「よるのばけもの」を読みました【感想と謎についての新考察】大人の感想文
「よるのばけもの」は、「君の膵臓を食べたい」「また、同じ夢を見ていた」の住野よる先生の作品。
薦められて読みましたが、とっても印象的な表紙と気になる内容にグイグイ引っ張られて、わずか一晩で読み切ってしまいました。
ちょっとあらすじを紹介。
夜になると、僕は化け物になる。寝ていても座っていても立っていても、それは深夜に突然やってくる。ある日、化け物になった僕は、忘れ物をとりに夜の学校へと忍びこんだ。誰もいない、と思っていた夜の教室。 だけどそこには、なぜかクラスメイトの矢野さつきがいて――。
なんとも不思議なお話ですが、中学生や高校生にもオススメの内容です。
読んだ感じがちょっとダークかなー。でも、だからこそ読んで欲しい一冊でもありますね。
以下、ネタバレです。一応、ネタがばれても面白いと思って紹介しています。
あ、この本、特に、「いじめ」について考えたことがある人にこそ読んで欲しい一冊です。
【大人の感想文】第一弾です。
これは、ハッピーエンドの物語だ。
もしかしたら「え?」って思う人もいるかもしれない。
でも、あえて声を大にして言いたい。
これは、ハッピーエンドの物語だ。
夜にばけものになって、
昼とは一人称も人の呼び方も変わる主人公。
相手によってコロコロと態度を変えていく学校の友人たち。
隠れて復讐をしていたり、好きなのにたった一瞬で嫌いになったり、
お調子者のふりをして周りがどんな風に動くかよく見ていたり、
みーんな裏と表を持って暮らしている登場人物たち。
その中で、
ただ一人表裏なくいるはずだった一人のいじめられっ子。
でも、彼女の「にんまり」にも特別な「裏」の意味が込められていた。
「不思議は、不思議のままで不思議」
この物語には沢山の謎があって、
注意深く読んでいくと少しずつその謎は解けていくのだけれど、
それでも、不思議な謎は数多く残る。
そのうちの一つの謎、
「なぜいじめられっ子は容易く夜の学校へ入ることができたのか」について考えていくと、
あっているかどうかはもちろん別として、
ある一つの、驚愕の答えに辿り着くことができた。
うん、あっているかどうかは本当に別として。
これは、物語なのだ。
主人公が変身する化物は、
想像力一つで色んなことができるようになる。
空を飛べたり、火を吹けたり、分身を作ったり。
たった想像力一つで、何でもできるようになる。
それと同じことだ。
なぜ夜の学校に入れたのか。
それはきっと、登場人物がそう望んだからだ。
いやいやもっと言えば、それは作者からのサインなのだ。
ばけものになる主人公も、
裏表のある登場人物も、
怖くて笑ういじめられっ子も、
いそうで、いない。これは物語だから。
なぜ夜の学校に入れたの?
なぜいじめられっ子は苦しい思いまでして毎日学校に来るの?
なぜ夜に怪獣が出るの?
そんな謎が、
作者からの「これはフィクションですよ」ってヒントだとしたら。
つまり「これは物語だ」と作者はサインを出している。
物語は、決して現実ではない、寓話。
いいこともひどいことも、本当だけど本当じゃない。
とってもリアリティのある、だけど子どもの世界の一つの物語。
そして物語はね、いつだってそれを読む読者のためにある。
僕らは知るんだ。この「本当ではない」物語で。
人の痛みや、本当の優しさや、怖さや苦しみや、裏と表のこと。
そして自分の人生に活かすんだ。
物語から知った、僕と俺のくっつけ方を。
「やっと、会え、たね」と笑いあう方法を。
作中唯一の大人の登場人物と言っても過言ではない能登先生の、
「難しいことはいい。生き延びなさい。大人になったらちょっとは自由になれる」
という台詞。
主人公は「いじめを知っていて助けないってことか」と絶句していたけれど、
その一言でいじめられっ子は救われる。この言葉自体にも裏と表がある。
「なぜ夜の学校に入れたのか」という謎と、その答えが、
作者からの「これは一つの物語ですよ」ってサインだったとして、
これは子どもの世界の物語だから、大人はもちろん入ってこられない。
その中で、大人からのたった一つのメッセージであるこの言葉は、
作者が「リアル」として紡いだ、大切なメッセージなんじゃないかな。
ねぇ、もしも今いじめで苦しんでいる君が居たとしたら。
今の辛いことや苦しいことは、いつか、なくなる。
大人になる過程で、すべては変わっていく。
想像力を発揮して、素敵な世界を描こう。広い世界をイメージしよう。
子どもの君に、できないことはない。
今が辛くても苦しくても、死ぬことなんて選ばないで、生き延びよう。
逃げてもいいし、立ち止まってもいいし、助けてって言ってもいいし、そこら中に味方はいるよ。
「今よりいい」がこの先でちゃんと待ってる。君はもっと自由になれる。
だから、生きよう。
そんなメッセージ。
ね、
やっぱりこれは、「ハッピーエンド」の「物語」だ。
本日もHOMEにお越しいただき誠にありがとうございます。
物語は続いていく。