【男2:女2】ヒメゴト-花-
男2:女2/時間目安40分
【題名】
ヒメゴト-花-
(ヒメゴト-はな-)
【登場人物】
真島詩(ましま うた):人のものを欲しがる女。
入野颯真(いりの そうま):愛した女を守れなかった男。
佐々木圭(ささき けい):歪んだ心を隠す男。
秋元朱里(あきもと しゅり):愛する人のためなら何でもする女。
秋元真菜(あきもと まな):颯真の彼女。朱里の姉。(名前のみ登場)
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『ヒメゴト-花-』作者:なる
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真島詩(女):
入野颯真(男):
佐々木圭(男):
秋元朱里(女):
001 詩M:あの人は私の全てだった。
002 颯真M:愛したあの子を守りたかった。
003 朱里M:あの人の歪んだ笑顔が愛おしかった。
004 圭M:僕達はみんな、初めから狂っている。
005 颯真:お、圭。おはよ。
006 圭:はよ〜。
007 詩:佐々木くん、おはよう。
008 圭:あれ、詩ちゃんもこの講義取ってたんだ。
009 詩:本当は取る必要ない授業なんだけど、取れそうだったから取ってみたの。
010 朱里:またまた〜!颯真くんと同じ講義取りたかったっていうのが本当の理由なんじゃないの?
011 詩:しゅ、朱里ちゃん?!
012 圭:朱里ちゃん。
013 朱里:ふふ、圭くんおはよ。
014 圭:おはよう。
015 颯真:ほら、席取ってやったんだから、早く座れよ。お前ら前な。
016 圭:さんきゅー。
017 颯真:さぁて、詩さん?
018 詩:な、何?
019 颯真:さっきの話を詳しく聞こうかなぁ。
020 詩:さっきの話というのは……その……。
021 颯真:俺と同じ授業を取りたかったって話。
022 詩:ひぇ〜!
023 朱里:ふふ!詩ちゃんファイト!……ほら、圭くんこっち座ろ!
024 圭:はいはい。
(間)
025 朱里M:私達はたぶん、狂ってしまった。あの日に。
【2年前】
026 詩:ねぇ、颯真くん。
027 颯真:何?
028 詩:颯真くんって彼女とかいるの?
029 颯真:なんでそんなこと聞くの?
030 詩:何となく。
031 颯真:……いるよ。
032 詩M:少し躊躇いながら面倒そうに答える彼。あぁ、ずるい。羨ましい。
033 詩:どんな人、なの?
034 颯真:うーん、花、みたいな人、かな。
035 詩:花?
036 颯真:パッと花が咲くみたいに笑顔になる。悲しい事があると萎んだ花みたいにしゅんとする。……まぁ別の言い方をすると犬っぽい。
037 詩:……そうなんだ。
038 颯真:詩は?彼氏とかいないの?
039 詩:いないよ。
040 颯真:ふぅん。いそうなのに。
041 詩:そうかな。
042 颯真:うん。
043 詩:誰か待ってるの?
044 颯真:あぁ、うん。この後彼女と約束があって。
045 詩M:嬉しそうにちらちらと時計を確認する彼。私との時間は彼女と待ち合わせまでの暇つぶし。……あぁ憎い。そんな顔私も見た事がないのに。
046 颯真:あ、連絡きたから俺そろそろ行くわ。1人で大丈夫?
047 詩:……大丈夫じゃないって言ったらどうするの?
048 颯真:それは、えっと。
049 詩:ふふ、嘘だよ。ほら、早く行って。
050 颯真:あぁ、うん。圭がこれから来るみたいだから。またな。
051 詩:うん、またね〜。
052 詩M:いつもよりおめかしをした彼をこれから彼女とやらは独り占めするんだ。あー憎い。ずるい。私が先だったのに。どうして私じゃないの?どうして私じゃだめなの?どうして、愛してくれないの。
【2年前】
053 颯真:なぁ圭。聞いてくれよ。今日も真菜が可愛くてさ〜。
054 圭:その話長い?
