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あいをひとつ。

不適合者通信【♂1:♀1】

2021.10.05 15:57

作:傘バケツ


【登場人物】

米倉あめ:うつ病、パニック障害。趣味は仕事にしないタイプ。趣味で油絵を描く。


宇治川ちよこ:躁うつ病。元々抑うつ傾向があった。歌手志望。趣味で脚本を書く。




夕方。雨が降っている。ファミレス、窓際のボックス席。

先に待つあめの元にちよこがやってくる。

 

ちよこ:頭痛い。

あめ:集合早々それかよ。

ちよこ:ごめんごめん。

 

あめと反対の席に腰を下ろすちよこ

 

あめ:低気圧?

ちよこ:そうそう…この時期ほんとだめ。

あめ:大丈夫?帰る?

ちよこ:平気。薬飲んだし。喋ってたら治る気がする。それに、雨の中帰りたくない。

あめ:そか。斯くいう俺も、実はめちゃくちゃ眠い。

ちよこ:また寝れてないの?

あめ:そうそう。9時に寝た。

ちよこ:夜の?

あめ:朝の。

ちよこ:それ、つまり今日じゃん

あめ:大当たり~(あくびしつつ)

ちよこ:平気?帰る?

あめ:大丈夫。ちょっとは寝たし。喋ってたら目冴える。それに、雨の中帰りたくない。

ちよこ:寝れる時に寝たほうが良いと思うけどね。

あめ:まあ、今日くらいは。

ちよこ:そだね。雨は我々の敵ですからね。

あめ:えっ俺?

ちよこ:や、や、違う。天気の方。

あめ:ああ。紛らわしい言い方すんなよ。

ちよこ:ごめんごめん。米倉あめさん。

あめ:頼みますよ。宇治川ちよこさん。

ちよこ:はーい。ね、なんか頼んで良い?お腹空いた。

あめ:勿論。ほいメニュー。(メニューを渡す)

ちよこ:さんきゅ。んー……きめた。

あめ:呼ぶ?

ちよこ:ん。

 

店員が来る。

 

あめ:すみません、ミートドリア一つ。

ちよこ:あ、私もそれで、あと温玉トッピングでお願いします。

あめ:ドリンクバーは?

ちよこ:いい。

あめ:じゃ、以上で。はい。お願いします~。

 

店員去る。

 

ちよこ:いつもだよね。ミートドリア。

あめ:これが一番安くて旨いからな。

ちよこ:わかる。今日はまねっこした。

あめ:でも温玉付けてんじゃん。

ちよこ:そゆとこが欲張りなんですなあちよこさんは。

あめ:なんだそれ。前に会った時、節約するって言ってなかったっけ?

ちよこ:言ったけど。良いじゃん。頭痛い時くらい自分のこと甘やかしたってさ。

あめ:ほんと大変だな。梅雨、早く明けるといいな。

ちよこ:…んー。

 

軽く間。

 

ちよこ:雨降るとさあー。

あめ:ん?

ちよこ:頭痛いし、じめじめするし、起きた瞬間からテンションマイナススタートで色々終わってるけどー…。でもさ、そこまで嫌いじゃない。

あめ:え、なんで?

ちよこ:ん(あめを指差す)。

あめ:ん…?あ~~~?俺の名前だから?

ちよこ:うん。私あんたのこと結構気に入ってるから。

あめ:なんで上から目線なんだよ。

ちよこ:いやだって中々いないじゃん。こんな友達。

あめ:まあ、なあ。

ちよこ:同じ名前だからさ、天気の方の雨のこともちょっとは気に入ってる。

あめ:はー照れくさ。

ちよこ:それに、あめに会うときは大体雨が降ってる。

あめ:ああ?逆だろ。寧ろ雨の日選んで会ってんじゃん。

ちよこ:あ、気付いてた?

あめ:そりゃな。晴れた休日は自分とデートするんだろお前。

ちよこ:そだよお。晴れてる日大体元気だからね。代官山のでっけー本屋行って、コーヒー飲みながら本読んで、飽きたらウィンドウショッピングして、目黒川下って、五反田でカラオケ行って帰る。

あめ:それどのくらいの頻度でやってんの。

ちよこ:週1?

