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源法律研修所

軽犯罪法や迷惑防止条例のルーツ

2021.10.07 13:05

 長生きすると、想像もつかないことに出くわすものだ。下記の記事によると、男が自分の胸を揉んで女性に見せつけた疑いで逮捕されたらしい。一瞬、意味が理解できず、頭の中が「???」になった。

 テレビ局の記事は、直ぐに削除される傾向にあるので、スクショを貼らせていただく。問題があれば、直ちに削除する。

https://news.yahoo.co.jp/articles/4c6250ef558a26e3c709630922289a8252c158c2

 男が自分の胸を揉む様子を見せつける行為を処罰する規定なんてあるのだろうかと思って調べてみたら、記事にもあるように、静岡県迷惑行為等防止条例第3条第1項第5号の「公共の場所又は公共の乗物にいる人に対して、卑わいな言動をすること」に当たると解したわけだ。


 記事によると、この63歳の男はブラジャーを着けていたそうだから、こんな変態に遭遇したら、恐怖のあまり私でも反射的にぶん殴るか、理性が残っていたら「なんだ!貴様ッ!!」と一喝するか、猛ダッシュで逃げるかも知れない。

 被害女性は、さぞや気持ち悪くて、恐ろしかったことだろう。


 罪刑法定主義の観点から、「卑わいな言動」の明確性については争う余地があるけれども、変質者の迷惑行為はバリエーションが豊富で、これを一々明確に規定し尽くすことは不可能なので、かかる処罰規定がなければ、変質者の迷惑な言動を取り締まることができないのも事実だ。

 

cf.1静岡県迷惑行為等防止条例( 昭和38年7月15日 条例第46号)

(目的)

第1条 この条例は、公衆に著しく迷惑をかける行為等を防止し、もって県民生活の平穏を保持することを目的とする。

(卑わいな行為の禁止)

第3条 何人も、正当な理由がなく、人を著しく羞恥させ、又は人に不安を覚えさせるような方法で、次に掲げる行為をしてはならない。

 (1) 公共の場所又は公共の乗物において、衣服その他身に着ける物(以下「衣服等」という。)の上から、又は直接人の身体に触れること。

 (2) 公共の場所又は公共の乗物にいる人の下着又は身体(これらのうち衣服等で覆われている部分に限る。以下「下着等」という。)をのぞき見ること。

 (3) 公共の場所若しくは公共の乗物又は事務所、学校、タクシーその他の不特定若しくは多数の者が出入りし、若しくは利用する場所若しくは乗物(公共の場所及び公共の乗物を除く。以下「事務所等」という。)にいる人の下着等を見る目的又はその映像を記録する目的で、写真機、ビデオカメラその他これらに類する機器(以下「写真機等」という。)を設置し、又は下着等に向けること。

 (4) 公共の場所若しくは公共の乗物又は事務所等にいる人の下着等を見る目的又はその映像を記録する目的で、衣服等を透かして見ることができる機器を設置し、又は人の身体に向けること。

 (5) 前各号に掲げるもののほか、公共の場所又は公共の乗物にいる人に対して、卑わいな言動をすること

2 何人も、正当な理由がなく、人を著しく羞恥させ、又は人に不安を覚えさせるような方法により、住居、浴場、更衣場、便所その他人が通常衣服の全部若しくは一部を着けない状態でいるような場所に当該状態でいる人の姿態を見る目的又はその映像を記録する目的で、写真機等を設置し、又は人の身体に向けてはならない。

(罰則)

第12条 次の各号のいずれかに該当する者は、6月以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する

 (1) 第3条の規定に違反した者

 (2) 第4条の規定に違反した者

 (3) 第7条の規定に違反した者

2 常習として前項の違反行為をした者は、1年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処する

3 第1項第1号の罪を犯した者が、第3条第1項第3号若しくは第4号の規定に違反して下着等の映像を記録したとき、又は同条第2項の規定に違反して衣服の全部若しくは一部を着けない状態でいる人の姿態の映像を記録したときも、前項と同様とする。


 この事件で思い出したのだが、違式詿違条例をご存知だろうか。現在の軽犯罪法(昭和二十三年法律第三十九号)や迷惑防止条例のルーツだ。

 「違式イシキ)」は、本来、律令制の式(細目のこと。)に違反することをいうが、ここでは故意犯を表す。中里道造著『岩手県違式詿違図解九拾ヶ條』は、「おきてをそむきつみ」と注釈している。