055 颯真:なんだその反応!冷たいぞ!
056 圭:毎日毎日、顔を合わせれば真菜真菜って。惚気を毎日聞かされるこっちの身にもなれ。
057 颯真:真菜が可愛いのを共有して何が悪い。
058 圭:興味無い。
059 颯真:頼む、聞いてくれよ圭〜。お前しかいないんだよ〜。
060 圭:暑い、離れろ。
061 颯真:聞いてくれる気になったのか。
062 圭:はぁ……仕方ない。それで?今日の報告をどうぞ。
063 颯真:まず今日も服装がめちゃくちゃ可愛かった。
064 圭:そう。それで?
065 颯真:それで、今日もとても清楚な感じ。笑うと華やかなのに清楚。最高じゃない?
066 圭:お前、そういうタイプ好きだよな。
067 颯真:真菜が一番。
068 圭:はいはい。それで?
069 颯真:デート行かない?って誘われた。
070 圭:場所は?
071 颯真:「もうすぐ颯くんお誕生日だから、颯くんの行きたいところに行こう」ってさ!最高の彼女だよ。
072 圭:それは良かったな。どこ行くんだ?
073 颯真:真菜の可愛い姿を見たいから遊園地を提案しようと思う。
074 圭:いいんじゃないか。
075 颯真:だろぉ!
076 圭:いい誕生日になるといいな。
077 颯真:あぁ……なぁ、なんか騒がしくないか?
078 圭:確かに言われてみれば。ちょっと行ってみるか。
(少し間)
079 圭:詩ちゃん!
080 詩:颯真くん、佐々木くん。
081 颯真:どうしたんだこの人だかり。
082 詩:誰かが屋上から落ちたみたい。
083 圭:おい……あれ!
084 颯真:嘘、だ、ろ。……おい!真菜!……真菜!!!!ちょっと退いてくれ!真菜!!!
085 圭:詩ちゃん、救急車は?
086 颯真:真菜!目を開けてくれ!真菜!!!
087 圭:落ち着け、颯真。あんま揺するな。
088 詩:救急車、もう呼んでるって。
089 圭:ありがとう。
091 颯真:真菜!……真菜……!
092 圭M:あぁ、たまらない。本当に。お前はいい顔をしてくれる。……僕は必死に焦った顔をする。
【2年前】
093 朱里:今日は来て下さってありがとうございます。
094 颯真:いや。……その……ご愁傷さま、です。
095 朱里:そういうのいいです。お姉ちゃんも望んでないと思うので。……あの、顔色が悪いですが大丈夫ですか?休憩室で休まれては……?
096 圭:颯真、お言葉に甘えて休ませてもらおう。
097 颯真:あぁ……。
098 朱里M:あぁ、やっぱり来てくれた。私の大好きな、歪んだあなた。
099 圭:申し訳ない。案内して貰っても?
100 朱里:もちろん!……あのっ……朱里。私、朱里って言います。朱里って呼んでください。
101 圭:え?……あ、あぁ。じゃあ朱里ちゃんお願いします。
102 朱里:……はい。
103 圭:颯真、行こう。大丈夫か?
104 朱里:……ふふ。
105 朱里M:あぁ、美しい。そう、この顔。この顔が見たかったの。愛するあなたの歪んだ顔を。
106 圭:……どうかした?
107 朱里:……いえ。こちらです。
108 颯真:ありがとう、朱里ちゃん。
109 朱里:……いえ。……ゆっくり休んでください。では。
110 圭:ありがとうね、朱里ちゃん。
111 朱里:ふふ……ごゆっくり。
112 颯真M:あれから2年の時が過ぎた。周りで様々な事が起こっては消え、また起こり、消える。一度消えたものは戻らない。真菜も、俺が愛したはずの日々も、全部。消えた。消えて。堕ちて。……そこから引っ張りあげてくれたのは今の彼女。詩だった。詩は……良くも悪くも賢い女だった。……それでも、何でも良かった。ただ、真菜の温もりを埋めてくれる、温かいものであれば、何でも。
【現在】
113 圭:ねぇ朱里ちゃん。
114 朱里:ん?何?