あめ:行動力すげえな。

ちよこ:まあ、私はさ。性質上、ね。

 

料理が運ばれてくる。

 

あめ:あ、そっち俺です。ありがとうございます。

ちよこ:はい。ありがとうございます~。はーい。

 

店員去る。

 

あめ:ほんじゃ、いただきます。

ちよこ:いただきまーす。

 

暫く食べる。間。

 

あめ:…ちよこってさ、学校とか仕事とか辞めた時にさ、周りから「なんであいつが?」って言われるタイプだよなあ。周りから見たら元気なのにさ、内面でいっぱいいっぱいになってるタイプ。

ちよこ:それなすぎるけど何急に。

あめ:いや、さっきの話。今もだけどさ、パッと見、患ってるように見えねーもん。

ちよこ:パリピなんで?

あめ:それは言い過ぎだわ。

ちよこ:ごめん。盛った。

あめ:ん。高校の時もさ、俺別のとこだったけど、辞めたって聞いたときまじかって思ったしな。

ちよこ:そだねえ。

あめ:んで今回な。

ちよこ:ほんとにお世話になりました。

あめ:いや、なんもしてないけど俺は。

ちよこ:いやいや、ほんとに死にそうだったから。あー、もう三週間くらい経つのか。あめがずっと話聞いてくれて助かったよ。

あめ:まあ。なあ、結局俺詳しいこと聞いてないけど、なんだったの。

ちよこ:あー、や、情けないことないんだけどさ。

あめ:うん。

ちよこ:ボーカルスクール、通ってたじゃん。私。

あめ:おう。

ちよこ:うん。最初のね、模擬オーディションでさ、歌う前に幾つか質問されるんだけど。ステージ上がったら一言も喋れなくなっちゃって。

あめ:まじか。

ちよこ:まじ。

あめ:理由とかは?

ちよこ:……ステージ、怖かった。

あめ:…。

ちよこ:ね?馬鹿みたいでしょ。歌手になりたいってずうっと思ってたくせに、大勢の人の前で歌うって思ったら怖くってさ。模擬なのに。想像だけで頭真っ白になっちゃった。

あめ:…まあ、ぶっちゃけ慣れだと思うけど。

ちよこ:ほんとね。でも、その日から頭ぐちゃぐちゃになって、毎朝涙止まらなくて、結局スクール辞めちゃった。

あめ:あ、結局辞めたのか。

ちよこ:うん…馬鹿だって思うけどね。たった一度失敗しただけで辞めるとか。根性なさすぎじゃんって自分で思う。

あめ:…勿体ないとは思うけどさ、まあ、お前が決めたことだし。

ちよこ:情けないとか思わない?

あめ:思わないよ。だって病むタイミングなんか人それぞれじゃん。人間無理な時は無理なんだよ。

ちよこ:そっか…。

あめ:おう。

ちよこ:…私さ、昔から歌手になることだけしか考えてこなかったから、夢叶える為ならなんでもできるって思ってたんだよ。だけどそうじゃなかった。

あめ:うん。

ちよこ:自分を保ってたもの?価値観?がぐわーって揺らいじゃってさ。諦めなきゃいけないんだって思って。そしたら私、生きてる意味ないじゃんって。なのに歌うのは好きでさ、ずっと執着してるし。死にそうだけど死にたくなくて、でも生きてんのも苦しくて。

一人じゃ無理だったから頼っちゃってごめんね。

あめ:頼ってもらえてこっちは嬉しいけどな。

ちよこ:んんーありがたい…。

あめ:それに精神的なことは難しいから。根性論で押し切るような奴に相談して傷増やすことになったら余計しんどいしな。

ちよこ:経験則?

あめ:うん。

ちよこ:流石先輩。

あめ:勝手に先輩にすんな。

ちよこ:だって私より先に病んでんじゃん。しかも私より重病。

あめ:そうかあ?

ちよこ:私体の方はぶっちゃけなんともないもん。時々涙止まんなくなるくらい。

あめ:ま、症状も人それぞれだからな。…いや、俺の話は良いんだわ。最近は?

ちよこ:とりあえず、バイトは1カ月休み貰った。

あめ:そっか。良かったじゃん。

ちよこ:うん。

あめ:家で休んでる間さ、何してんの?

ちよこ:…歌は毎日歌ってる。やっぱ好きだからさ。あと、脚本書いてる。

あめ:ああ、まだ続けてんの。元演劇部。

ちよこ:つってもやったことないけどね、演劇。ずっと裏方だったし。

あめ:それ書いた脚本どこに発表すんの?

ちよこ:ネット。

あめ:ネット?