 「詿」は、難読だが、「詿」の音読みは、「カイ、 ケ、 カ」で、訓読みは、「あやまる」だ。「詿違カイイ)」は、過失犯を表す。『岩手県違式詿違図解九拾ヶ條』も、「あやまっておきてをそむくもの」と注釈している。

https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/794274/3


 違式詿違条例の嚆矢(こうし)は、明治5年(1872年)11月8日、東京府が布達した「東京違式詿違条例」(総則5条、違式罪目23条、詿違罪目25条の計53条からなる。)だ。


 不平等条約の改定が悲願だった明治政府は、迷惑行為を防止し、西洋人から見て野蛮に思われる江戸時代の風俗習慣を改めて、「文明開化」すべく、明治6年(1873年)7月19日の太政官布告により違式詿違条例の雛形(ひながた。モデルのこと。)を定めた「各地方違式詿違条例」を制定した。


 すなわち、「各地方違式詿違条例別冊ノ通(とおり)被定(さだめられ)候條(そうろうじょう)此旨(このむね)布告候事(ふこくそうろうこと)」とある(ルビ:久保。以下、同じ。)。

 法制執務上、注目すべきは、「但(ただし)地方ノ便宜(べんぎ)ニ依(よ)リ、斟酌(しんしゃく)増減ノ廉(かど。箇条のこと。)ハ警保寮(けいほりょう)ニ可伺出(うかがいでるべし)」として、府県が国の警保寮(明治6年に内務省に設置された警察部門を担当する内部部局で、現在の警察庁のルーツ。)と 協議すれば、地方の実情に応じた条文の加除等が認められていた点だ。

 そして、各府県が各地方違式詿違条例をモデルにして、違式詿違条例を制定した。都会と田舎では風俗習慣が異なり、迷惑行為に違いがあるため、実際に制定された違式詿違条例の内容にも差がある。


 また、子供でも理解できるように条文にルビを振ったり、図解したり、図解に彩色を施したりした本まで出版された。現代においても、子供も対象になる条例については、パンフレットを作成する際に参考になると思われる。

 さらに、違式詿違条例は、小学校の授業で教えられた。子供から「それは違式詿違条例違反だよ」と言われたら、親も行いを改めざるを得ないので、効果的だったと思われる。これも参考になろう。


 ただ、違式詿違条例による刑罰(第1条から第5条まで)は、軽微とはいえ、刑事裁判を経ずに警察が科したので、適正手続(デュー・プロセス)の保障の観点からは不適切だった。

 違式詿違条例は、明治13年の刑法公布によりその名も巡 警罪と変わり、明治15年1月1日の同法施行ととも に、その役目を終えた。


cf.2各地方違式詿違条例(明治六年七月十九日太政官布告)

https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/787953/262

 各地方違式詿違条例の内容を見ると、迷惑行為のオンパレードで、現在でも軽犯罪法や迷惑防止条例で処罰されるものが多い。

 

 ただ、現代の価値観からすると、疑問符がつくものもある。例えば、各地方違式詿違条例は、「婦人ニテ謂(いわ)レナク断髪スル者」は、詿違罪目(過失犯)としている(第48条)。つまり、正当な理由なくして女性がうっかり断髪すると処罰されるわけだ。

 明治四年八月九日の太政官布告「散髪制服略服脱刀共勝手タル事」「但(ただし)礼服ノ節ハ帯刀致スヘキ事」を受けて、各都府県が廃刀、断髪を布達したのだが(父方・母方の祖父は、廃刀令・断髪令が出た後もずっと大小を差して、髷を結っていたそうだから、田舎では取締りが緩かったと思われる。)、断髪令には男女の別が明記されていなかったので、「散切(ざんぎ)り頭を叩いてみれば文明開化の音がする」といわれたように、女性の中にも、時代の最先端を行こうと男勝りに断髪をする人が出てきて流行の兆しが見えたため、各地方違式詿違条例第48条が定められたものと思われる(父方・母方の祖母は、戦後しばらくの間、髷を結っていた。)。


cf.3明治四年八月九日太政官布告第三百九十九號

https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/787951/195


 先程の事件記事に関連する条文もある。明治11年に出版された細木藤七編『違式詿違条例』(洋々堂)に掲載されている違式詿違条例第62条だ。原則として、男の女装、女の男装が禁止されている。いつの世にも変態がいたわけだ。