115 圭:どうして朱里ちゃんはこの大学に入ったの?
116 朱里:お姉ちゃんが通ってたから。
117 圭:……あんな事があったのに?
118 朱里:あんな事があったから……だよ。
119 圭:そっか。
120 朱里:私はそんなに脆くないよ。
121 圭:朱里ちゃん。
122 朱里M:そう、その顔。その顔がたまらなく好きなの。
123 圭:真菜が死んでからちゃんと泣いた?
124 朱里:……忘れちゃった。
125 圭:ほら、こっちおいでよ。
126 朱里:やだ。
127 圭:僕のことキライ?
128 朱里:朱里。
129 圭:……ん?
130 朱里:朱里って呼び捨てしてくれたら、いいよ。
131 圭:ふふ……そっか。……朱里。
132 朱里:なに?圭くん。
133 圭:けい。
134 朱里:真似っ子だ。
135 圭:呼んでくれないの?
136 朱里:圭。……私ね。
137 圭:うん。
138 朱里:圭がこの大学に通ってたから、この大学に入ったんだよ。
139 圭:そうなの?
140 朱里:そう……お姉ちゃんなんて本当はどうでもいい。
141 圭:朱里……可愛い。
142 圭M:そう褒めると頬を赤くする朱里。堪らなくなって頬に手をやると耳まで真っ赤にしながら見つめてくる。…あぁ、この顔はどうやったら歪むんだろう。
143 朱里:圭?
144 圭:あぁ、ごめん。朱里があまりに可愛いから、見惚れてた。
145 朱里:ふふ……嘘つき。
146 圭:嘘はついてないよ。朱里は可愛い。
147 朱里:嬉しい。……でも、圭は苦しい顔の方が好きでしょう?
148 圭:あはは……あはは!……なんでそんな事知ってるの?
149 朱里:ずーっと前から見てるから。
150 圭:そっか。
151 朱里:私の事、どう思った?幻滅した?
152 圭M:そう言いながら朱里に押し倒される。恐らくこの子を歪ませたのは俺だろう。その優越感が愛おしくて、思わず笑みがこぼれる。
153 圭:おいで、朱里。……壊してあげる。
154 朱里:ふふ、喜んで。
155 圭M:壊れた俺にお似合いの、壊れた彼女。もっと壊してしまおうか。俺じゃなきゃ愛せないくらいに。
156 颯真:詩ー。ご飯。
157 詩:何食べたい?颯真くんの好きな物作るよ。
158 颯真:んー、オムライス。
159 詩:わかった。卵はふわふわ?固め?
160 颯真:どっちでもいい。作りやすい方で。
161 詩:わかった。じゃあドレス着せちゃおうかな。
162 颯真:ドレス?
163 詩:そう。卵をドレスみたいにするの。ちょっと豪華に見えるよ。
164 颯真:へー。楽しみにしてる。
165 詩:うん。ちょっと待ってて。
166 颯真:……あのさ、詩。
167 詩:なに?
168 颯真:颯くんって、呼んでよ。
169 詩:……颯真って呼ぶのはダメ?
170 颯真:颯くんって呼ばれたい、詩には。
171 詩:うん、わかった。
172 颯真M:俺を呼び捨てで呼ぶ女なんて、一人でいい。
173 詩:颯くんさ、もうすぐ誕生日じゃん。行きたいところとかないの?
174 颯真:あー、そういえばそうだった。
175 詩:忘れてたの?大事な日なのに。
176 颯真:もう長いこと祝ってないからなぁ。
177 詩:誕生日、一緒にお祝いしたいな。
178 颯真:ほんと?……嬉しい。予定確認するわ。
179 詩:……うん。
<颯真が詩に抱きつく>
180 颯真:詩ー。
181 詩:ちょっと、颯くん!?火使ってるから危ないよ。
182 颯真:詩はさ、俺の事好き?