ちよこ:うん。専用のサイトとかあってさ、ネットでお芝居する人とか、あとは高校演劇とかやってる人に使ってもらえたりする。

あめ:へー。そんな世界があるとは。

ちよこ:ねー。時々連絡来るよ、脚本使っても良いですか~って。

あめ:まじか。すげえじゃん。

ちよこ:へへ。…ま、でも、罪悪感めっちゃあるけどね。バイト休んでるのに好きなことだけして。

あめ:いやいや俺はどうなる。働かずに親のすね齧って油彩ばっか描いてますけど。

ちよこ:だってあめは、マジで物理的に働けないじゃん。動悸とか眩暈とか吐き気とか、電車乗れないとか、私そこまでないし。病気とニートは違うよ。

あめ:安心しろお前も病気だ。診断下りたんだろ?薬も飲んでるし。

ちよこ:…でもさ。

あめ:なあ、ちよこ。人間さ、ほんとにやばい時って好きなことも出来なくなるんだよ。虚無。何見てもしんどくて、丸一日ベッドの上から動けなくなる。俺実際、そうだったじゃん。

ちよこ:……そだね。

あめ:だから好きなことだけでも出来るってのはさ、すげえ良いことなんだよ。それを申し訳なく思う必要なんて少しもない。

ちよこ:……。

あめ:人間、好きなこと出来なくなったら終わりだよ。

ちよこ:……でもさ、バイト休んだら皆に迷惑かけるしさ。

あめ:辛い時に他人の迷惑とか考えるな。辛い時は休んでもらった方がバイト先の人も喜ぶと思うぞ。

ちよこ:そんなことないよ。只でさえ人員少ないのに、私が休んだらきっと大変だよ。

あめ:じゃあ働けんの。今。

ちよこ:……。

あめ:そもそもお前は抑うつ傾向が元からあった。

ちよこ:…えー?

あめ:雨の日に気分が落ち込みやすいってのは鬱病の特性のひとつだぞ。

ちよこ:うっ。まあ。何度も病院行けって言われたしね…。

あめ:そのたびに突っぱねられたけどな。

ちよこ:だって歌手になりたかったから、病名付いたら邪魔になるって思って。

あめ:あのなあ、病気患ってる歌手なんてごまんといるし、第一隠しおおせばいいだろ。

ちよこ:私の気持ちの問題だよ。今回は実害出ちゃったから、行くしかなかったってだけ。

あめ:はあ…。

ちよこ:まあ…病名、付いちゃったけどさ。ぶっちゃけ「死にたい」って言えば鬱って診断されるし。頑張れないの、病気のせいに出来ないんだよね。なんか自分のこと許せない。

あめ:お前ほんとに生きづらい性格してんな。

ちよこ:存じております…。

あめ:はあ…。確かに鬱はさ、二十人に一人が発症する。今時全然珍しい病気じゃないし、複雑な精神病に比べて診断も下りやすい。そもそも「うつ」ってのは病名じゃなくて気分が落ち込んでる状態のことだしな。

ちよこ:……。

あめ:でもさ、鬱は脳神経系の病気なんだよ。

ちよこ:…まじ?

あめ:まじ。脳のさ、神経伝達物質の欠乏が関係してるんじゃないかって言われてる。そう言われると結構やばい感じしない?

ちよこ:…する。

あめ:そゆこと。要はさ、鬱って「珍しくない病気」とも「神経系のやばい病気」とも言えちゃうわけよ。

ちよこ:……。

あめ:まあ、どっちでも、ちよこの都合のいい方に捉えてたらいいよ。

ちよこ:都合のいい方?

あめ:ちよこが気楽な方。それでさ、「病気に負けないで頑張るぞ」って奮闘してもいいし、「病気なんだから休んでよう」って思ったっていいわけよ。お前が楽にならないと、病気は治らん。

ちよこ:そっ…か。そだよね。

あめ:おう。

ちよこ:…あめは?

あめ:俺?