 それにしても漢字の読みを子供にも分かるように平易な言葉に置き換えてルビを振っている点がユニークだ。明治の人たちの方が現代人よりも発想が柔軟だと思う。

https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/794267/32


 気分転換に、少女漫画家津雲むつみさんの学園ラブコメ漫画が原作のテレビドラマ『おれは男だ!』(1971年)の第1回放送のOPをどうぞ♪

 小学校の頃、世間では左翼運動が盛んで、公共交通機関は、ストライキが恒例行事だった。公立学校の教師は、争議行為が禁止されているのに、生徒をほったらかして、しばしばストライキを行い、赤旗を振って、肩を組んで労働歌を熱唱し、学校は臨時休校。日の丸・君が代は侵略戦争の象徴だ、天皇制を打倒せよなどと授業中に小学生に向かってアジる日教組教師たち。家の近所にあった関西大学に遊びに行くと、中核派や革マル派などの大学生がゲバ棒を持って互いに殴り合い(男の悲鳴を生まれて初めて聞いた。)、教室ではヘルメットを被って鉄パイプを持った大学生たちが教授を小突いて土下座させていた。

 小学校の同級生の女子たちは、中ピ連(中絶禁止法に反対し、ピル解禁を要求する女性解放連合の略。ウーマンリブ運動の組織。)の活動家を母に持つ女子生徒に洗脳されて、教室に政治を持ち込み、なんでもかんでも差別だ!と叫んで男子生徒や時には教師を吊し上げ、これに加担する日教組教師がいるものだから、クラスの男女の仲は最悪だった。

 男子の圧倒的支持を受けた私は、クラス代表に選出され、児童会の副会長に就任した(会長は、6年生限定だったので、私はなれなかった。)。小学校を本来あるべき姿に戻し、男女が仲睦まじく平穏に学習できる学舎(まなびや)にすべく改革に乗り出そうとした矢先に、父の転勤に伴って神奈川県へ引っ越すことになった。道なかばで転校するのは、心残りだったが、幸い転校先は、然るべき家庭の子弟が多く通う学校(同級生には、三井財閥の令嬢もいた。)だったので、日教組やウーマンリブなどの左翼運動とは無縁で、平穏な学園生活を送ることができた。

 「朱に交われば赤くなる」(人は交わる仲間によって良くも悪くもなること)や「孟母三遷(もうぼさんせん)の教え」(教育には環境が大切だという教え。)は、本当だとつくづく思ったものだ。

 私にとって、転校前のバイブル的存在が、再放送(我が家では、テレビは1日1時間で、夜8時までだったので、夜10時放送の『おれは男だ!』をリアルタイムで見られなかった。)で見た『おれは男だ!』で森田健作さんが演じる主人公小林弘二だった。小林弘二が転校した青葉高校は、元女子校で、多数派を占める女子生徒が校内の実権を握っており、そのリーダーがバトン部キャプテンで隣家に住む吉川操だった。吉川操は、アメリカからの帰国子女で、ウーマンリブの推進者だった。小林弘二は、「ウーマンリブ」を打倒するため、ウーマンパワーに抑圧されて腑抜けになった男子生徒を集めてこれを鼓舞し、剣道同好会を結成する。バトン部と対立しながらも、お互いの理解と友情を深めていくという青春ストーリーだ。

 森田健作さんが演じる小林弘二は、実に爽やかな好青年だったのに、実際の森田さんが分不相応な政治家に転身して晩節を汚してしまったのは誠に残念だ。

主題歌、森田健作の「さらば涙と言おう」

 早瀬久美さんが演じるヒロインの吉川操よりも、小川ひろみさんが演じる剣道の強豪校相沢高校剣道部主将の丹下竜子の方が、赤胴の防具を身につけ凛(りん)としながらも、朗らかでサバサバしていて、お茶やお花のお稽古にもいそしみ、着物がよく似合う女性で、人気だった。丹下竜子と小林弘二が楽しそうに会話をしていると、小林弘二を目の敵としているはずの吉川操をはじめとする青葉高校のがさつな女子生徒たちがヤキモチを焼くシーンがいつも面白かった。

 小川ひろみさんは、剣道初心者だったのだろう。剣道の剣捌きや足捌きはお粗末だったけど、笑顔がチャーミングだった。

 小学生ながら、お付き合いするならば、丹下竜子だろうに、なぜ小林弘二は、ヒステリーばかり起こす頭でっかちな吉川操を選ぶんだ?と思ったものだ。

劇中歌、森田健作の「男なら気にしない」