183 詩:……もちろん。好きだよ。
184 颯真:どのくらい?
185 詩:颯くん、子供みたい。
186 颯真:そんな俺は嫌い?
187 詩:ううん。可愛い。
188 颯真:好きだよ、詩。
189 詩:私も。だいすき。
190 颯真M:愛した分の倍の愛を、詩は返してくれる。俺の愛の半分は詩に。……そしてもう半分は愛する彼女に。
191 詩:あ、ちょっと、佐々木くん。
192 圭:ん?……あぁ、詩ちゃん。どうかした?颯真ならまだ授業中だと思うけど。
193 詩:その……佐々木くんに用があって。
194 圭:僕?
195 詩:この後時間いいかな。
196 圭:……うん。いいよ。立ち話もなんだし、そこのカフェ行こうか。
197 詩:うん。
(少し間)
198 朱里:いらっしゃいませー。……あ、圭。いらっしゃい。
199 詩:あれ、朱里ちゃん?
200 圭:ここ朱里がバイトしてるカフェなんだ。
201 朱里:ふふ、いらっしゃい詩ちゃん。……こちらにどうぞ。
202 詩M:朱里ちゃんは私に目をやると何事も無かった様に私達を一番奥の席へ案内した。佐々木くんが慣れた手つきで注文をして、それを慣れた手つきで受ける朱里ちゃん。お似合いのカップルだなと思った。……羨ましい。……悔しい。
203 圭:それで、話って?
204 詩:あの……颯真くんの事なんだけど……。
205 圭:うん?
206 詩:元カノさんって颯真くんのことなんて呼んでた?
207 圭:呼び捨てだったと思うけど。
208 詩:そ、っか。
209 圭:詩ちゃんは颯真の事呼び捨てにしないの?
210 詩:颯真くんにヤダって言われちゃった。颯くんって呼んで欲しいって。
211 圭:そっか。……まぁあんまり気にしなくて大丈夫だと思うよ。
212 詩:そうかな。
213 圭M:『そうだよ。』なんて言いながらコーヒーを一口。……あいつにとって、真菜を越える女なんて居ないだろうから諦めた方がいい。……なんて。そんな事教えてやらないけど。
214 詩:あとさ、誕生日プレゼントを選びたくて。何が欲しいとか聞いたことない?
215 圭:あいつの欲しいものってゲームくらいしかないと思うけど……他に何かあるかなぁ。
216 詩:聞いてみたけど特にこれってものが無くて。
217 朱里:洋服とかいいんじゃない?はい、これサービス。
218 圭:さんきゅ。
219 朱里:それ来月からの新作のケーキなんだ。よかったら試食してみて。
220 詩:ありがとう、朱里ちゃん。
221 朱里:いーえ。あ、あとプレゼントはネックレスとかでもいいと思うよ。
222 詩:ネックレスかぁ……。
223 朱里:颯真くんが普段着てる洋服に合わせて買ってみたりね。
<朱里が別の客に呼ばれる>
224 朱里:はーい!少々お待ち下さい!……ちょっと行ってくるね。
225 圭:行ってらっしゃい。……どう?イメージ湧いた?
226 詩:うん、何となく。ちょっと探してみようかな。
227 圭:役に立てたみたいで何よりだよ。あ、そうだ、ちょっと授業の事で教えて欲しいことがあるんだけど……。
(間)
228 朱里:詩ちゃん。
229 詩:あれ、朱里ちゃん。どうしたの?
230 朱里:休憩入ったから来ちゃった。圭は?
231 詩:さっき御手洗行ったよ。
232 朱里:そう。……さっきは何の話してたの?
233 詩:授業の話してたよ。今圭くんが取ってる授業、私前に取ってたから質問って。
234 朱里:ふーん……。その前は?
235 詩:その前は……ちょっと颯真くんの事相談してた。
236 朱里:あぁ、それで誕生日プレゼントの話か。なるほど。
237 詩:前から聞こうと思ってたんだけど、朱里ちゃんはさ、その圭くんの事……(※被せ)
238 朱里:(※被せ)詩ちゃん。
239 詩:……何?