ちよこ:うん。最近どうなの。

あめ:最近は割と元気かな。

ちよこ:嘘つけ。

あめ:なんでだよ。聞いたのお前だろ。

ちよこ:結構な頻度で気持ち悪いとか吐きそうとか連絡してくるじゃん。

あめ:あー不安な時って人に頼りたくなるからな。すまん。

ちよこ:いやそれはお互い様ですし。我々の仲ですし。…元気ではないじゃん。

あめ:仕事辞めた時に比べたら滅茶苦茶元気だよ。体調悪いのも一時的なものだし、割とすぐ治るしな。

ちよこ:…さようか。

あめ:おう。最近は筆が乗って油彩も毎日描いてる。

ちよこ:それは素直に凄い。

あめ:だからそろそろ働きたいんだけどな。お金も溜めたいし。親からも時々急かされるしさ。

ちよこ:…うん。

あめ:でもなあ、これからのこと考えると急に気持ち悪くなるんだよな。心臓痛くなって気分も最悪になる。心も体も追いつかないなって思うよ。

ちよこ:辛いね。

あめ:…始めてしまえばまた違うんだろうけど、

ちよこ:…。

あめ:また、働けなくなったらって思うと、怖い。

ちよこ:…周り理解してくれないかもだけど、ゆっくりでいいよって私は言いたい。

あめ:さんきゅ。とはいえ、いい加減応募くらいしたい。もう半年だ。

ちよこ:……なんで人間って働かないと生きていけないんだろね。

あめ:それな。

ちよこ:私はさ、働くのぶっちゃけ嫌いじゃないけど。

あめ:俺は嫌い。

ちよこ:知ってる。

あめ:不労所得で暮らしたい。

ちよこ:それは同意。

あめ:はー人間辞めたい。

ちよこ:働かないと人権ないみたいなとこあるもんな、この国。

あめ:俺、来世は飼い猫が良い。

ちよこ:ええー?

あめ:甘やかされて生きたい。

ちよこ:私来世は無機物が良い。

あめ:病んでんな。

ちよこ:うん。

あめ:でも……人間じゃないと絵描けないし、歌も歌えないんだよなあ。

ちよこ:そだね。だから現世は歯、食いしばって人間でいるしかないのだ。

あめ:将来設計、完璧に崩れちまったから、あんまり長く生きていける自信ないけどな。

ちよこ:同じく。夢はまだあるけど、どう向かっていいのか分かんなくなっちゃった。

あめ:でも、ま。

ちよこ:?

あめ:とりあえず、バイト。まずは目の前のこと。働けない間は趣味がんばる。

ちよこ:えらいね。

あめ:目の前の小さいところに目標おいて、繰り返す。個人的にそれが性に合ってるっていうか、俺はそれしかできない。

ちよこ:それしか、って?

あめ:超えられるか分からないでっかい目標とか定めるの、苦手なんだよ。

ちよこ:良いじゃんコツコツ型。私そっちが無理だ。叶うかもわからないでっかい目標だけあって、向かい方がわからない。だから思い立ったら一夜漬けで無理矢理頑張るタイプ…。

あめ:俺はそれが出来ないから、凄いって思うけどね。

ちよこ:…ないものねだりか。

あめ:そうだよ。

 

 

ちよこ:……ねえ、私達さ、生きてるだけで滅茶苦茶偉くない…?

あめ:え?

ちよこ:さっきの話。ぶっちゃけさ、将来の展望が見えなくて死んじゃう人、沢山いるわけじゃん。

あめ:おう。

ちよこ:私達こんなに社会に不適合なのにさ、死なずにちゃんと生きてるんだよ。病気なのにさ、なんか頑張ろうって。まだしがみついて生きてんの。それだけで奇跡じゃない?

あめ:…そうだな。

ちよこ:………(あめに)えらい!!

あめ:………(ちよこに)偉い!!

 

二人、笑う。

 

ちよこ:なんだこれ。

あめ:ばかだな。

ちよこ:ねーねー

あめ:なに。

ちよこ:これさ、脚本にしていい?

あめ:は?

ちよこ:あめと私のさ、この、なに?会話?

あめ:いや、まあいいけど。

ちよこ:タイトルは不適合者通信。

あめ:良い話になんのかそれ(笑)

ちよこ:なるなる。終着点分からない系、会話劇。

あめ:まあ、ちよこが書いてて楽しいならいいんじゃないの。

ちよこ:うん。ゆるゆる書くよ。時間だけはあるからさ。

あめ:おう。出来たら見せてな。

ちよこ:勿論。推敲よろしく。

あめ:わかったよ(笑)。


二人、また笑う。

 

ちよこ:そろそろ出よっか。

あめ:そだな。

 

店を出る2人

 

あめ:お、雨やんでる。

ちよこ:ほんとだ。

あめ:良かったな。頭痛も治ったぽいし。

ちよこ:うん。ねえあめ、

あめ:ん?

あめ:ありがとね。

あめ:?

ちよこ:あめのおかげでさ、今日の雨は辛くなかった。

あめ:お互い様だよ。…俺はいつもベッドから動けなくなるから。今日は動けた。楽しかった。さんきゅーな。

ちよこ:やっぱ元気じゃないじゃん。

あめ:おう(笑)

ちよこ:…まあ、さ。

あめ:ん?

ちよこ:できることだけ、やってこうよ。我々は。

あめ:そだな。生きてるだけで偉いからな、俺たちは。