フランス人の疑問|なぜ日本の歩行者は絶対に赤信号無視しないのか?
筆者は現在、フランスの自動車学校で路上教習を受けているのだが、フランスで車を運転していると、改めて気づかされることがある。それは、 赤信号無視する歩行者の多いこと! だ。たとえ歩行者の信号が赤であっても、「渡れそうなら渡る」というのがフランスでの歩行者ルールのようだ。車の信号が青でも、スピードを下げすぎると次々と歩行者が渡ってしまうので、「もっとスピードを上げて!歩行者に渡らせないようにしなくちゃだめだ」と何度も教官に注意された。それほど、フランス人歩行者の赤信号無視は日常茶飯事なのである。 5445人の歩行者観察による調査結果 2017年2月15日にフランスで発表された研究でも、同じような結果が出た。ストラスブール(3か所)と名古屋市(4か所)の歩行者信号を渡った5445人の歩行者の行動を調査したものである。調査によると、41.9%のフランス人歩行者は赤信号でも信号無視して渡る一方で、日本人の信号無視はたったの2.1%であった。 この研究を発表したフランス国立科学研究センターの生物学者 Cédric SueurはAFP通信にこう説明している。 「日本とフランスでは文化が違うんですよ。社会のプレッシャーがね。日本人は交通違反罰金があるからルールを守るわけではないんです。日本人は周りからどう思われるかを気にしているんですよ。」 2013年にも動物行動学の専門家Marie Peléは同様の調査を行っているが、当時の調査ではフランス人歩行者の赤信号無視は67%、日本人は6,9%であった。 フランスでは社会にどう思われるか気にしない フランス人の疑問|なぜ日本人の歩行者は絶対に赤信号無視しないのか? Cédric Sueurは言う。 「明らかに車が通りそうにない信号の前でどう行動するかは、社会からのプレッシャーが関係しているんです。日本はフランスよりもそれが強い。」 しかし、この”社会のプレッシャー”のおかげで日本では違法信号無視が70%減少した。対するフランスは37%減少にとどまっている。 「フランス人はルールや規則を尊重する人が少ない。良いように言えば”自由”だから、歩行者は渡りたい時に渡るのだ。フランスでは社会や周りに同思われるかを気にする人が少ないのです。」 日本とフランスのどちらの国でも、男性のほうがリスクを負う傾向にある。実際に信号無視をしたり、ぎりぎりで決断するのも男性だ。生物学者 Cédric Sueurいわく、女性のほうが「より慎重で規則に従順」らしい。男性の違反者が40,6%なのに対し、女性は25,7%である。 「しかし、この男女の行動差は日本よりフランスのほうが強い」とCédricは説明している。 しかし、交通事故件発生数はほぼ同じ フランス人の疑問|なぜ日本人の歩行者は絶対に赤信号無視しないのか? 危険な行動をとる歩行者が多いフランスでは、さぞ交通事故も多いのだろうと調べてみたが、実際には日本もフランスも交通事故発生件数ではあまり違いがない。 公益財団法人交通事故総合分析センターの調査によると、2015年の日本での交通事故死亡者数は4,117人。同年のフランスは 3,461人である。2016年の調査では、日本の交通事故死亡者数が3,904人なのに対し、フランスは3,469人だ。 Cédricは語る。 「フランス人運転者は、予測できない行動をする歩行者により注意を払っているからでしょう。日本では歩行者は大体が赤信号で信号で止まるので、運転者も安心しきって停止準備ができていない人も少ないないのではないでしょうか。」 確かに、フランスの教習所では信号や歩道に近づいたら、ブレーキの前に足を軽く置いて、いつでも停止できるようにしておくようにと厳しく指導される。なぜこれが重要かというと、フランスの歩行者は”赤信号”を無視するのではなく、最初から信号を全く見ずに渡ろうとする人がいる少なからずいるからだ。 しかしながら、日本の社会のプレッシャーが歩行者の赤信号無視を防いでいると考えると、「周りにどう思われるかを気にしてしまうこと」も悪いことばかりではないようだ。しかし今度は、自動車運転者のほうが「相手もルールを守るだろう」と安心しきってしまうのが盲点となり、交通事故につながるというのは何とも皮肉な話である。 自分と同じように相手もルールを守ってくれるはずだ…と期待するのは危険なのだなぁと、この調査結果を知って改めて思った。