240 朱里:佐々木くん、でしょ?
241 詩:……え?
242 朱里:ダメだよ、距離感間違えちゃ。
243 詩:え、っと。
244 朱里:あと、私は圭と何の関係もないよ。
245 詩:え、そうなの?……それじゃあ……
246 朱里:それでも、ダメ。圭は私のだから。
247 詩:……そっか。
248 朱里M:ほら、また。2回目だね、その顔するの。
249 詩:佐々木くんと朱里ちゃんお似合いだから、付き合ってると思ってたよ。
250 朱里:付き合ってる以上の関係、だよ。詩ちゃんが想像してるよりも、ずーっと。
251 詩:……あっ……そ、そうなんだ……。
252 朱里:だから……お姉ちゃんからは奪えても、私からは無理だよ。
253 詩:……っ!……な、何の話……?
254 朱里:知ってるよ。詩ちゃんが、颯真くんを奪ったの。
255 詩:私は、そんな事……。
256 朱里:ふふふ。……何で、あのタイミングで柵が外れたんだろうね?詩ちゃん。
257 詩:……まさか……!
258 圭:あれ、朱里。休憩?
259 朱里:ふふ、おかえり。そうだよ。もうすぐ終わるけど。
260 圭:そっか。なんの話してたの?
261 朱里:颯真くんへのプレゼントの話。
262 圭:あれ……詩ちゃん顔色悪いけど大丈夫?
263 朱里:あれ、ほんとだ。……大丈夫?
264 詩:……うん。……だ、大丈夫。私、先に帰るね。
265 圭:あぁ、うん。
266 詩:これお金。佐々木くん、今日はありがとう。また……。
267 圭:こちらこそありがとう。
268 朱里:お大事にね、詩ちゃん。
269 詩:……じ、じゃあ。
<詩が退店>
270 朱里:行っちゃった。
271 圭:朱里、今日バイト何時まで?
272 朱里:17時には終わるよ。
273 圭:うん、分かった。じゃあ終わるまで待ってる。コーヒー追加で。
274 朱里:ほんと!やった。
275 圭:明日の予定は?
276 朱里:明日はお休み。
277 圭:そう。……お家デート、しようか。
278 朱里:うん!
279 朱里M:私たちの関係に名前はない。あえて付けるとすれば……それは『共依存』だろう。歪んだ貴方を愛せるのは歪んだ私だけ。貴方の幸福の為なら、身内すらも殺してみせましょう。だから、お願い。私の事を見て。
280 颯真:あのさ。
281 詩:うん?
282 颯真:誕生日なんだけど。
283 詩:あ、予定どうだった?
284 颯真:俺の誕生日さ、月命日なんだ。……真菜の。
285 詩:で、でも、颯くんのお誕生日でしょう?
286 颯真:そうだな。俺の誕生日だけど、真菜の月命日だ。
287 詩:じゃあ……どうするの?
288 颯真:誕生日祝うの、別日じゃダメかな。
289 詩:……誕生日なのに。
290 颯真:ごめん。
291 詩:別に颯くんのお誕生日だし、好きにしたらいいよ。
292 颯真:ごめん。
293 詩:別にいいって。また改めてお祝いさせて?
294 颯真:……うん。分かった。
295 朱里:ねぇ、圭。来週の土曜日、空いてる?
296 圭:来週の土曜日は颯真と墓参り行くけど。
297 朱里:ふーん。……月命日、か。
298 圭:朱里は行かないの?
299 朱里:お姉ちゃんの事を月に一回思い出して手を合わせるなんて無理。
300 圭:俺の記憶では真菜と朱里は仲が良かったはずだけど。
301 朱里:だって、お父さんが仲良くしてねって言うから。
302 圭:あぁ……そっか。
303 朱里:お義姉ちゃんはね、私から全部奪っていったの。家族も友達も全部。
304 圭:辛かった?
