。
▲「携帯電話オフ車両」を初めて導入した東急電鉄
5.まとめ
①現在の「優先席」が設置されている位置に「専用席」を設置して本当に席が必要な人がすぐに座れるようにする。
②「席を譲ってほしい」という気持ちと「席を譲っても良い」という気持ちをつなぐツールを積極的に導入する。
③全席優先席だけでは効果が限定的なのでこれに加えて「専用席」を導入する。
④ペースメーカー利用者の、携帯電話の電波による危険低減のために「携帯電話オフ車両」を設置する。利用者の不満を最小限に抑えるために混雑時に1両だけ設置する。
6.終わりに
さて、いかがだったでしょうか。あまり現実的な解決策を示すことができなかった気がします。段々研究を書くことができる回数は減っていきますが、少しずつ上達していければと思っています。
今回は「優先席について」研究しました。世界中で賛否両論ありますが、一番大事なのは優先席に限らず辛そうな人がいたら席を譲るという思いやりだと思うので、そういったことを心がけながら電車に乗るようにします。
最後になりましたが、ここまでお読みくださった皆さん、
本当にありがとうございました!
7.参考資料
・明鏡国語辞典 第五版 大修館書店発行
・国土交通省
http://www.mlit.go.jp
・横浜市交通局
http://www.city.yokohama.lg.jp/kotsu
・東京都福祉保健局
http://www.fukushihoken.metro.tokyo.lg.jp
・札幌市交通局
http://www.city.sapporo.jp/st
・シーサイドライン
http://www.seasideline.co.jp
・伊豆箱根鉄道
http://www.izuhakone.co.jp
・阪急電鉄
http://www.hankyu.co.jp
・能勢電鉄
http://noseden.hankyu.co.jp
・神戸電鉄
http://www.shintetsu.co.jp
・京王電鉄
http://www.keio.co.jp
・小田急電鉄
http://www.odakyu.co.jp
・東急電鉄
http://www.tokyu.co.jp
・南海電鉄
http://www.nankai.co.jp
・J-CAST ニュース
http://www.j-cast.com
・はまれぽ.com
http://www.hamarepo.com
おことわり:Web公開のため一部表現を変更させていただきました。掲載されている情報は研究公開当時のものです。現在とは若干異なる場合があります。