ICM 国際助産師連盟からの提言:コロナ禍の出産
国際助産連盟(ICM; International Confederation of Midwives)が2020年3月29日に出した声明です。日本助産師会・日本助産学会・日本看護協会はICMの加盟団体ですがこの声明の日本語版は現時点(2021年10月)で各々のサイトに見つかりません。2021年10月4日にアップデートされたものを有志で日本語訳しました。
※この翻訳はICMの許可を得て掲載しています。
https://www.internationalmidwives.org/assets/files/general-files/2021/10/icm-statement_upholding-women_s-rights-during-covid19_updated.pdf
ICM 国際助産師連盟からの提言 2020年3月29日(2021年10月4日改訂 )
COVID-19のパンデミック下においても、出産における女性の人権は守らなければなりません。
国際助産師連盟(International Confederation of Midwives)は、COVID-19の流行以来、多くの国々で妊娠・出産・産後のケアに不適切な医療介入が導入されたことによって、女性・赤ちゃん・助産師の人権が侵害されていることを危惧しています。これらの不適切な医療介入は、信頼できるエビデンスに基づいておらず、ときには女性と赤ちゃんに有害となる可能性もあります。
ICMは信頼のおける情報源とエビデンスによる推奨事項を参考にして、コロナ禍における女性と赤ちゃんの継続ケアをする助産師やその他の医療者、及び医療制度へ向けて、提言を作成しました。現状調査がさらにすすみ、臨床ケアに関するエビデンスが出そろう間にも、コロナ禍の妊娠と出産・産後のケアがエビデンスに基づいたものであること、そしてすべての女性と赤ちゃんの人権が守られることが不可欠です。
1. 妊娠中の女性は、一般の成人と同様の予防措置が必要です。定期的で徹底した手洗い、咳とくしゃみは手や腕でおおい、ソーシャル・ディスタンスを守り、不要不急の外出を避けること。
2. すべての女性とその赤ちゃんは、思いやり・尊厳・敬意をもって扱われる権利があります。
3. すべての女性は、情報を提供され、自らケアを選択し、介入を拒否する権利があります。女性の選択は尊重されるべきで、これには出産の立ち会い者を誰にするのかも含まれます。
4. 陣痛と出産の立ち会い者は、最低でも一人は許されるべきです。パートナーやドゥーラによる継続的なサポートは、自然分娩の割合を増やし、出産にかかる時間を短縮し、帝王切開やそのほかの医療介入を減らすことが立証されています。
5. 産科的に必要がないのにルーチンで陣痛誘発・帝王切開・鉗子出産をすることにより、女性と赤ちゃんの合併症のリスクは上昇します。それにより入院期間が延長されることで、医療機関の負担が増加します。またこうした医療介入は
COVID-19にさらされるリスクを増加させ、女性・赤ちゃん・家族にとって、満足のいく出産体験となる可能性を下げることにもつながります。
6. 現在、COVID-19陽性または陽性が疑われる女性は経腟分娩ができない、もしくは帝王切開の方が安全である、というエビデンスはありません。女性の選択は尊重される必要があり、状況によって必要な医療を考慮しつつ、女性の選択を可能な限り尊重することが必要です。
7. 周産期医療制度が整った国では、妊娠経過が順調な女性であれば資格を持った助産師の支援を受け、しっかりした搬送サポートを受けながら自宅または助産院でより安全に出産できる可能性があります。COVID-19陽性の患者が入院している病院より安全といえます。
8. COVID-19が母乳で乳児に感染する可能性があるという証拠はありません。母乳を通して呼吸器にウイルスが感染する可能性があることを示す証拠はなく、母乳哺育中の女性を新生児から分離することは不適切です。予防措置をとって母乳哺育を継続し、助産師によるサポートを受ける必要があります。
a) 授乳が可能なCOVID-19陽性の女性は、赤ちゃんのそばにいてマスクを着用し、手洗いをして、手などに触れたすべての物の表面をきれいに消毒すること。 b) 授乳ができないときには、搾乳した母乳を清潔なカップまたはスプーンで赤ちゃんにあげることができるので、その支援をする必要があります。搾乳の際はマスク着用、手洗い、搾乳機などの消毒が必要です。
c) 搾乳した母乳をすぐにあげないときは、名前のラベルを付けて保管することができます。米国疾病対策センター(CDC)は、搾乳した母乳を室温で最大4時間保管でき、冷蔵(ドアの棚ではなく本体の棚)で4日間、冷凍庫で6~12か月保管できるとしています。
10. 早産または病気で生まれた赤ちゃんは、医療支援が必要になる場合があります。ただし、すべての新生児には、母親または親にアクセスする権利があります。インフォームドコンセントなしに、母親を赤ちゃんから引き離すべきではありません。赤ちゃんが小さく低体重、または特別なケアが必要な病状で生まれた場合でも、母親と赤ちゃんは常に一緒にいる権利があります。
11. 周産期医療ケアは、コロナ禍でも医療制度サービスなかの不可欠な中核サービスとして優先されるべきです。
12. 担当助産師による継続ケアは、女性やパートナーと接触する医療者の数が限定されるので、病院内で感染が広がる可能性を減らします。そのためにも助産師ケアの継続を奨励し、提供する必要があります。
13. 助産師は、開業や病院勤務にかかわらず、出産する女性とその赤ちゃんに重要なサービスを提供する不可欠な医療従事者です。コロナ禍の医療者不足により、助産師が産科サービスから移動を余儀なくされると、母親と新生児のケアの質が低下する可能性があります。
14. 助産師は、すべての個人用防護具(PPE)、衛生状態、および安全で適切な作業環境にアクセスする権利を有します。
15. 家族計画、緊急避妊、中絶サービスなどの避妊に関わる健康医療ケアは、医療サービスの中核として引き続き提供される必要があります。
参考資料リンク
• Information About Covid19 on WHO Website
https://www.who.int/emergencies/diseases/novel-coronavirus-2019
• White Ribbon Alliance’s Guide to Respectful Maternity Care and the Universal Rights of Women and Newborns
https://www.whiteribbonalliance.org/wp-content/uploads/2019/10/WRA_RMC_Charter_FINAL.pdf
• The Full Reference for the Joint RCOG/RCM Statement
https://www.rcog.org.uk/globalassets/documents/guidelines/2021-08-25-coronavirus-covid-19-infection-in-pregnancy-v14.pdf
• Evidence on Continuous Support for Women in Childbirth: Cochrane Database • Information about Covid19 on UNICEF Website
https://www.cochrane.org/CD003766/PREG_continuous-support-women-during-childbirth
• CDC Guidelines on Expressed Breastmilk
https://www.cdc.gov/breastfeeding/recommendations/handling_breastmilk.htm
• Universal Rights of the Child: Healthy Newborn Network 2019
https://www.healthynewbornnetwork.org/hnn-content/uploads/Final-Country-Progress-Report-v9-low-res.pdf
• Information about Covid19 on UNFPA Website
https://www.unfpa.org/covid19