305 朱里:ふふ、そんな笑顔で聞かないでよ。
306 圭:あぁ、ごめん。つい。
307 朱里:いいよ。……お義姉ちゃんと私どっちが好き?
308 圭:なんでそんなこと聞くの?
309 朱里:圭がお義姉ちゃんの事見てたの、知ってるから。
310 圭:俺は朱里がいいな。朱里の苦しむ顔は綺麗だから。
311 朱里:ふふ……嬉しい。
312 圭M:何も持ってない君を独り占めする俺。愛に飢えたこの子には沢山の蜜をあげよう。満たして、溢れさせて、最後は___。
<朱里が詩にメッセージを送る>
313 朱里:来週の土曜日。あそこで待ってるから来てね。あの話、しよう?
314 詩:朱里ちゃん!
315 朱里:あぁ、詩ちゃん。待ってたよ。
316 詩M:大学の屋上。普段は入れないはずのこの場所に、難なく入る事が出来る目の前の少女にただただ恐怖を覚えた。……私を見た彼女は笑っていた。
317 朱里:詩ちゃん、私に聞きたいことが山ほどあると思うの。……それ今なら全部答えてあげるよ。
318 詩:私は、別に……。
319 朱里:へぇ……いいんだ。どうして屋上のフェンスの事知ってるか、とか。答えてあげるのに。
320 詩:フェ、フェンスの事なんて……私知らない……。そもそも、私は真菜ちゃんの事なんて知らない!会ったことも、話したことも無いんだから!
321 朱里:じゃあ……なんで屋上にいたの?
322 詩:私は屋上になんて行って……!
<朱里が写真を詩に見せる>
323 朱里:これ、見せてもまだ知らないって言うの?
324 詩:これ……どうして……?
325 朱里:お義姉ちゃんと詩ちゃんが一緒に屋上に行ってる写真……これ警察に見せたらどうなるかな?
326 詩:辞めて……!
327 朱里:これでお義姉ちゃんと詩ちゃんが知り合いだったって事は分かったね。それで、どうしてお義姉ちゃんと屋上に行ったの?
328 詩:それは……その……。
329 朱里:あぁ、まぁいいや。先に詩ちゃんの質問に答えてあげる。どうぞ?
330 詩:……どうして、フェンスの事、しってるの。
331 朱里:あそこのフェンスのネジ、緩めたの私だから。
332 詩:……え?
333 朱里:いいね、その顔。……最高。
334 詩:どうして……私達がここに来るなんて誰も知らなかったはずなのに……。
335 朱里:ここはね、お義姉ちゃんのお気に入りの場所なの。だから、別に詩ちゃんがどうこうしなくても、いつかは死んでたよ。たぶん。
336 詩:……朱里ちゃんって、真菜ちゃんの事嫌い……なの?
337 朱里:うん、嫌い。大嫌い。お父さんの関心も、お母さんの居場所も、私の友達も、みんな奪っていったの。お父さんが仲良くしてって言うから仲良くしたけど、それがないなら別に。血の繋がりもない義姉をどうやって愛すの?
338 詩:朱里ちゃんと真菜ちゃん、血繋がってない、んだ。……知らなかった。
339 朱里:真菜はお義母さんの連れ子。だから、私と真菜は赤の他人。
340 詩:そう、なんだ……どうしてあの日、あの場所に私と真菜ちゃんが屋上に行くって知ってたの?
341 朱里:ん?そんなの知らないよ?
342 詩:だって、あの写真は……!
343 朱里:あれは防犯カメラの映像。ここに来るための階段に防犯カメラあるんだよ。……気づかなかった?
344 詩:……っ……。
345 朱里:ちょーと私のツテをあれやそれして、手に入れたの。お義姉ちゃんが屋上から落ちた日の防犯カメラの映像。これが私の元にあるから、今も詩ちゃんはこうして何事もなく過ごせてるんだよ?
346 詩:それ、は。
347 朱里:ねぇ詩ちゃん。……そんなに颯真くんが欲しかったの?
