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ロマンチックな体験に関する考察

2021.10.10 03:36

by Motandhel

 日記に書くべきことではないかもしれないが、考えを整理するために書き記そうと思う(研究の成果を記録に残すまいと努めている僕の頭の負担を和らげるためでもある。もう一つ頭が欲しい)。

 アズルとの関係において予てより僕を悩ませているのは、僕がこれまで恋愛関係というものにおいて何の経験も積んでこなかったという問題だ。この前提的な問題は多くの副次的な問題をもたらしている。とりわけ今の僕を困らせているのは、如何にして彼をロマンチックな気分にさせるかという問題だ(婉曲的な表現をするつもりはなかったが、実際文章にすることを考えると意外なことに躊躇いが生じたのでこの表現を使うことにする)。

 僕たちはその日会ったときからロマンチックな目的でいるわけではない。少なくとも僕はそうだ。制作を依頼された盾を木工台でやすりにかけながらロマンチックな気分になる人はいるだろうか? ロリス・フラールの冷ややかな視線にさらされてそれを納品所に運びながらそんな気分になる人は? 実際には、僕はアズルの姿が視界に入っただけでとても嬉しい気分にはなるが、ロマンチックと呼べる気持ちになることは少ない(勿論ないわけではない)。

 だから僕たちが(少なくとも僕が)恋人同士として共に過ごす時間を楽しむためには、気分の切り替えを行う必要がある。アズルはこの切り替えがとても上手だ。毎回称賛したくなるほどに、彼は人をその気にさせる才能がある。

 一方僕は彼と静かな場所で並んで座っても、いつまで経っても今日あった出来事について話したり、自分の考えを話したりしてしまう。毎回後悔するのだがどうにも治らない。これまでの経験ではどんなやり取りをしていたか思い出そうとしてみたが、ほとんどが「すでにロマンチックな動機で二人きりになっている」ということばかりだったので、参考にならない。

 僕に必要なのは一体どんな知識だろう。或いはどんな行動だろう。この問いについて僕なりに考えた。正直に言ってこれは知識でどうにかできる問題ではない。恋愛関係という一種の人間関係において、汎用的なルールやメカニズムは存在しない。これは僕が研究の過程で偶然理解したことだ。

 そこで僕はこの問題にあらかじめ対処しておく手段を考えた。それは「環境を作る」ということだ。知識も能力もない僕は、会話やふるまいなど自分の力でアズルをその気にさせるのはとても無理がある。だから僕は彼と一緒に時間を過ごすための「ロマンチックな場所」を用意することにしたのだ(露骨だろうか? アズルにそれが嫌でないか先に聞いておいた方がいいかもしれない)。

 幸い僕はこれまでアズルと過ごした時間の中で、彼が心を動かされる情景やシチュエーションを少しは理解した。と思う。何より彼と体験したロマンチックな夜(あるいは朝、昼、夕方や、夜から朝にかけて、朝から昼にかけて、等)を思い出すことが大きなヒントになる気がする。いつもぼんやりしている僕をリードしてくれる彼を驚かせるようなことをしてみたい。

 ところでなぜこんなことを紙に書き記しているのだろう? このページはやはり破って捨てた方がよさそうだ。