348 詩:……欲しかったんじゃない。取り返しただけだよ。……私のものだったんだから、取り返して何が悪いの?
349 朱里:……颯真くんが、詩ちゃんのもの?……あはは……あははは!!!ばっかじゃないの!!!颯真くんがあんたの方を向くことなんてありえない!
350 詩:……朱里ちゃんに颯くんの何が分かるの?
351 朱里:颯真くんは私のお義姉ちゃんの彼氏だよ?
352 詩:元、ね。
353 朱里:はぁ……いい加減気づきなよ、詩ちゃんにお義姉ちゃんは越えられないよ。
354 詩:なんと言われようと颯くんの彼女は私。それは譲らない。
355 朱里:じゃあさ、なんで颯くんって呼んでるの?
356 詩:それ、は。
357 朱里:颯真くんから拒否られたから。……違う?
358 詩:……。
359 朱里:ふふ、図星だね。
360 詩:……その通りよ。どうしてわかったの?
361 朱里:お義姉ちゃんが颯真って、呼び捨てにしてたから。呼び捨てが嫌いって訳じゃないのは知ってたし……あとはちょっと考えればわかるよ。
362 詩:そう……。
363 朱里:詩ちゃんはどうして颯真を奪われたって思ってるの?
364 詩:颯真はね、困っていた私のことを助けてくれた。『もう大丈夫だよ』って言ってくれたの。颯真は私の方を見てくれてた。なのに、あの女は颯真颯真って……憎たらしい。
365 朱里:ふふ……。
366 詩:何笑ってるの?
367 朱里:詩ちゃん、お義姉ちゃんのこと凄い嫌いじゃん。それが面白くて。
368 詩:面白いところあった?
369 朱里:お義姉ちゃん、大学入ってから仲のいい女の子が出来たって言ってたから。それが片思いだったなんて超惨めじゃない?
370 詩:……朱里ちゃんは真菜ちゃんと違って性格悪いね。
371 朱里:そりゃあ他人だもん。このくらいの歪みでちょうどいいんだよ。
372 詩:そう。
373 朱里:お義姉ちゃんの事殺すつもりだったの?
374 詩:いや、全く。ここに来たのも真菜ちゃんに誘われたから来たの。突き落とす気なんて無かった。ただ、ちょっとフェンスに押し付けただけだったのに。
375 朱里:なーんだ、そうだったんだ。
376 詩:何それ。
377 朱里:もっと殺意持って突き落としたとかの方が100倍面白かったのに。
378 詩:ほんと、歪んでる。
379 朱里:お褒めいただきどーも。……さ、帰ろっか、詩ちゃん?
380 詩:これから、どうするつもり?
381 朱里:どうするって?
382 詩:その、私の事。
383 朱里:別にどうもしないよ?
384 詩:本当に?
385 朱里:ただ……ちょっと手伝ってもらったりはするかも。
386 詩:それ脅しじゃない。
387 朱里:人殺しとして捕まらないだけいいでしょ?
388 詩:そうね。
389 朱里:これで、私と詩ちゃんは共犯者ね。ふふふ。
390 颯真:なぁ、圭。
391 圭:なんだよ、改まって。
392 颯真:お前、いつの間に朱里ちゃんと付き合い始めたんだよ。
393 圭:え?あぁ、最近?かな。
394 颯真:そうかよ。俺は言ってくれなくて寂しかったぞー。
395 圭:聞かれなかったから言わなかっただけ。
396 颯真:へいへい。いやぁ、お前と朱里ちゃんがなぁ。仲良いとは思ってたけど。
397 圭:まぁ、俺の相手ができる女は朱里くらいだろうなぁ。
398 詩:颯くん!お待たせ!
399 圭:ほら、愛しの彼女ちゃんのお出ましだぞ。
400 颯真:茶化すな!詩、ご飯食べに行こう。……圭またな。
401 圭:おう。……知らぬが花、だな。おめでたいやつ。
(終)